終章
友達
そうしてあまりにもあっけなく、全ては終わりを迎え、全ては元通りになった。失踪した人や、殺害された人は、何故か何事も無かったかのように生還していた。連続失踪事件は犯人が見つからないまま終わり、一週間ほどで学校始まった。
モアに食われてからの記憶は、みんな失っているらしい。
だから本当に、何事も無かったかのような日常が戻ってきたのだ。
警察は事件の真相を追い続けているらしいが――まあ、真相が解明されることは無いだろう。
「久しぶりの学校、楽しみだね!」
「いや、僕としては休みが続いてくれた方が良かったんだけど……」
学校が再開した初日、僕は清水さんと一緒に登校していた。モア退治をしていた頃と同じように、清水さんが僕の家まで迎えに来たのだ。
「どうして? 寂しくなっちゃうよ? ここにいたくない、って思っちゃうよ? またモアが出てきて大変なことになっちゃうよ?」
清水さんはいつか僕に向けてくれたのと同じような顔で、僕を心配そうに見つめた。
「いや――もう、モアは出てこないと思うよ。僕は、大丈夫」
「そうなの……? でも水石くん、友達もいないし……」
「…………」
なんかものすごく傷ついた。
清水さんにそういうふうに思われていたことが、今になって無性に恥ずかしい。もしかしたら、他のクラスメイトにも思われているのかもしれない……いや、思われてるんだろうな。
いや、まあ、確かにそうなんだけど、その通りではあるんだけど、でも――
「じゃ、じゃあ、清水さんが友達になってよ」
「えっ!?!?」
…………。
清水さんはものすごく驚いていた。
いや、僕自身も驚いた。まさか僕が清水さんに対して――いや、誰に対してだとしても、こんなセリフが言えるとは思っていなかったからだ。
清水さんも、僕の口からこんなセリフが出てきたことに驚いたのだろうか。
「で、でも……、わたし、他人の気持ちなんて少しも考えないような人なんだよ……?」
あぁ、そういえば言っていた。モアが出てこないために、『ここではないどこかに行きたい』と願わない為に、彼女はわがままで自分勝手に生きているのだった。
でも、そんなはずは、無いのだ――。
「他人の気持ちを考えていないような人は、他人に対してあんなに心配そうな顔は出来ないよ。僕が初めてモアを見て吐いていた時も、その次の日も、全然話したことも無かった僕に、あんなに心配そうな顔をしてくれたでしょ?」
「…………」
「そこまでして、自分を変える必要は――自分を騙すように自分勝手に生きる必要は、無いと思うよ。清水さんだって、最初は一人でモアの調査をしていたぐらいなのに」
「そ、それは……、水石くんが最初にモアを倒してるところを見て、なんか安心したからなの――」
「えっ――」
「わたしが自分の性格を無理矢理変えてまで、もう二度と見たくないと思ってたモアを、水石くんが簡単に倒してるのを見て――なんか安心したの。だから、大丈夫かな、って」
「…………」
「でも、やっぱりだめ。今度わたしのせいでモアが出てきた時、水石くんと同じように出来るとは思わないもん。やっぱりモアは怖いよ。わたしは、わたしじゃだめなんだよ」
僕は胸が痛くなった。それじゃあ、自分で自分を殺しながら生きているようなものじゃないか。そんなことがあっていいわけない。清水さんは、清水さんのまま、生きていくべきなのだ。
だから――。
「だ、大丈夫だよ……! またモアが出てきても、僕が何とかするから! 僕が――」
僕は、今まで何度も繰り返してきた言葉を、もう一度言った。
「僕が、清水さんを守るから」
「ふふ。なんかかっこいいね、それ」
清水さんは笑いながら「友達になろう」と言って、僕の手を握った。
マイユートピア 飴雨あめ @ame4053
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