第19話・なら、言うな!!

「流石にそれは痛いって!!」

「死ねば良いのに・・・」


 俺を除いても女性が二人いるにも関わらず、何故かリントくんによるセクハラは常に俺へと向いている。

悔しい事にセクハラは、故意ではなく偶然によるもので、もしこれが故意だった場合は問答無用で斬り捨てている。

とはいえ、故意ではないにしても度が過ぎているのも間違いなく、斬り捨てないまでも本気で足を踏み下ろした感じだ。


「おい、何時までじゃれている!? テイラー、罠の解除はしたか?」

「完了~」

「ほら急げ、お前達は最下位なんだぞ」


 ミランダ先生は、ティルを伴って先に階段を下りる。

俺は今だ地面に転がっているリントくんを放って階段へ向かう。


「ちょ、待って」



 第七層は特徴的な階層と言って良い。

別にダンジョン内の雰囲気が特徴的とかそういうのはなく、出現する魔獣と罠がスライムづくしという意味で特徴的な階層だ。

スライム、ゲームなどでは最初の方に出てくるザコ的扱いの魔獣だ。

それは、この世界でも変わらない。

変わらないけれど、物理がほぼ利かない為、ひのきの棒などで倒す事が出来ない。

また、点攻撃である弓矢や銃の射撃も同様に利きにくい。

ただし、スライムには、体内に核と呼ばれる弱点がある為、それを潰せば物理や射撃でも倒す事が可能だ。

とは言え、いくらザコ敵だからといっても相手も動いている為、核に命中させるのは困難を極める。

そこで必須となるのが魔法なのだが、相性があり水属性と地属性は利き難い。

スライムの体組織の九割以上が水分な為、水属性が利き難い。

そして、地属性の魔法は、ほぼ物理攻撃同様なので利き難い。

では、何が利くのかというとその二属性を除いた魔法全てとなる。

特に火属性がよく利く。

つまり、何が言いたいかというと魔法力MP管理がキツイという事だ。


「はぁはぁはぁ・・・」


 第七層に入ってそろそろ終盤に差し掛かろうという所で俺の魔法力は底を尽き掛けていた。


「ムリさせてごめん。 ローグライト・・・」

「うぅ、ごめんね」


 そして、物理での攻撃手段しかないリントくんとティルは、この階層ではほぼ役に立たず・・・、いや、ティルは罠解除という役目があるので役に立っているがリントくんは、罠にはまるかセクハラするかしか出来ない為、役立たずまっしぐらである。

しかし、二人も何とか当てようと頑張っているので文句を言うつもりはない。


「まだ、大丈夫」


 俺はポーチから魔法力MPポーションを二本取り出し一気に飲み干す。

正直、朝鮮人参多めの栄養ドリンクの様な味なので苦手なのだが背に腹は代えられない。

回復度合いは、体感六割ほど回復したと思う。

ちなみに体力HPポーションは、生姜多めの栄養ドリンクの様な味がする。


「ほら、何時までだべってる! 敵さんのお出ましだぞ」


 ミランダ先生の視線の先には、またしてもスライム二匹。


「また、スライム・・・」

「テイラー、行くよ!」

「うん」


 リントくんとティルがスライムの注意を惹きつける為に近接攻撃を慣行する。

この階層には二十数匹のスライムと戦闘になった為、最初の頃掠りもしなかった攻撃も今や何とか命中させる事が出来る様になっている。

だからといって、物理攻撃がほとんど利かないスライムにとって二人の攻撃は脅威にもなっていない。

しかし、元より攻撃の要は俺である。


「二人とも離れてっ! フレイムアロー」


 二人が距離を取った事でスライムの動きが一瞬固まる。

そこに後方の俺から放たれた炎の矢が二体のスライムを直撃爆散させる。

相変わらずのオーバーキルだ。

初級ダンジョンという事もありこの階層に出現するスライムに特殊な種類がないのがせめてもの救いだ。

これが中級ともなると火属性に強いスライムとか出てくるのだろうな。

 その後、リントくんの犠牲の元、大したトラブルもなくスライム地獄の第七階層をクリアする事になった。

ちなみにリントくんは、第八階層行きの階段手前で躓いたティルに後ろから押されスライムで満たされた落とし穴に落ちた。

その後、リントくんを引き上げる際にちょっとした・・・ちょっとしたトラブルがあったが気にする程でも・・・ない。


 さて、第八階層、一言で言えば暗い・・・、七階層まであった壁の松明が全て消えており灯りらしきものが一つもない。


「暗いですね・・・」

「何も見えないよぉ~」

「ふむ、ローグライト、灯りだ」

「灯り、ですか???」


 さも当然とばかりにミランダ先生がそう言った。

「灯りだ」と言われても「欲しいですね」程度しか思わない。

 

「そうだが?」

「え??」

「ん?」

「あ、まさか、ボクに灯りを灯せと?」

「ん?? お前以外に誰がいる。

魔術の才能があれば使えない者などいないと聞く。 ローグライトなら簡単だろ?」

「そう、なんですか? 残念ながらまだ習得していないので、詠唱文を教えて頂けないですか?」

「何を言っている。 私が知っている訳がなかろう」

「でも、簡単なんですよね?」

「ああ、多分な」


 何かミランダ先生との会話が成り立っていない気がする。

だけど、大体は分かった。

つまり、すべてがミランダ先生の憶測での話で実際灯りの詠唱文を知っている訳ではないと言う事か・・・


「えーと、ごめんなさい。 灯りの魔法は使えないです」

「む、そうなのか。 困ったな。 テイラー、ランタン持ってきているか?」

「寮に置いて来ました」

「ふむ。 アルフレンド・・・は、持ってないな」

「先生、聞く前に答えを出さないで下さい!」

「む、そうか、それはすまん。 アルフレンド、ランタンは・・・」

「持ってません!」

「なら、言うな!!」


 お約束の様にミランダ先生の拳骨がリントくんの頭へと落ちる。

かなり痛そうだが自業自得なので俺とティルは見て見ぬふりをした。


「仕方がない。 少し早いが今日はここまでにして引き上げるぞ」


 若干、目が慣れ数メートル先なら何とか見える様になってから壁伝いに転移魔法陣へ向かい全員で入る。

早めに帰った事もありグラウンドには他の班がいなかった。


「全員集まるまで待機だ」

「「はい」」


 ミランダ先生は俺達から離れるとダンジョン入り口の日陰へと移動する。


「二人とも、ごめん。 次までには灯りの魔法覚えておくよ」

「気にしないで良いって」

「うんうん」


  頭を下げて再び上げると同時に二人を見るが本当に気にしていないのか笑っていた。

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