星降る夜に

「ニブ様」

 少女はいつだって青年の背中を追って名前を呼ぶ。決して向かい合うことはしない。恐れ多くて、滅多に目を合わせることもできない。

 だけど少女は巨龍の名前を呼ぶ。

「ニブ様」

 振り返られることを期待してはいない。

 たとえ足が萎えていようとも、いつだってぴんと背筋を伸ばし、盲いた瞳で遠くを見つめている。

 青年はそういう気高い生き物なのだから。



 ある満月の夜。常は月に付き従っている数多の星々が、尾を引いて落ちてきた夜。

「ニブ様、見てくださいニブ様!」

 降り注ぐ流星群を前にして、ルチアナは天に手を伸ばし、はしゃぎまわっていた。

「すごいですね、ニブ様!」

 青年の姿を取った巨龍も同様に星を見上げていたが、ルチアナはふと気づいて立ち止まった。

「ごめんなさい。私ったら……」

 青年は目が見えないのだ。当然降り注ぐ星々が見えるはずもない。ルチアナは一人はしゃいでいた自分を恥じた。

 そんな少女に顔を向けながら、青年は唇を動かした。

「――――」

「え?」

 俯いていた少女は顔を持ち上げる。ひらひらと手招きされるままに近付いていくと、巨龍は両手で少女の顔を包み込み、そのまま自分へと上向かせた。自然とルチアナのかかとが僅かに持ち上がり、つま先立ちになる。

「ニブ様?」

 青年はルチアナの目をまっすぐに覗き込む。

 それはまるでルチアナの目に映る星々を見ているかのようで。

「……ルチアナ」

「えっ」

 ルチアナは気まずさから逸らしかけていた目を、青年へと戻す。ぱちりと目が合った。

 青年は僅かに口角を上げる。

「やっと我を見たな」

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