初恋・涙

栞月 ねこ

さよならまでの期間

「俺、君と話せて楽しかった。」

「はい。私も、先輩と仲良くなれて良かったです。」


卒業式のあの日、貴方は私の前から消えてしまった。


笑顔の挨拶、笑顔の会話。でも本当はこれが最後で、貴方との時間は特別、かつ短かった。


貴方が私に言う「君」と、私が貴方に言う「先輩」が、ふたりの距離を遠ざける。

私は後輩、貴方は先輩。先に行ってしまうのは、もうわかりきっていたはずだ。


貴方は『たった1年だよ、すぐ同じになるって。』と言うけれど、私にはその1年がどれだけ悔しいか。


他の人に目移りする貴方を見たくない。


他の人と手を繋いで、笑顔を見せてる貴方。想像しただけで、おかしくなりそう。


「先輩、私のこと、忘れないでくださいね?」

「もちろん。君のことを忘れるなんて、ありえないよ。」


優しい貴方。


今その優しさが辛いなんて、言わない。


「先輩、あの」

「なんだい?」

「あ、あの。その……」

「おーい、集合写真とるからこっちに来い!」

「な、なんでもないです。呼んでるみたいですね、それでは。」


沢山の人で賑わっている玄関前を、手をぎゅっと固く握り、足早に駆け抜ける。


貴方にはやっぱり、言えない。


怖い。


貴方の『ごめん。』が怖い。

聞きたくないの、そんなこと。


春、初めての生徒会で貴方に出会った。

仕事を早々とこなす貴方がかっこよくて、もうその時には特別な感情が芽生えていた。


夏、隣には貴方がいることが多かった。

夏祭り、会って一緒に回った。何度か勉強会もした。でも貴方には、隣にいるべき人がいた。


秋、貴方との生徒会が終わった。

心の中で、貴方との別れが近づいていることがわかった。本当に、辛かった。


冬、これが最後の日。

最後の日なのに、私は言えなかった。

もう、会える保証もないというのに。


「もう会えないの……?」


涙が、ひとつ。


つーっと落ちてきた。


「……っ……先輩……。」


途端に零れる、涙。

声を上げて、誰もいない細道で泣いた。


あれ以来、先輩とまともに会うようなことは無かった。

そんな私も、今では彼氏ができて幸せな毎日をおくっている。


あの日私が流した涙は、最初で最後の恋の涙だった。

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初恋・涙 栞月 ねこ @neko_neko

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