3
「そのオルカの仔は群れから逸れたんだろうさ」
と、奇妙な連れ合いを伴って来た私に、
「
杖の先が床を突く。ごーん、と鐘のように音が輪となって響いて、私は肩を震わせてしまう。
ソレ、とはこのニンゲンの赤子のことだ。今は、私が作った泡の中で浮いている。
「で? お前はソレをどうするつもりだい。ニンゲンの赤ん坊なんか拾ってきおって。この都をブチ壊したいのかい?」
ニンゲンは災厄しかもたらさないからね、と。
「で、でもお婆様……」
「でもじゃあないよ」
「私は……ッ!」
「お前が、」
「この子を!」
「助け
平行線なんて願い下げ。私とお婆様は会話のドッジボールを繰り広げる。
なんてことだい、という嘆息は盛大に。
「大事な鱗まで取って、その価値はいったいどこにあるってんだい!」
価値。価値ときましたか。
私はかちんときましたよ。
「誰かを助けるのに、その子の価値がそんなに大事!? そんな考え、ニンゲンと同じじゃない!」
助けなきゃ、と思ってしまった。
救いたいと思ってしまった。
「……泡になって消える覚悟があるんだね? そこまで言うなら」
「脚なんて生やすつもりはこれっぽっちもありませんけど」
それに、鱗を取った痛みの分もある。
「声だって、必要なら捧げるわ! この解らず屋!」
やがて、深い深い、それはもう海のように深い溜息の後……
「……どうなっても知らないよ。ニンゲンに関わるとロクなことが無いんだからね。いいかい、フラメシア」
ひとつ。この赤子に海の者が名前をつけてはいけない。
ひとつ。この赤子がもし生き残れたとしても、名前を呼ばせてはいけない。
ひとつ。この赤子がもし育っても、この都のことは口外させてはいけない。
「それが守れるって言うなら、この子の命は取らない」
――そう、お婆様は三つの呪いみたいな約束をさせて、この子を救うことを約束した。
「何かを期待してるってなら、早めにそれは改めるべきだよ、フラメシア」
ニンゲンと関わった人魚の末路はどの話も一緒だと。
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