第4話 例:「知ってる? あの子がつけてるチェインアーマーってゴブリンからドロップできるヤツよ! 売ったら100Gの安いヤツよ!」
「たああっ! 叩き斬る!」
勇者がジト目で見つめる先にはレベル5の剣士がいる。
「あいつ……新顔だ……」
この勇者はすっかり“はじまりのどうくつ”のお局さんになっていた。
勇者は己の手中にあるヌメヌメのとれないロッドと、たった今スライムを倒したばかりの剣士の手中にあるソードとを交互に見ている。その情けない目、やめろよ。おまえは勇者だろ。
あの剣士の顔は初めて見たからきっと最近駆け出しはじめた剣士に違いない。勇者よりも遅く駆け出したのに今じゃ世界の勇者を超えてレベル5か。いいご身分じゃないか。身分でいったら、勇者のほうが高貴な気がするのは俺だけでなく勇者も同意見のようだ。ただし剣士のソードを見る目に羨望が込みきっているのは隠せていないが。
「あいつ……買ったのかな」
ソードのことだ。
「買ったんだよな……」
こくおうから武器を譲られたのは自分だけであると自分に言い聞かせたいようだった。そんなことでしか優越感に浸れないのか、おまえは。
「でもあのソード……こくおうが見せてくれたやつとカタが同じだな……」
まるで友だちのファッションチェックを欠かさない女冒険者のようだ。訊けよ。直接訊けよ。そうやって遠巻きに舐め回すように見るあたり、まさしくタチの悪い女子だ。「あの防具ってあのブランドの◯◯の時期に売ってたヤツよね」なんて言いそうなくらいに女子だ。
「型番……までは見えないな……0001だったら間違いなくこくおうが見せてくれたやつなんだけど……」
女々しいうえにチャチかった。人としての器がチャチかった。ただのソードに型番なんてあるのかよ。そんなところまでチェックしてたのか、おまえはあの時。
「ようし。ここはオレもレベルアップして、後輩にいいとこ見せるぞ!」
気を取り直した勇者はそれでもチャチさを拭えきれないが、とにかく目先のスライムを倒すことを先決とした。どうやらレベルアップするしかダンジョンの後輩に格好つけられないらしい。まったく情けねえ。金なし・甲斐なし・情けなしの三拍子そろった勇者は自らスライムにエンカウントしていった。
「たああっ! ファイア!」
悪いな。俺も命中率はあってないようなもんなんだ。俺は今日も狙いのスライムから大幅に逸れるが悪気はない。そう、悪気もないんだ。
次のターン、勇者はスライムのこうげきを喰らった。10ダメージだ。勇者の残りHPは20だ。さて、次こそ当ててやるから覚悟しな、スライム。
「なっ!?」
次に勇者のターンが回ってきたかと思いきや、勇者はまたも仰け反った。
おい、なんなんだ。一体どうしたってんだ。驚きのあまり勇者はそのまま仰向けに倒れた。
「……連続こうげき……だと……?」
残りHP10になりながら、勇者は地面から起き上がる。連続こうげき? ウソだろ、このスライムが?
「どういうことだ……今まで、こんなこと……一度もなかったのに……」
今度こそ勇者のターンが回ってきたらしい。しかし勇者は攻撃の手を止め、ひどく動揺しながらスライムを見る。
なんだか……いつものスライムじゃない……?
「ま、まさかッ」
カラーンッと気持ちのよい音を立てて勇者のロッドは地に落ちた。
「スライムが……レベルアップしているッ……!?」
うなだれるように膝から崩れ落ちた勇者。地面に這いつくばって頭を抱えているさまはまるでこの世の終わりを迎えたような絶望感を漂わせている。終わりどころかはじまったばかりなのにだ。
「なぜ……いったいどうして!」
よもやはじまりのどうくつで終焉を迎えようとはあっけない。勇者の冒険もここまでか。
しかしスライムがレベルアップした理由がわからない。勇者の涙をはじまりのどうくつが吸い込んだ、その時だった。勇者はハッと何かに気付く。
「あの剣士が! レベルアップしたから!」
そして勢いよく起き上がった。
「剣士に合わせてダンジョンもレベルアップしたんだー!」
アアーッと断末魔を上げた勇者は悲しさとショックのあまりふたたび地面に倒れた。忙しいやつだな。
それが待機行動と思われたらしく、自動的にスライムのターンになり勇者はまたしても連続こうげきを受けた。
そして勇者は今日も目の前が真っ暗になったのである。倒れた勇者を先ほどの後輩剣士が王都まで運んでくれたことは、気絶している勇者は知るよしもない。
勇者のレベルが上がらないのはいつだって魔法のせいだった 急式行子 @kyushikiyukuko
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