第二話 微笑みの紅き少女

俺は今、無数のコウモリに引っ掛けられる形で空を飛んでいる。

今から十分程前、俺を救ってくれた少女から手間が省けた、その一言と共にコウモリに捕まった……。そして恐らくは、彼女の塒まで運ばれている。


「あの……、手間が省けた、とは」

「そのまんまの意味よ?奴隷を一人飼おうと思っていたけれど、日中は歩いてるだけで気怠くなっちゃってね。今日はもう帰ろうかなー……って思っていたら、ハーピーの汚らしい声が聞こえてきたって訳よ」

「そこで、何か襲ってるのかっと思って?」

「いいえ?ヒトが居るとは思わなかったわ。ただ、五月蠅いから裂いただけ」


どうやら俺は気まぐれで救われたらしい。

とは言っても餌にされないのであれば大助かり……、この吸血鬼ヴァンパイアには、どうやらヒトに理解を示してくれているようだし、少しばかり話をして―――


「やっぱり新鮮なヒトの血よね。私たち吸血鬼にとって大好物だもの」


ふふっと小さく笑みを零しながら少女は翼を羽ばたかせながら飛んでいる。

―――前言撤回、俺はやはり餌になってしまうようだ。


「まま、待ってくれ!」

「?、別に殺しはしないわよ。もったいない。ヒトって少ないし、絶滅されると困るのよ。特に貴方みたいな若い人はね。……血の匂いも格別だし。」


此方の意図に気付いたのか安心させるように微笑んでこられると、抵抗する気が失われてしまう。吸血鬼と言うものは美貌も特徴的な種族だ、幾ら異種族とはいえ、可愛い女の子に微笑まれるのは弱いというものだ。


「どうやら安心出来たみたいね?それじゃあ、空の旅を楽しみましょう?」

「お、おー……」


照れた顔を隠すように下を向くが、空から見える景色に、体中の筋肉が萎縮する。俺はこの少女のコウモリに命を握られているのだと思うと、恐ろしさと同時に亜人に対する好奇心も増していく。


「ところでヒト。何であんなところに居たの?」

「あー……、薬草とか毒草とか、そこらへんの採取に行ってたんだよ。ハーピーとの遭遇で落としたり使ってりで全部失ってしまったけれど」

「へえ、毒草ってハーピーに効いたのね。まさか、純血ピュアブラッドのままでハーピーの一匹を落とせるなんて。貴方、結構優秀なヒトなのね」


褒められて思わずニヤけてしまう。これまで誰かに褒められたことなんて滅多に無かったし、それに俺は亜人が大好きだ。もちろん、恐怖もあるし、危険な相手だって分かってはいる。それでも、ヒトと亜人は共存出来ると、俺は15歳の時から信じている。


「褒められて嬉しかったの?噂とは違ってヒトって可愛いところもあるのね」

「うぐっ。こ、これは……その、理由わけが――」

「良いじゃない、別に。それくらい感情豊かな方が楽しいわ」


少女の紅い瞳に吸い込まれるように俺の心は昂り続ける。

どうにもペースを乱されるのは、魅了の瞳チャームポイントの力なのだろうか、俺はその瞳術どうじゅつに引っかかっている……のだと思う。

精神支配系は自分では判断し難いから厄介なもんだ。


「ほら、見えたわよ。あの城が貴方の新しいお家。気に入りそう?」

「……あはは。気に入るよ、間違いなく」

「良かった♪それで、貴方、名前は?私はパーシス。『パーシス・ブラッドメア』」

「パーシス、様ね。俺は『ユート』、それ以外の名はヒトには無い」

「ユートね。よろしくね、これからの私の第一眷属けんぞくさん?」


コウモリの羽音と共に俺は"城"へと運ばれる。

山頂にある黒石で作られた城で起こなわれる儀式に、俺はまだ気づくことはできなかった。

ただ、この日から俺は奴隷ではなくなり、眷属として生きていくことになる。

パーシスという紅き吸血鬼の少女の下で


「あぁ、よろしく頼むよ。パーシス様」


∞∞∞

会話文が多くなってしまった……。文章はもっと長くても良いのでしょうか。


ある意味ここまでがプロローグになるかもしれません。

これからも更新し続けますのでよろしくお願いします。

次回、吸血回

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亜人社会の半魔生活 もはぬる @daddyheat

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