久方ぶりの対面
実は父と間近で
もともと、
それは、世間での父子の距離感からしたら遠すぎるものだったかもしれない。しかしそれ以上は、父の背負っている数々のモノが、許してくれなかった。
それでも、ない時間をやりくりして、王妃である母の元に父はよく来てくれた。
だから、父があまり自分たちを訪ねてくれないことを、一度も責めようとしたことはなかった。文句を言わなかった。
ただ、後宮に――――自分たちの家に帰ってきたら、齋王ではなく父親になってくれる。それだけで、十分すぎるほどだったからだ。
途中、分かれ道に出会うも、瑛凛は迷うことなく片方の道を選び、父の元へ進んでいく。
そうしているうちに、道の終わりが見えた。
それまで道の両脇にあった花々や木々の姿がなくなり、視界が一気に開ける。
そこには、清らかな水がこんこんとわき続ける泉のような池があった。
池には、蓮や睡蓮の葉が浮いている。爽やかな風が、
(たしか……………ここに、あずまやがあったはず)
瑛凛は、池のそばを歩きながら、
やがて、
瑛凛は、ゆっくりとその人影に近づく。
コツ……コツ……と、上品に靴音を立てながら。
そうして、あと十歩ほどで四阿の
ザァ――――っと強い風が吹いた。
瑛凛は、思わず目をつぶり、衣の袖を顔に当てる。
やがて、初夏の緑を、池の水を巻き込んだ風が去っていたあと。
恐る恐る目を開けた瑛凛は、次の瞬間、目を大きく見開いた。
『ちちうえ…………っ』
驚いた瑛凛は、はっと我に返ると、右手で口を覆った。
逆光でその表情は伺い知れない。ただ、まるで巨大な黒い影が目の前に立ちはだかったように見えたから。
これが…………わたくしの、父上か。
いや、ちがう。自分の前に立つ人物は、この国の齋王だ。
『…………へいか。もうしわけ、ございません』
瑛凛は、電光石火の勢いでその場に跪いた。
『へいか。ごきげんうるわしゅうございます。齋瑛凛、おめしにより、ただいまさんじょうつかまつりました』
瑛凛は、抑揚のない声で、口上の言葉を述べた。
早くから宮廷の礼儀作法のすべてを教え込まれている瑛凛にとって、この位は造作もないことだ。
そんな、宮中でも滅多に見られぬほど優雅で完璧な仕草で臣下の礼を捧げた娘の姿を今上の齋王――――
『……………………齋瑛凛。面を上げよ』
『おこころづかいに、かんしゃもうしあげます。へいか』
瑛凛は、父王の許しを得て、深く下げた顔を静かに上げる。ただ目は伏せたままで、父の顔を直接見ようとはしなかった。
どのような
ここまでの道中、覚悟のようなものはつけてきたと思っていた。でも…………。いざ、父王の御前に参ったら、わからなくなった。
そんな、
幸明は、瑛凛に立て、と短く命令する。
それから四阿の階を下り、瑛凛の前を通り過ぎると、彼女の方へふり返ることなくこう言った。
『……………ついてきなさい』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます