第20話・ムリですぅぅぅぅ!!

 ダンジョン実習の翌日の放課後、灯りの魔法を習得する為に魔法科寮の図書室へ来た俺は、司書さんに大体の場所を教えて貰い魔導書を探しているところだ。

ちなみに、灯りの魔法が属しているのは生活魔法と呼ばれているらしく専用のコーナーがない為、魔導書以外の書物と同じ所に置いてあるらしい。

また、魔法の心得が乏しい人でも簡単に習得出来る灯り如きに大事な魔法力MPを消費するのは勿体無いので一部の物好き以外の一般人はランプや松明で代用しているとの事。

それに街中などの公共の場では魔導灯と呼ばれる電灯の様なものがあるので滅多に使われない。

つまり、不便だった昔は生活魔法が重宝されていた様だが便利な世の中になった今現在では生活魔法に頼る事が少なくなったという事だ。


「主殿、これじゃなかろうか?」


 クロが指差したのは雑誌、の様に薄い魔導書だった。

ペラペラと捲ると簡単な詠唱文と共に魔法が紹介されていおり、確かにこんな魔法態々覚える様なものではないのが勢ぞろいしていた。

恐らくだが代用できるエネルギー源または技術が発見され使う人が少なくなったのだろうと思う。

つまり、地球とは逆のパターンだな。

魔法という便利な技術が昔と比べ人類の想像力の低下などが原因で廃れ、化石燃料が新たに発見された感じなのだろう。

廃れた言ってもただ敷居が高くなったというだけで、まだまだ現役で今も多くの所で魔法が使用されている。


「あ、あった」


 ミランダ先生が言っていた様に簡単な詠唱で容易に習得出来そうだ。

態々イメージするほどでもないので長々とした物語もない。

詠唱文はこうだ。『我が世界に灯火を「ライト」』

これなら詠唱文をイメージ単純化するまでもなく短縮出来そうだ。

私室に帰ったら試してみよう。


『あ~寮母からお知らせだ。

334号室のアキラ・ローグライト、校内闘技場で生徒会が待っている。

すぐに向かえ』


 恐らくあの件だろう。

気が進まないがクロの手前サボる訳にもいかない。

校内闘技場に覚えがないが校内というぐらいなので行けば分るだろう。

それに初級ダンジョン方面と正門から校舎までの間にもはなかったと思う。

俺は生活魔法の魔導書を返却し図書館を出てそのまま魔法科寮からも出る。


◆◆◆


「遅い!」

「呼び出すならもうちょっと早く呼んで下さい」


 俺が着いた時、最後だった様で生徒会の面々だけでなくリントくんや先輩達もすでに全員来ていた。

校内闘技場の場所は初級ダンジョンとは反対側にあり、建物らしいものが一切なく舞台だけが設置され、それが校舎の陰となり見つけ難かった。

何故、校舎に隠れていて舞台だけなのか、それは構造を見れば一目瞭然だろう。

つまり、校舎イコール観客席という事なのだろう。

ちなみに現在、一般的な生徒の下校時刻は、とうに過ぎているので校舎の中に人影がほとんどない。

 結果論ではあるが、校舎の正面入り口から入りそのまま突っ切って中庭から向かえばすぐだった様なのだがここに来て浅い俺には分らなかった。

変に回り込んでここに来た時、その事実を知って落胆したのは言うまでもない。


「キィッ、何その態度!」

「まぁまぁ、そう目くじら立てなくても・・・」


 会長は副会長の肩に軽く乗せ笑顔で宥めている。


「会長は黙って」

「あ、はい」


 副会長に睨まれシュンとなった会長は良い人なのだろうけど、副会長との力関係が逆転している様に見える。


「会長、副会長、話、進まない」

「あ、ごめん」

「それでは今からあなた達推薦者の中から一人選抜する為にここで一対一で戦って貰います」


 会長はそう言うと向かい側に立っている俺達をそれぞれ意思を確かめるかの様に見渡す。

まずは右端にいる見知らぬ先輩、俺が去った後に推薦されたのだろう。

防具らしきものを着けておらずスカートの丈が若干短い以外は普通の制服を着た女性徒だ。 得物は朱色の十文字槍で装飾が少なく実用性を重視していると思われる。

その隣は全身鎧を纏った大柄な先輩、俺とすれ違う様に名乗り出た人だと思う。

背丈並みにあるタワー型の盾と背丈以上の長さのある長柄の斧を持っている。

正直、普通の人なら両手で持っても重たいであろう斧を軽々と片手で持っているので相当な斥力なのが分る。

次、リントくん・・・は、完全に萎縮している。 大丈夫だろうか。


「バトルロイヤル形式にしませんか?」


 リントくんには悪いけど面倒なので短時間で終らせようと思う。

別にこの三人なんて一瞬で倒せると驕るつもりはない。

勝敗関係なしに早く終りたいだけだ。


「イイですね~♪」

「異論はない」

「エェェェ!?」


 三人も同意しているし、後は生徒会四人の同意のみとなる。

リントくん? ああ、内心では賛成しているに決まってるじゃないですか?


「まぁ、みんなに異論がないならそれで良いけど?」

「リント、お前どうすんだ?」


 ネコミミ先輩が猛獣の様な笑みでリントくんに意見を聞く。

誰が見ても「異論はねぇよな?」と言う含みが見え隠れする。


「す・・・」

「酢?」

「す・・・す、すみませんっ、辞退します!!」


リントくんは、すごい勢いで腰を直角に曲げ頭を下げる。


「うぇえぇえ!! 何でそうなるんだよぉ!?」


 まるで意外だというばかりにネコミミ先輩は驚くが、それ以外の生徒会三人は「やっぱりね」という様な表情が読み取れる。

また、副会長に至っては、右拳で目立たないようにガッツポーズを取っている事から生徒会内で何かを賭けていたのかも知れない。


「すみません。 ほんとすみません!」

「あたしの立場がねぇじゃん。 どうすんだよぉ!」


 何度も謝るリントくんの襟首をネコミミ先輩は両手で掴み前後に揺らす。


「ムリです。 ほんと、ムリです。 ムリですぅぅぅぅ!!」


 ネコミミ先輩の腕を振り払い誰とも目を合わせないように視線を頭ごと下げたリントくんは、声の余韻を残しながら校舎の方へ逃げ姿を消した。


「ありゃりゃ、逃げちゃいましたね~♪」

「腰抜けめ」

「・・・」

「まぁ、三人になっちゃったけど、取りあえず始めよっか?」

「では、残った三人は舞台の上へと上ってください」

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