そもそも事の発端は《2》
ここは
「ええっと……茶葉はここで、茶器はここにしまってあったかな……?」
晏如は小さな戸棚の中をガサガサとさぐる。
しまった……しばらく目立った客が来なかったから、来客用の茶器をしまったままにしていたな。小さく晏如は呟く。
そうやって、そのまま準備に没頭していたら。
「晏如さん。何をしているのですか?」
厨の出入り口から声がした。
振り返って見ると、一人の青年が立っている。
その見知った姿に、晏如は腰を上げて話しかけた。
「あ、
宥さん、と呼ばれた青年が晏如の方へ歩み寄る。
「鈴歌ちゃんと
(あ、もうそんな時間か)
晏如は心の中で呟いた。しまった、すっかり忘れていた。
ちなみに晏静というのは晏如の六つほど下の弟の名で、宥さんの本名は
年の頃は二十代半ばで、晏如が生まれる前からこの家にいる青年らしい。
そんな頼りになるもう一人の兄と呼べる存在は、母が亡くなり、一家の主夫となった晏如を普段から支えてくれていた。
「あとは私がやりましょう。晏如さんは、どうぞ澪駿さまの元へ行ってください」
「わかりました、宥さん。あとはよろしくお願いします」
「はい」
晏如はぺこりと頭を下げる。
その姿を穏やかな目で見送った覚宥は、ひとつ息をついた後、晏如がやりかけたままにしている茶器の準備の続きに取りかかった。
◆◇◆◇◆
「よお、晏如」
「あ。兄上。ようこそおいでくださいました」
家の前までやって来た自分の兄に丁寧な礼をした晏如。
「やめろやめろ。おまえは俺の実の弟なんだ、堅苦しい挨拶はいらん。ほら、もっと楽にしてくれ」
それをゆったりと落ち着いた態度で制止した澪駿。
その言葉に応え、ゆっくりと顔を上げた晏如に、彼はニカッと白い歯を見せて笑う。
「元気にしていたか、晏如?」
「はい、兄上。兄上もお元気そうで、なによりです」
晏如は笑顔で頷く。
この兄のことは大好きだ。
その笑顔を見て嬉しそうに、澪駿は晏如の頭を撫でた。
「そうか。それはよかった」
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