第2話 緊張感 ─tension─

黒い光シュバルツリヒトに飲み込まれた俺は不思議な感覚に襲われた。そうそれはまるで母親に優しく抱かれている赤ん坊になった気分である。がしかし気持ちいい感覚から一転、地面に叩きつけられたかのような痛みが体を走った。


「いたっ!」


かすむ目に日が差し込んでくる、夜勤には少々手厳しいが何とか鳴らして見渡すとそこは草木の生い茂る森の中であたりでは聞き覚えのない鳴き声がこだましていた。


「おかしいな……俺はさっきまで家にいたのに……」


ガタガタと茂みが揺れる音に気付く


「ん?」


「エッサイ、シッシ、エッサイ、シッシ」


茂みの中から声の主と思わしき集団がわらわら出てくる。


「う・・うわっ!?んj・・なんじゃこりゃ!?」


肌は青く、背丈は膝ぐらいで頭には洋風な兜をかぶっている”そいつら”はとうとう俺を取り囲んだ。


「エッサイエッサイ」


見知らぬ場所に初めて見る生物、風も匂いもリアルに感じる。これがゲームだったらまずい要素なしだ。夢なのか現実なのか……。とりあえずそれを確かめるべく”そいつら”に手を伸ばしてみる。


「エッサイエッサイ」


「なんだこいつ、最初みたときは不気味だったけどよく見たら柔らかそうでかわいい目と口してて案外かわいいやつじゃないか。俺こういうペット飼ってみたかったんだよなぁ」


「エッサイエッサイ」


だが実際に触れる寸前になって烈風のごとく腕に噛みついてきた。


「ひょー^。^」


「い……いたっ……くない……?」


こいつらは歯がなく特に痛みは感じなかったが、無意識に振り払う。するとすぐさまに左足に噛みついてきた。これまた反射的に右足で蹴飛ばす

「わ……わりぃ、お前が噛みついてこなければ……」


しかしそこでなにか違和感を感じた。見てみるとそこにはあるはずのものがなくなっていた。母親にユニシロで買ってもらった長袖のシャツがボロボロになって肌が焼けただれていた。


「こいつに噛まれたら溶けちまうのかよ」


俺に急激な不安と恐怖が襲い掛かる。


「だ……誰でもいいから助けてくれ!」


痛切な叫びが森の中に響く。


「エッサイエッサイ」


が悪魔たちはその青い顔色を何一つ変えずにかみつくべくとびかかってくる。際限なく来る襲撃を振り払うのに精いっぱいで逃げることができない。本格的にやばい、そう思ったそのとき1本の剣が悪魔の群れを切り裂きながら足元へと飛んできた。


「青年よ、それで戦え」


声のほうを振り向くと体の大きさに合わない白のニットと青のジャージのズボンの間には嬉しくないヘソちらと鍛え上げられた腹筋が見えた逆三角形の体系の大女が佇んていた。大女の顔を見ようと目を向けると突然激しい痛みが頭を襲った。


「っ……」


たまらず膝をついてしまう。青い悪魔たちが俺を溶かそうと再び襲い掛かろうとしたとき大女の蹴りが悪魔たちに炸裂した。大女はその見た目とは反して素早い動きで悪魔を狩る。薄れてゆく視界の中で一方的な暴力を悪魔たちに振るう大女。これが狩るものと狩られるものの違いか。圧倒的な力の差を目の当たりにしながら俺は意識を失った。


                   ━━次枠へ続く



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