追憶

「ねぇ、あなたのお願い決まった?」


 真っ白いシーツのベッド、真っ白い漆喰の壁。

 白で埋め尽くされた、小さな病室に私は居ました。

 声を掛けられて、私は先程まで読んでいた本を閉じます。


「お願いって言われても……」

「何でも良いのよ。あ、わたしが出来そうなことだけだけどね」


 私は何でもと言われて、視線を手元の本へと移します。

 私の世界はここだけでした。

 現実に良いことなんて何一つもありません。

 本を読むこと以外は、退屈な事ばかりでした。


 本と白い世界が私の世界でしたが、少し前の事です。

 私の前にお願いを叶えるという女の人が現れました。


 初めは信じなかった私ですが、彼女は私以外の人間には見えないようで、不思議な光景を目の当たりにした私は、信じることにしました。


 ただ、私は迷っていました。

 他の世界を知らずして、どんな願いを叶えられるというのでしょうか。

 フォトジェンとニュクテリスのように外に出る切っ掛けすら、今の私にはありませんでした。


 ……いや、これはただの言い訳なのかも知れません。

 私はあまり前向きじゃありませんでした。


「山田さんは何をお願いしたんですか?」

「え? わたし?」


 参考にならないかと、ベッドの前にいる女の人、山田さんに私は訊ねます。


「山田さんも同じように、お願いを叶えて貰ったんですよね?」

「ああ、そうね。わたしのはお願いと言うより、協力して貰った様な感じかな」

「協力?」

「わたしね、こう見えて学校の先生だったの。その年に受け持ったクラスにちょっと問題があってね……」


 軽く聞いてみようと思っただけでしたが、山田さんはなんだか言いにくそうな様子でした。


「問題、ですか?」

「……酷いいじめがあったのよ。それでね、いじめをなくすように協力して貰ったの」


 ちょっとやり過ぎちゃったけどね、と山田さんは言って笑いました。


「山田さんって学校の先生だったんですか」

「そうよ。担任を持てたのが最初で最後だったけどね……」


 山田さんはどこか寂しそうに言いました。

 初めての担任だったのに、のが心残りなのでしょう。

 そんな山田さんを見ていた時、私にふっとある案が頭の中で思い付きました。


 学校の先生と、学校へ行けていない私。

 きっとこれは、巡り合わせなんじゃないか。そう思いました。


「あの、」

「ん?」

「お願い、いいですか——?」

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