子を抱く

 かたく分厚い殻にルチアナは手を這わせる。足元には藁が敷き詰められ、身じろぎするたびにかさかさと音を立てた。

 ルチアナが抱いているのは巨大な卵だ。まるで鳥の卵のように分厚い殻を持ったそれは、ある朝ルチアナが目覚めると家のそばに忽然と現れ出ていた。

 やっと抱えることができそうなほどの巨大な卵に、最初彼女は戸惑ったが、いそいそと卵の周りに藁を敷いて、産屋を建てる巨龍の眷属たちを見ているうちに、それが己と巨龍のこどもなのだという実感が湧いてきたのだった。


 ら、らら……。

 腕の中で卵が脈打っている。ルチアナは子守唄を歌いながら、ざらざらとした卵の表面を優しく撫でる。卵は言葉を返さなかったが、ルチアナには嬉しそうに耳を傾けるこどもの姿が見えるように思えた。

 岩の上の巨龍が音もなく首をもたげ、するすると地面へと降りてきたのはその時だ。

「ニブ様」

 ルチアナは夫たる巨龍を見上げる。巨龍は愛おしそうにルチアナが抱く卵を見つめた。

「元気な子が生まれてくるといいですね……」

 巨龍はぐるると鳴くと、まるでルチアナたちを守るようにぐるりととぐろを巻いた。

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陽に焦がれる 黄鱗きいろ @cradleofdragon

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