オオカミ少年
保護フィルム
オオカミ少年
--------「オオカミが来るぞ!」少年が叫んでも、もう誰も振り向きはしない--------
ある朝、貧しい羊飼いの少年のもとに、1通の手紙が届いた。
「本日午後3時、ビジネスの話をしに伺います。この事はくれぐれもご内密に。追伸 小生犬を苦手としていますゆえ、どうか牧羊犬は繋いでおいてください。」
署名はされておらず、送り主は判らない。おまけに切手が貼られていなかったため少年が薄い財布から不足料を払うはめになった。
どうにも怪しい手紙だが、彼は茶の用意をして待つことにした。盗られるようなものは持っていないし、いい加減羊と犬と毎日ぼんやり過ごす退屈な日々に飽いていたのだ。
午後3時、小屋に繋いだ犬がやたら吠えたてるので、彼は様子を見ようと扉を開けた。すると-------
「どうも初めまして。わたくしとなり森のオオカミクランより参りました
少年の驚きを想像していただきたい。2本足で立ち、三つボタンの高級そうなスーツを着こなし、手にはスーツケース、泥汚れ一つない革靴を履いている。そんなオオカミなどいるだろうか?しかし目の前の、挨拶を終え深々とした礼から頭を上げた存在は、確かにその出で立ちをしていたのだ。
「あ、あの…その、初めまして。
スーツケースを床に置き、椅子に腰掛けたオオカミは早速話し始めた。
「お顔をつねったり唾をつけたりする必要はございません、我々オオカミはキツネとは長らく敵対関係にありますから……。まずは先に差し上げたとおり、犬を繋いでくださったことを感謝します、放してあるとどうしても近づけませんので。手紙が手違いなく届いたようで安心しました」
「その、すみません、もしかするとそちらの社会にはないのかもしれないんですが、切手が貼ってなかったんで、お金をとられてしまって…」
あまりに相手の腰が低く、切手のことなぞ言い出すのは気が引け、少年しどろもどろである。
「これは失礼を致しました、ではこちらで代金の代わりとさせていただきましょう」
スーツケースを開き、オオカミが取り出したのはなんと金塊だった。
「今回わたくしが参ったのは他でもございません、」
少年は驚きのあまりもはや言葉も出ない。
「この金塊についてのお話をするためでして。最近、キツネどもから奪い取った縄張りの中で金が採れることがわかりました。しかし、我々の間ではこんな硬い食べられないものなどには価値がないのです。そこでです、どうかそちらの羊とこちらの金との取引をさせていただけませんか?」
「えーと、羊は毎週末親方が勘定するんで僕がどうこうするわけにはいかないんですけど…。そういうことなら親方に話したらどうです?」
「いいえ、あの大人は頭が固く到底相手になってくれません。同じようにして訪ねたのですが私を見るなり話も聞かずに犬をけしかけ銃を撃ってきたのです」
「…親方がすみません」
「貴方に罪のあることではありません、お気になさらず。
話を戻しましょう。貴方がたのように高度な文明を築いてこそはいませんが、我々オオカミとて馬鹿ではありません。ちゃんと策を練って参りました。貴方にさえ協力していただければ成り立つ策を、です。」
普段から親方に乱暴に扱われ、搾取されパンと水だけの生活を送っていた彼の答えは一つだった。
「やります、どうすればいいんです?」
次の月曜日。
少年が叫んだ。
「オオカミが来たぞー!」
村の大人たちが手に武器を持ち駆けつけてきた。
「どこだ、どこに来たんだ」
「あそこです、ほらあの黒いやつ」
「あれは岩だよ、オオカミじゃない」
大人たちは帰っていった。
火曜日。
少年が叫んだ。
「オオカミが来たぞー!」
「どこだ、どこに来たんだ」
「あそこです、ほらあの黒いやつ」
「あれは茂みだよ、オオカミじゃない」
大人たちは少年を軽く小突いて帰っていった。
水曜日。
「オオカミが来たぞー!」
「どこだ、どこに来たんだ」
「あそこです、ほらあの黒いやつ」
「あれは木の蔭だ、オオカミじゃない」
大人たちは少年をひっぱたいて帰っていった。
木曜日。
「オオカミが来たぞー!」
「いいや、あの坊主の見間違いだろうさ」
大人たちは来なかった。
しかし、オオカミたちは来ていた。
あとには忽然と姿を消した羊よりなお大きいほどの金塊がいくつもいくつも残されていた。
金曜日。
親方が羊を数え、ついでに少年をぶん殴りに小屋へ来ると、そこには手紙1枚残して誰も、何も残っていなかった。羊1頭さえも。
「僕は金持ちになりました、さようなら。もう会うことはないでしょう」
オオカミ少年 保護フィルム @P_film003
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