サンタとヒーロー

なかがわ

サンタとヒーロー

 ぼくは手紙をいっしょうけんめい書いているところ。

 手紙には、さいしょに、この一年間でがんばったことを書く。お皿洗いがうまくなったこと。けんかでユウくんに勝ったこと。などなど。

 でもそれだけだと、ただのじまん話になっちゃうから、次にがんばることもたくさん書くのがかんじんだ。このまえミレイちゃんを泣かせちゃったからもっと女の子にやさしくしようと思うこと……。あとなにかなあ。

 欲しいものを書くのは、さいご。さいしょからおねだりだと、サンタさんもやる気をなくすから。

 そういうコツはママに教えてもらった。いまもママがいたらいろいろ聞きながら書けるけど、まだ仕事から帰ってきてない。

 ピンポンが鳴ったから、手紙をやめてドアの穴からのぞいてみた。

 ママじゃなくて、ぼうしと服が赤くて白いひげがあるから、サンタさんだ。

 ぼくはドアを開けた。サンタさんは靴をぬいで入ってきて、ぐるぐると部屋をみまわしている。白いリュックサックみたいなのをしょっていて、プレゼントが入っているのかなとワクワクする。

 でも――

 どうしようと思ったけど、ごまかしてもむだだから、ぼくは小さい声で正直に言った。

「ごめんなさい。手紙はまだとちゅうなんです」

「おっと、早く来すぎたか。途中でもいいから見せてごらん」

 声をきいて、去年までと同じサンタさんだなとわかった。

 とちゅうの手紙をおずおず出すと、サンタさんは目をほそくしてゆっくり読んだ。

「男まさりなんだな! 母親似かね」

「えっと、ぼくは男の子みたいにママを守るから」

「ん。そうだな。男は……守らなきゃいかんよなあ」

 サンタさんはちょっと考える顔をしてから、にこっと笑って、手紙をポケットにしまう。

「あっ、まだとちゅうなんです」

「構わないよ」

「でも、欲しいものまだ書いてないんです」

「そうか、それは大事なことだもんな。よし、じゃあこれはどうだ」

 サンタさんはふふんと鼻を鳴らして、白いリュックサックの中からうさぎの人形を取り出した。

 ぼくは勇気を出して、首をよこにふった。だってサンタさんがどうだっていうのを断るのはよくないっておもったけど、でもぼくが欲しいのはそんなのじゃないから。

 プリティプリンセスのきせかえデラックスも。

 アクセサリーがじぶんで作れるおしゃれキットも。

 サンタさんはちいさい声で、やっぱりだめか……とつぶやいたから、ぼくはほんとうにもうしわけなくなった。

「じゃあ、何が欲しいのかな?」

「……500円玉」

 イヤシイから良くないとママに言われていたけれど、どうしてもこれがいちばん欲しいから。

「はい、え? 500円?」

 はずかしくて顔があつくなって、ぼくは早口でせつめいした。

「銀河戦士スパイジャーのつるぎを買うんです。魔王とたたかうのにつるぎがいるんだけど、おかねためてるんだけど、あと500円足りなくて。おとといカエル堂でラスイチってなってたから、いそがないとなくなっちゃう」

「おお、それは急がないと大変だ! でも安心しなさい。なんたって俺はサンタだから、そのつるぎをプレゼントしてあげよう。じゃーん……」

 ぼくは慌てて、

「あっ、待って、だめだよ。欲しいものはじぶんの力で手に入れろ! ってスパイジャー言うもん。だからちゃんとじぶんで買わないと」

「えっと。でもサンタにならもらってよくないか?」

「だめだよ、だめ。それだったらぼくはにせものヒーローになっちゃて、魔王をたおせないよ!」

 サンタさんの眉毛がひゅんとさがって、面白い顔になった。その顔のまま、おさいふの中から500円玉をとりだした。ぼくのてのひらに乗せてくれた時には、またにこっと笑ってくれた。

「殊勝なこった。さしずめ魔王は俺ってところかな?」

 言ってることはよくわからなかったけど、ぼくの気持ちをわかってプレゼントをくれたからとても嬉しくなって、ぼくは500円玉をにぎりしめた。

「ママを守れ。強くなれよ。男の子でも女の子でも強かったら大事な人を守れるからな。大人はみんな弱いんだ。だから、大事なのに傷つけたり、娘を息子に仕立て上げたりする……」

 サンタさんはぼくの頭をなでて、立ち上がると、またきょろきょろと部屋をみまわした。

 ぼくはふっと不安になって、ドアから出て行こうとするサンタさんのそでをひっぱった。

「ぼくとママは来年ひっこしをするんです。ちがう県に行くんです。でも、あたらしい県にも、サンタさんきてくれる?」

 サンタさんは、にこっと笑っただけで、なにも言わずに帰ってしまった。

 ぼくはしばらく500円玉をながめていたけれど、そういえばお礼を言ってないって気がついて、あわてて追いかけた。

 そしたら交差点のところで、サンタさんとママがぐうぜん会ったみたいだった。青信号になっても道をわたらないで、ずっとお話している。ママの顔は見えないけど、サンタさんの眉毛はひゅんとさがっている。

 なんだかじゃまをしたらいけないような気がしたから、ぼくはそのままうちに戻った。


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サンタとヒーロー なかがわ @nakagawa

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