喰葉2


「……」


「いやー、それにしても眼帯さんはまともだねぇ」


まともじゃないやつの筆頭千寿に言われたくないわっ!」


最後の最後でこう叫んだのにはいくつか理由がある。


ーーーーーーー


「では、私はドアマンとしての仕事がありますのでこれで失礼させていただきます」


「じゃあねー、案内さん」


千寿が手を振って天満を見送るとすぐに千寿のすぐそばに虚無がついた。千寿は何事もないように廊下を進んでいく。


「え、ついていけばいいのか?」


チリーん


虚無が鈴を鳴らす。


「うんそうだよーだって。っていうかっ!部屋まで案内しないと迷子になるよー。ここ意外と広いし」


「(頷く)」


「りょーかい」


そのあと普通に部屋に着いてベットにダイブ。今までのことを整理した。


ヘルシーホテル。自殺した未練のある人がたどり着く場所。そして未練がなくなればチェックアウト、つまりは成仏できると。しかし、ここにいる人は何かしら抱えているものがある。自分はどうなのかと言われたら、ない。そんな未練になるような記憶がないのだ。千寿は言っていた。記憶がなくなる人が大半だと。自分の場合は記憶がなくならず、しかも未練がない。どうやったらチェックアウトできるのやら、いや、チェックアウトしたいのだろうかわからない。


まぁ、今日は初日なんだゆっくrピピピピピピピピピピピピーンポーン


「何回推してんだっ!」


『十二回だよっ』


「へーそうか……じゃねぇッ!呼ぶんなら一回でいいだろっ」


『二日酔いで酔った人を起こすときの必殺技だよっ』


「へーそうか、俺酒豪だからそれをやるなよ」


『……っち』


「舌打ちすんなよ」


ごッ


「きゃう……いたい」


案の定、開けるとそこには自分がドアを開けるときにぶったのかおでこを抑えた千寿がいた。そしてその後ろにはもちろん虚無。手には消毒液とばんそうこう。


「なに、常に持ち歩いてんのか?」


「(頷く)」


「過保護だなッ!?」


いそいそと千寿のおでこを消毒し、ばんそうこうを張り付ける。そこでキャラバンだったらもっとよかった……じゃないわ。


「何のようだ?」


「んーとね、今の時間だったら結構いろんな人と会えると思うんだよね。だから挨拶に行こうー!」


「俺に選択肢は?」


「ないっ」


そう千寿が言うと、虚無が後ろでロープを用意していた。いやな予感が……


「じゃ、いこっ」


ーーーーーーー


「千寿ぅ……何虚無に引きずらせてんのさ?」


「あ、酒乱さん。新入りくんだよー、新入りの眼帯君っ!」


「むーむーむっーーーー!」


食堂まで引きずられたがそこまでに誰とも遭遇しなかったのは救いだろう。


「あんたねぇ、あいかわらずねぇ……」


「酒乱さんさけくさーいっ」


「てめぇら……そろそろ離せよっと」


前世に鍛えた縄抜け技術をフル活用し脱出。虚無が捕縛術の使い主じゃなくてよかった。


「あっ!ぬけたー!」


「ほう、上手いもんね」


千寿が話していた相手は褐色の肌で赤髪の女性。手にはアルコールが度きついお酒。そして一切酔っていない様子。むむ、これは結構強いのか?


「喰葉だ。お酒は結構いける」


「お、そりゃいい。あたしは陽炎。よろしくさね。じゃ、景気づけにいっぱい」


テーブルに置いてあったコップを取り、とくとくと注ぐ。千寿は近くのウエイトレスになにかを頼んでいた。そして椅子を二個占領し寝そべる。


「ほい、どうぞ」


「いだだく」


ごくごくと飲む。うん、うまい。


ガシャーンッ!


「うわわわっ!すみません、すみません!」


後ろで誰かが何かを落とし謝る声が聞こえた。振り向くと金髪の青年が軽く涙目で千寿に謝っていた。


「あはは、ドジっ子くんは私に対して毎回やるよねー」


「(どこからともなくタオルを取り出し拭き始める)」


「どこから突っ込めばいいのかわかんねぇ!」


ひとまず、こぼしてしまった青年の方へ行く。したにはコップの破片が散乱していた。このまま触るのは危ないな。そう思い黒い手袋を取り出し着けて破片を持ってくるのに使ったであろうトレイにのせる。


「あわわ、すみませんっ……僕がやってしまったのに……」


「別にいいよ。こういうのは手を貸した方がいいし」


「新入りさんは底抜けに優しすぎるねぇ」


陽炎さぁん?酒飲みながら笑って言わないでくれないかな……。結構気にしているところなんだから……


「新しく入ってきた方だったんですか?」


「あぁ。喰葉だ」


「僕は雨汐うきよと言います。よろしくお願いします」


「あぁ、よろしく。っと、そこにもあるぞ」


そういう風に片付けているとガサゴソと何かを脱ごうとする音が聞こえた。


「ちょ、千寿!何してんだ!」


「え、何って脱いでるんだけど……」


「年頃の女の子がそんなことをしてはいけません!」


「死んでるのに年頃って……ぷふっ」


「陽炎さんは一回黙ってくれ!」


「ぼ、僕もう一回ジュース持ってきますね!」


「雨汐くんはいなくならないで!マジで収集つかなくなるから!」


「なーんか、面白いことしてるっすね!」


新しく星型サングラスをかけた日に焼けた青年が現れた。


「……ちょっとお前ら1回黙れっ!」


ひとまず大きな声で事態の収集を図ることにした。



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ヘルシーホテル はシまゆキ @siki0723

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