第23話 ニャソ子の指輪が示す未来
彩雨ちゃんの腕の中で、アエイスがだんだんと薄くなっていく。
アエイスの綺麗だった白と金の服は、ところどころ黒ずみ、破れていた。
鈴木は、もういない。
戦いは終わったのだ。
「私が……、彩雨ちゃんを絶対守る……と、いつか、言いましたわよね……? もう……忘れた……のかしら……?」
アエイスはにっこりと笑って、右手で髪をかきあげようとする。
しかし彼女の手はもう上がらなかった。
「彩雨ちゃん、私は……、自分で言ったことは……守るわよ……?」
「アエイスさん……また、一緒に……わたしたちと……」
彩雨ちゃんが泣きながら、今にも消えようとするアエイスに抱きつく。
風が、二人の髪を揺らした。
それは何かの絵画のような、美しい光景だった。
僕と遥は、黙ってその二人を見ている。
「私はもう……消えてしまいますわ……。瀬津那ちゃんたち……との……思い出が……どうやら……勝ってしまった……ようです……わ……」
彩雨ちゃんを倒すことよりも、僕らと一緒に過ごした思い出が勝ってしまったという意味なんだろう。
アエイス……。
「彩雨ちゃん、……遥ちゃん、……瀬津那ちゃん……、そしてロックちゃん、……銀座ちゃん……が、無事に……元の世界に……帰れることを……祈って……いますわ……」
「アエイスさん……。わたし、アエイスさんに……もっと……色んなこと……教えて……もらいたかった……」
そう言うとアエイスは、彩雨ちゃんの腕の中で消えていった。
輝きを失ったアエイスの杖が、静かに地面に横たわっている。
それは、もう以前のように青く光ることはなかった。
もうすぐ夜が明けようかという空。
彩雨ちゃんの泣き声だけが広場に響いていた。
「彩雨……。いつまでもメソメソしててもしょうがない。とりあえず、宿屋に戻ろう」
「遥さん……」
ガチャガチャ……。
ガチャガチャ……。
妙な音がする。
敵か……?
僕は音のする方を見る。
そこには、壊れた家の残骸があった。
どうやらそれが、風か何かで少し崩れたらしい。
……そうだ。
あの瓦礫の中には……。
「瀬津那、今何か聞こえたよな……?」
「うん。あの瓦礫の山」
「あの山の中……。ox琉奈xoがまだ生きてるんじゃないのか……?」
「そうかもしれない。見てこよう!」
遥は、地面に落ちていた赤い髪飾りと赤茶色のストールを拾い上げ、それらを身に付ける。
そして僕と共に、その瓦礫の山へと向かった。
「ox琉奈xo、いるのか? いたら返事しろ!」
瓦礫の山に着いた遥が、大声を出す。
あんな戦いの後なのに、相変わらず元気な声だ。
でもそのうるささも、こういう非常時には役に立つ。
「……いるにゃ」
いた。
ox琉奈xoは生きていた。
良かった。
「お前、大丈夫か?」
瓦礫の山に向かって、遥が叫ぶ。
朝の光が、その瓦礫を照らし始めた。
「琉奈がいるとこはにゃ……、空洞みたいになってるにゃ。だから大丈夫なんだけどにゃ……」
「大丈夫なら、いいな。瀬津那、帰ろう」
「ちょ、ちょっと、待つにゃ……! いや、待ってくださいにゃ……! 一生のお願いにゃ……」
「魔法銃を撃って出るとか考えなかったのか?」
「こんな近いところ撃ったら琉奈も危ないにゃ!」
「確かにな……」
「遥、さっさと出してあげよう。さっきは僕らの力にもなってくれたじゃないか」
「そういえばそうだったな……。忘れてた」
「忘れるなんて酷いにゃ……」
瓦礫を少しどかすと、すぐにox琉奈xoの脚が現れた。
細くて、綺麗な脚。
「ありがとうにゃ……」
自力では出てこられなさそうなox琉奈xoを、遥が脚から引っ張り出す。
彼女の短いスカートがまくれあがった。
こ、これは……。
こんなに間近で……。
「ちょっと、いたいにゃ! ……もうちょっと優しくしてほしいにゃ……」
ox琉奈xoの服は、だいぶボロボロになっていた。
元々露出が多い服だったのに、さらに露出度が増している。
……あまり見ないであげるのがマナーというやつだろう。
……見るけど。
遥がox琉奈xoをおぶった。
遥の方が僕よりもダメージを負っているだろう。
だから僕がおぶろうかとも言ったのだが、遥は自分でやると譲らなかった。
「じゃあ皆、宿屋に……。って、彩雨は?」
彩雨ちゃんはまださっきの、アエイスがいた場所にいる。
そこで座りこみ、ずっと泣いていた。
僕は彩雨ちゃんを呼びに、そんな彼女の元へと走る。
「彩雨ちゃん……。皆のところへ行こう」
「瀬津那くん……、ごめんね。何かわたしのせいで……。皆が……」
「彩雨ちゃんが責任を感じることはないよ。ゲームが、ちょっとおかしくなっているだけだ……。彩雨ちゃんのせいとか言い出したら、それはまた僕のせいにもなっちゃうし……。誰の責任とかそういうのはやめよう」
「……もう誰も、死んでほしくない……」
「ここで死んでもどこかで生きているかもしれない。この世界の謎はきっとそのうち解ける。彩雨ちゃん、ロックさんと銀座さんのところへ、行こう?」
「……銀座さん、大丈夫かな……?」
「瀬津那! 彩雨! いつまで話してんだ! こっちはずっと重いox琉奈xoをおぶって待ってるんだよ!」
「重いって何だにゃ……」
僕と彩雨ちゃんは、遥と合流し、宿屋に向けて歩き出した。
彩雨ちゃんのニャソ子の指輪。
ニャソ子が二人になってしまってこの世界がバグってしまったのなら、前からいたニャソ子がこの世界のどこかにいるはずなんだ。
そのニャソ子を見つけることができたら、それは絶対、何かの手がかりにはなるだろう。
僕らは、元の世界に帰るために、ニャソ子を探さなければならないんだ。
宿屋が見えてきた。
ついさっきまでいたはずなのに、久しぶりに帰ってきたような感覚になる。
「ほら、ox琉奈xo。お前が破壊した宿屋の玄関だ」
「……にゃ……」
ox琉奈xoは遥の背中で寝ていた。
今のは寝言だったようだ。
「こいつ……。こんな状況で寝られるのかよ?」
僕らの話し声を聞きつけてか、宿屋からロックさんが出てくる。
……良かった。
ロックさんは普通に寝てただけみたいだ。
「お、カウボーイ。久しぶりだな」
「アイツが……銀座が、目を覚ましたんだぜ!」
ロックさんは興奮気味に叫ぶ。
朝の光に反射して、彼が身につけている鎖がキラキラと光った。
「お、花魁が……!? 本当か……?」
そう言って、遥は真っ先に宿屋の中へと走っていった。
彩雨ちゃんもそれに続く。
宿屋に入ると、そこには銀座さんが座っていた。
リザレクションが、上手く効いたのだろう。
良かった……。
「花魁! 心配したぞ!」
寝ているox琉奈xoをゆっくりと下ろし、遥が言った。
嬉しそうな遥。
「銀座さーん!!」
目を潤ませながら、彩雨ちゃんは銀座さんの胸に飛び込んだ。
銀座さんはそれをしっかりと受け止める。
「ウチ……ちょっと寝てたみたいなんですワ……。でも、アンタ達のこの喜び方からすると、……ただ寝てたって感じじゃなさそうですネ」
「花魁はずっと仮死状態……、まぁ、気絶してたというところだな」
「アレ、そこに寝ている赤い髪の方……、もしかして、ウチを撃った方?」
「あぁ、あれはな、その撃ったやつの、妹なんだよ。花魁を撃ったやつは死んだ」
「大丈夫なんです……? 宿屋に敵を入れて……」
「見るからに大丈夫そうだろ? 今はもう味方なんだ」
「ウチが寝てる間に、色んなことがあったようですネ……」
「カウボーイが一番、花魁のこと心配してたんだ。ずっと花魁の面倒見ててくれたんだぞ」
「わたしも心配していました!!」
彩雨ちゃんが銀座さんの耳元で叫ぶ。
銀座さんは、少し驚いたように目をつぶった。
「俺が寝てる間に、銀座に何したんだ? 勝手に目覚めたのか?」
「ロックさんが寝てる間に、アエイスが、蘇生魔法『リザレクション』をかけてたよ。そしたら宿屋の玄関が爆撃されて、僕らは外に出ていって……、そのまま戦闘開始になった」
「じゃあ、アエイスが、銀座の命の恩人ってことじゃねぇか……。ところで、アエイスはどこにいるんだ? 礼をしなきゃ」
「ウチからも……、お礼しなければなりませんワ」
「アエイスは、死んだよ」
遥がそう言い、あたりが少し重い空気になった。。
彩雨ちゃんは下を向く。
「そうか……。最後に何か言いたかったぜ……。あんだけ世話になってたからな」
「アエイスは実は……、敵だったんだ。あたし達のことを裏切ってた」
「そうだったのかよ……。じゃあ何で、銀座を助けてくれたんだ? 俺達も世話になってたじゃねぇかよ」
「さあな……。アエイスに聞いてくれ」
「俺達を裏切ったから、アエイスを殺したのか……?」
「あたしらはアエイスを倒せなかった。アエイスは……、彩雨をかばって、死んだんだ」
「最後は、俺達の味方だったってことかよ……」
彩雨ちゃんが、すすり泣き始める。
アエイス。
最後は、僕らの味方だった。
「あ、でもな、俺、アエイスが夢に出てきたんだぜ」
「……どんな夢だったんだ? 教えてくれよ」
「舞台はこの宿屋で、銀座を何かもっと暖かくしてやろうと思って、この宿屋に何かないかと思って探しまわってたんだ。でも結局なくてな……。それでこの部屋に戻ってきたら、アエイスが誰かと通信してた。そのアエイスと目が合った瞬間、『しまった』みたいな顔されてさ。そんで、杖が青く光って……って夢だ。そこまでしか覚えてないけどな」
「やけにハッキリ覚えてるんだな、その夢……」
「なぜかすげえハッキリ覚えてる。実際あったことみてぇだ」
それは本当にあったことのような気がする。
アエイスが鈴木と通信していたところを見られて、魔法でロックさんを眠らせたんじゃないのか。
だから、あんな不自然な感じで寝ていたんだ。
僕らはロックさんと銀座さんに、今まで起こったことを話した。
彼らは真面目な顔で僕の話を聞いていた。
「なるほどな。俺らが寝てる間に、鈴木ってやつは死んだのか……」
「それで、相変わらず彩雨ちゃんが重要人物であることには変わりないんだけど、彩雨ちゃんを倒さなくてもこの世界が元に戻る方法が見つかりそうなんだ」
「俺はよくわかんねぇけど……。誰も死なないのにこしたことはねぇな」
「彩雨ちゃんがつけているニャソ子の指輪と、この世界のニャソ子がダブって、この世界がおかしくなったわけだけど……」
「それは何かずっと言ってたな。そんなようなことを」
「彩雨ちゃんの方ではなくて、この世界のニャソ子の方を見つけて何とかすれば、この世界は元に戻るんじゃないかって」
「なるほどな。これからは、ニャソ子を探す旅ってことになるのか……。何かイイ案が見つかったら、俺と銀座にも教えてくれよ?」
「その言い方……。カウボーイと花魁は、もうあたし達にはついてこないのか?」
「ああ。そうすることにした。さっき決めたぜ。アイツを……銀座を、もうこれ以上危ない目に遭わせたくないんだ」
「ウチよりも、アンタの方が心配だけどネ」
それは言えている。
「あの巨大な斧を持ったヤバいやつがまた来ても、今度は俺とアイツで倒せそうな気がするぜ」
「そいつなら、さっきあたし達が倒したよ」
「いたのか? 何か『キエエエエエー』みたいなことをずっと言ってるやつだぞ?」
「やっぱ、カウボーイ達を追いかけてたやつはそいつだったのか……」
急に、銀座さんが立ち上がった。
彼女の三枚歯の高下駄が音を立てる。
「では皆さん、ありがとうございましたワ。またどこかで会いましょう」
そう言い、銀座さんは、ずっと抱きついていた彩雨ちゃんを優しく離し、笑った。
「銀座さん。も、もう行っちゃうんですか? もっとゆっくり……」
彩雨ちゃんは言う。
銀座さんはこれからも僕らについてきてくれると思っていただけに、寂しい。
「アヤメちゃん、楽しかったですワ。セツナちゃん、アヤメちゃんをよろしくネ」
よろしくされてしまった。
「あとそちらの寝ている赤い髪の方にもよろしく言っておいてくださいネ。あと……、ハルカちゃん?」
「何だよ」
「また、どこかで」
「そうだな」
「皆さん、元気でネ。では」
銀座さんは、一礼した。
そして、顔を見せないようにしながら、さっさと宿屋を出ていった。
この下駄の音、もう二度と聞けないのかもしれない。
「おい、俺を置いてくんじゃねぇ!」
ロックさんが走って銀座さんを追いかける。
が、すぐにロックさんは立ち止まり、僕らの方を振り返った。
「お前らも、元気でやれよ。何だかんだ、楽しかったぜ。ただ、俺やアイツには、ちょっと荷が重すぎたかなっていう、それだけだ。別にお前らを嫌いになったわけじゃねぇよ」
「僕らは、ロックさんと銀座さんがいてくれて、良かったって思ってます」
「これから先、俺やアイツがまた迷惑かけるかもしれねぇ。今度こそ、アイツが死んじまうかもしれねぇんだ。俺かもしれねぇ。俺はアイツが何よりも大切なんだ。お前らと一緒に最前線で戦うことのスリルや面白さはあるけど、俺はアイツと無事に元の世界へ帰ることが一番なんだ」
ロックさんがテンガロンハットをかぶり直しながら、そう言った。
何だか、いつになくロックさんが男前に見える。
「ロックさん達は、これからどうするんですか?」
「あまり敵が来なさそうなところで、のんびり過ごすさ。でも、アイツも、寂しいんだと思うぜ。だから、さっさと行っちまった。アイツ、今頃泣いてるぜ。人前では絶対泣かないやつだから」
銀座さん……。
「……じゃあ、寂しいですが……。お元気で。銀座さんにもよろしく言っておいてください……」
「わかった。お前も元気でな。……皆、じゃあな!」
ロックさんは右手を高々と挙げる。
鎖をジャラジャラさせながら、ロックさんは走っていった。
「あ、花魁に緑茶淹れてもらうの忘れてたな!」
「そうですね…………。飲みたかった…………」
彩雨ちゃんが悲しみにくれている。
宿屋には、僕と遥と彩雨ちゃんと、寝ているox琉奈xoが残されていた。
「瀬津那、これからどこ行く? クエストももう、来てないよな……」
「そういえばそうだね。もう一回『はじまりの街』に戻る?」
遥は彩雨ちゃんの指輪をチラリと見た。
「そろそろそこに、ニャソ子が現れている頃だと思う。ox琉奈xoが起きたらじゃあ出かけるか」
「おはようにゃ……」
ox琉奈xoが起きたようだ。
そこが自分の家のベッドであるかのように、思いっきり伸びをする。
「どうする? お前、これから、あたし達についてくるか?」
「琉奈、勝手にそのつもりしてたにゃ……」
「だいぶ勝手だな。……じゃあ、あたし達と一緒に行こうか」
「あ、でも……」
「どうしたんだよ」
「魔法銃がないにゃ……」
「あ。あの瓦礫の下にまだあるのか? あんな物騒なもん置いといたらダメだろ! 万が一暴発したら大事故だぞ」
「ごめんにゃ……」
「じゃあちょっと、あたしがひとっ走り行って、取ってくる!」
「あ、あたしも行くにゃー!」
ox琉奈xoが遥を追って走っていった。
まずそのボロボロの服を直した方が良いのでは……。
まぁ、この町は僕ら以外に人がいなさそうだから、いいけど。
宿屋には、彩雨ちゃんと僕だけが残された。
バタバタしていた宿屋が、急に静かになる。
「瀬津那くん、一つ、気になってたことがあるんだけどさ」
「何か僕の顔についてるとか? え、この大剣がダサいとか……?」
「アエイスさんが、遥さんは何かを隠しているみたいなこと、言ってなかった?」
「あれは、アエイスがそうっぽいって思っただけで、実際は隠してなんかないんじゃないかな?」
僕はごまかした。
遥まで疑う空気にはしたくなかったから。
「そっか……。それならいいけど……。遥さんは、何で瀬津那くんに加速のやつを作ったと思う?」
「テストプレイだとか言ってたけど……」
「そんなの、遥さん自身がテストプレイはできるでしょ。わたしは、遥さんが、瀬津那くんのこと好きだからだと思うよ」
「いやいや、そんな……」
「見てて思うよ。遥さんは、ちょっとヤキモチやきなところもあるし……。最初の頃、結構冷たい印象あったもん……。最近はちょっと打ち解けてきたかなって思うけど」
「そ、そうかな……」
「瀬津那くんにこのゲームをやめてほしくなかったから、色々と尽くしていたんじゃないかなって」
「それは考え過ぎなんじゃないのかな」
僕がやめないように加速ツールを提供していた……。
まさかな。
そういえば、遥が、ニャソ子の指輪の抽選会のことを知っていたことは謎だ。
さらに、その知っているという事実を隠していることも。
「瀬津那くん、どうしたの?」
「いや、考え事……」
「遥さんのことでしょ?」
「うん。まぁ……。あ、遥のことが好きとか、そういうその、考えてるとかじゃなくて、その、何だろうなって。アエイスが言ってたこと!」
「遥さんが隠してることって、瀬津那くんのことが好きだっていう気持ちだと思うの」
「え、あ……そうなの……?」
「その気持ちに答えてあげたらいいんじゃないかな?」
「そういえば僕は遥のこと全然知らないな……。現実世界で何してるかとかも」
「遥さん、現実世界ではプログラマーとかいう仕事なんだって! コンピューターで何でも作れるらしいよ! わたしたちと同い年なのに!」
「へぇ……。それは初めて知ったな。忙しそうだなっていうのはあったけど」
「だから色々作れるんだねー。いっそ、この世界を抜け出す装置とか作ってほしいよね!」
「遥だけ帰れれば、可能かもね。外から操作してもらって……」
「瀬津那くんは、これから遥さんとどうしていくつもり?」
「どうしてって……。普段通りに接するだけだけど……」
「もっと、優しくしてあげなきゃダメだよ」
遥が僕の事を好きだなんて、推測にすぎないだろう。
待てよ。
もし、遥自身が僕に指輪をプレゼントしようとしていたとしたら……。
懸賞という形で僕だけにあげられるようにして……。
それは本来僕用に作られた指輪だったから、それを彩雨ちゃんがつけてきてしまったことによって世界がおかしくなったとか……?
ニャソ子の指輪は遥が作ったのか……?
「おい! 魔法銃、無事に見つかったぞ!」
「よかったにゃ~」
遥とox琉奈xoが、宿屋に帰ってきた。
魔法銃は相変わらず、怪しい紫色の光を帯びている。
「ていうか、瀬津那、何してたんだよ」
「何って……、普通に、話してただけだけど……」
「彩雨と二人で? ……まぁいいけどな」
「じゃあ、一休みしたら、僕たち皆ではじまりの街へ行こうよ」
「休まなくてもいいだろ。ox琉奈xoも、さっきちょっと休んで元気になったみたいだし」
「遥さん、でも……、道は分かるんですか……? わたしたち、飛空艇でここまで来たじゃないですか」
「今、彩雨が向いてる方向に歩いていけば、辿り着く」
「何で分かるんですか?」
「その指輪、今ニャソ子が、角度によっては浮き出るように見えるだろ?」
「あ、ほんとですね!」
「それ、ニャソ子がそっちにいるってこと…………らしいな」
「そうなんですね! 今までニャソ子が浮き上がってるの、気づかなかったです」
「あたしもさっき気づいたよ。鈴木を倒したあたりから、また何か変わったのかもしれない」
「じゃあ、こっちの方角に、行きましょう!」
確かに、彩雨ちゃんのニャソ子の指輪が微妙に変化している。
遥の言う通り、一定の方角を向くとニャソ子が浮き出るようになっていた。
「瀬津那、何してんだよ、置いてくぞ!」
気がつくと僕以外の皆は、もう既に宿屋の外にいた。
「はやくするにゃ!」
もうすっかりox琉奈xoはパーティーの一員と化している。
この先に待ち受けているものは何なのか、僕には分からない。
ゲームという枠を超えた何かが存在するのかもしれない。
ただ、少しずつ、このゲームの謎が解けつつあるのは確かだ。
「ねぇ、瀬津那くん、遅いよ!」
僕は急いで外へ出る。
外は明るくなり始めていた。
僕らの旅は、まだまだ終わりそうにない。
- 第一部完 -
アルカディア・オデッセイ・オンライン 葵 龍之介 @aoi_ryu
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