第三話
ヒーローとは?
sigalは高校生でも何でもなく、剛の護衛兼世話役の戦闘も家事もほとんどの事でなら出来るという『万能型独立思考自律駆動』が可能な『機動侍女』でしかない。
sigal自身もその事を理解しているため、普段はここ、
その為、急遽、保健室に逃げ込んだわけだ。
「そんなに珍しくもないと思うのですが。」
「普段、いないやつがいれば、何事かって思うのは普通だと思うがな、sigal。」
「nine。そうとは思いませんが。」
「お前はな。姉ちゃんは・・・・・・・・、普通か?」
「剛と一緒に登校ってしてないからね~。」
希はハハハ、と軽く笑うが、そういえばそうだったっけ、と剛は希の言葉で思い出していた。
別に一緒に登校がしたくないという理由ではなく、風のように何処かへと行ってしまう希を止めることが出来ずにいた、という理由でしかない。
ふとした拍子に教室からいなくなり、思い出したように戻ってくる希を誰も止めれなかったというただそれだけでしかないのだ。
「腕、大丈夫なの、剛?」
「あ?大丈夫だぜ、姉ちゃん。」
と言うと、剛は、腕を回して、大丈夫であると心配する希を安心させるようなアピールをする。
今は、『トランス・ギア』を使用して変身した『エクス・ナイト・ブレイザー』ではない。
普通に腕が繋がっている普通のどこにでもいる男子高校生の姿をしている。
『エクス・ナイト・ブレイザー』は腕が途中で切れて、手が浮いている異様な姿をしている。
希が心配するのも分からなくもない。
「nine。大丈夫ですよ、希。『主』の異常は見受けられません。」
「sigalが言うんだったら、うん、安心、かな?」
「それ、どういう意味だよ、姉ちゃん?」
「どういう意味ってそういう意味?」
「nine。それでは誤解されるかと。」
「そうなの?」
「ja。故に、訊かれたのだと思いますが?」
「あー、そういう事ね。大丈夫、大丈夫。剛の事、大好きなsigalが剛の身体に変化があるのに、嘘言うわけないよね、だから安心、って意味なんだけど。」
「ja。否定はしません。事実なので。」
「そこで、どや顔されてもな。」
剛は、先程の戦闘の際、怪人達に襲われていたであろう少女の身体を空いているベッドに移す。
「そんで。どうなの、剛?」
「何が?」
「何がって、そりゃ、こう、下心的なナニかが出てきたりとか?」
「ねーよ。それに、sigalいるんだぞ。やらねーよ。」
「ほぅ?では、いなかったら手を出すと。」
「出さんがな。英明のバカなら出しそうだが。」
「ナニを、かと訊いてもよろしいので?」
「アイツならやりそうなのがな。ま、言わねーし、言う気もねーけど。」
「そうなの?結構、可愛い顔してると思うんだけど。」
「かもしれんけど、手もナニも出す気はねーよ。それに、姉ちゃん、あんた、女でしょうが。言わないの、そういうこと。」
「でもさぁ。」
「nine。『主』の言う通りですよ、希。あまり、そういうことを言うのは下品ですよ?」
「そうなの、剛?」
「自覚しろ、姉ちゃん。」
希の言葉のとおりではないが、確かに、綺麗な顔をしているとは思う。
だが、sigalより、と訊かれると、sigalの方が綺麗だと思う。
髪は女性らしく、長く伸ばしている。
希の様に、マフラーを首に巻いているわけでもない。
希は別に伸ばしていようが邪魔になるからという理由で短くしているわけだが、sigalはなぜ短くしているのだろう。
そう思うと、不思議だ。
幼少期からsigalの銀の髪は短めに切り揃えられていて、一度もその銀の色をした髪が伸びたところを剛は見たことがない。
それに、そういう意味では身長も変わってはいないのではないだろうか。
人間ではない機械だからであろうか。
そういう理由であれば、納得も出来そうではある。
だが。
しかし、である。
いちいち、身体をアップグレードするよりか、一度で済ませた方が効率は遥かに良いだろうが、髪は伸びてもおかしくはない。
機械だから?
それはそうかもしれない。
人間のように自然に伸びたりはしないだろうが。
だが。
何かが引っ掛かると剛は思い悩む。
そんな剛の様子を他所に希はベッドの女子高生の身体を見て、どこか悩むように言う。
「良いなぁ。私もあったら良いのに。」
「なくても良いのでは?希の戦闘スタイルでは邪魔かと。」
「そうかな?」
「ja。私は思いますが。」
「剛はどう思う?」
「何が ?」
「何がって、その。」
「ja。胸囲的な意味で、大きいのと小さいの、どちらがよろしいのか、と希は訊いていると判断します。」
「好みが?」
「ja。無回答はなし、でお願いします。」
「わ、私も訊きたいなぁ、なんて。」
「何でだよ。」
剛は二人の会話を聞いていなかったので何について訊かれているのかほとんど理解はしてはいなかった。
なので、特撮ヒーロー以外に興味があるとは思えない希とsigalが同じ問いを剛に訊いてくることが疑問でしかなかった。
どういう意図で訊かれた質問であるのか、剛にはほとんど分からなかったが、総合的に判断するsigalの言葉を思い出せば、容易に答えることが出来るはずだ。
たしか、sigalは『胸囲的な意味で、大きいのと小さいの、どちらがよろしいのじか』と言っていたと思う。
そして、剛の『好みが?』という質問に対して、『ja。』とその通りだと賛成した。
のであれば、胸が大きい方が良いか、小さい方が良いか、と訊かれていると考える方が妥当だろう。
あの正義の特撮オタの希が訊いているということはよく見る特撮ヒーロー物の『中の人』的な意味であろうと予想はつく。
となれば、答えは分かるものだ。
大きいのはまぁ、カッコいいだろうが、『ヒーロー』ではあまり見られない。
小さいのもアリと言えば、アリなのだろうが、どうであろうか。
となれば、間をとっての中くらいはアリなのではないだろうか。
であれば。
「中くらいがベストなんじゃね?」
「ja。」
「えっ。大きいのは?」
「アリだとは思うがよ、姉ちゃん。少ないと思わねぇか?」
『特撮的な意味で』。
「剛は、その、嫌い、とか?」
「いや、そうじゃねぇけど。」
「じゃ、じゃ、小さいのは?」
「なくね?」
「うっ。じゃぁ、どれがいいのよ!?」
「中くらいがベスト。最高だろ。」
「ほぅ。そうですか。それはなかなか。」
剛の言葉を聞いてsigalはどこか勝ち誇ったかのように胸を張る。
どこかアピールをしている様ではあるが、剛にはさっぱり理解が出来ない。
希は何故か絶望している。
だが、剛にはなぜ落ち込んでいるのかがさっぱり不明なわけだが。
「ってことは、sigalの身体見て、変なこと思ってたってこと!?」
「なんでそうなる。」
「えっ。sigalの身体見て、興奮とか・・・・・・・・・。」
「しないがな。ってか、どういう意味で捉えてんだよ、姉ちゃん。」
「どういう意味って、そういう意味?」
「わけが分からん。」
「状況を整理しましょう。『主』は先程の会話をお聞きに?」
「途中までな。ってか、流れが分からないんだが。」
「ja。少々お待ちを。つまり、流れが不明でだいたいしか理解出来ていない、と。そういう意味で捉えても?」
「それしかない、かな?」
「ja。理解しました。統合的に考えますと、勘違いなされております。」
「勘違い?」
sigalの言葉を聞いて剛には疑問符が浮かんでくる。
途中からしか会話を聞いていないので、すると思うが。
「ja。良かったですね、希。」
「嬉しい、って言えばいいのかなぁ。なんか複雑で喜べないんだけど。」
「姉ちゃんがなんで関わるのか、俺にゃ、分からんけど、良いんじゃね?ってか、どういう流れなんよ?」
「ja。プライバシーの侵害ですので、回答は控えさせていただきます。」
剛には、さっぱり理解はできないのだが、どうやら、勘違いであるらしい。
sigalは勝ち誇るように張っていた胸を元に戻すと、パパン、と胸元を払い、希はどこか安心したように、息を吐いていた。
だとすれば、どういう意味であったのだろうか、と剛には疑問が残るわけだが。
ここに、
どうするか、と剛は壁に掛けられている時計に目を向ける。
今から、教室に向かっても、遅刻である事には変わりはないだろう。
それは、希も同じなのだが。
希は剛とは違い、呑気に欠伸をしている。
慣れすぎではないだろうか。
「んで、この子、どうするの?」
思い出したかのように希は助けてベッドに寝かした女子高生をどうするか、と剛に訊いてくる。
訊かれても困るわけだが。
「保険の先生に看てもらうか。どうしようも出来ねーし。」
「呼んでくる?」
「nine。であるなら、私が看ましょうか、『主』?幸いにも、関係者ではありませんし。」
「出来るなら、良いか、頼んでも?」
「ja。すること、ありませんので。」
「悪いな。」
sigalが看るというのであれば、問題はないだろうと剛は思った。
とその時、思い出したように、希は声を出し、sigalに問う。
「あっ。弁当ないけど。」
「うっかりしてました。」
「忘れてたのか。」
「ja。予想外でしたので。」
俺もだよ、と剛は肩を落とす。
「んで、弁当忘れたと。らしくないな。」
「あっ。sigalさんへの悪口ではないので悪しからず。」
「ja。ならば、苦言ですか。」
「別にお前に言ってるわけじゃないと思うが。」
昼。
結局、教室に行くことなく、初のサボりを保健室で過ごすことになったわけだが、英明と英二の二人には、場所をメールで教えた。
二人とも、剛がサボっていたとは思わず、何かの事件に巻き込まれたのではないかと心配していたらしい。
希の様に、風が吹くかの様に、あっちにふらふら、こっちにふらふら、と一ヶ所に留まることを知らない上級生のことは、心配はしていないらしいが、授業にもきちんと出席している皆勤賞の見本である剛の事は、かなり心配していたらしい。
悪いことをした、と剛は反省していた。
「でもま、無事だったみたいだし、良かった良かった。」
「そうだぜ、無事かどうか、心配したぜ。」
「悪かったな。」
「sigalさんも珍しく一緒だもんな。不安より、安心に思えるぜ。」
「ja。お誉めの言葉と取ります。」
「そりゃ、良いんだが。」
「あぁ、飯か?なぁ~に、気にしなくても良いのに。」
ほらよ、と英明は剛に弁当を渡す。
昼も持たずに出てきたので、仕方ないと言えば、仕方ないのだが。
「いくらだ?」
「別に、高くはねーよ。んな、弁当、普通の学生で買えるかよ。」
「そうであっても、さ。分別は付けんと。」
「んじゃ、sigalさんのパンツくれ。」
「それは、無理かなぁ。なぁ?」
「nine。命令であれば。」
「マジ!?脱ぎたて!?くれっ!!」
「言わねーよ。脱がんで良いぞ、sigal。」
「ja。ご命令と仰られるのであれば。」
「くっ。剛、言ってくれっ!パンツ脱げって!」
「ひで。ひでーぞ、おい。」
「言わねーって、言ってるだろ!」
「友達だろ、俺ら!?」
「別に、良いぞ。聞かなくて。」
「ありがとよ、英二。」
「くそっ、現実なんて爆発しちまえっ!!」
そう言うと、英明は勢いよく保健室の扉を開けて、廊下を走り去っていく。
「いつものこった。そのうち、腹減っただの、ぶつぶつ文句言いながら、戻ってくるさ。」
「戻ってくるかな。」
「だったら、俺が渡してもいいんだぜ。友達だかんな。」
「悪いな、英二。」
「気にすんな。それに、昨日、助けてくれたしな。その恩も返せてねーんだ。親が聞いたら、どうなるか、分かったもんじゃねー。」
「恩だなんて。気にしなくても。」
「ja。私も『我が主』、剛さまを御守り出来なかったので。」
「いや、sigalさんは、しっかり自分の務めってのを果たしてたと思うぜ、なぁ?」
「あぁ、英二の言う通りだ。それこそ、気にすることじゃないと思うぜ、sigal?」
「そう、でしょうか?」
「そうだと思うぜ。それに、朝言ったと思うんだが、今、こうして話せているんだ。気にすんな。気にするんだったら、これからを気にすればいい。」
剛はsigalにそこまで、気負わなくて良いと言う。
あの時、出来なかったと言うのであれば、今度、起きたときに備えて、今を大切にしていれば良い。
次はないんだ、と己に言い聞かせれば。
「ja。そうですね。これからを気にしますか。もう既に終わったことをいつまでも悔やむのではなく。」
sigalの言葉に剛は力強く頷く。
恐らくでしかないが、sigalはもう大丈夫であろう。
自分自身に言い聞かせているのであれば。
「そういや、『エクス・ナイト・ブレイザー』の時は、腕くっ付いてなかったが、特に問題とか?」
「そりゃ、大丈夫。今朝、変身したけどちゃんと動くし。」
「声とかは?」
「聞こえねーな。」
「そうか。それなら良いんだが。『アクセスッ!!』ってお前が言ったときにゃ、『ナイト・ブレイザー』のこと、思い出してな。」
「大丈夫。そいつ、姉ちゃんがぶっ飛ばしたらしいから。」
「なら、安心だな。『ロード・ブレイザー』とかに精神乗っ取られて暴走するんじゃないかと。」
「これはゲームじゃない。それに、そんなことが起きたら、sigalが止めてくれる。」
「ja。『ナイト・ブレイザー』や『ロード・ブレイザー』は存じませんが、私は侍女ですので。『主』なくして侍女は務まりません。務めはしっかりと。例え、我が身が無くなろうとも、止めます。」
「ヒュー、愛されてんな~。」
「だろ?その時はその時だ。」
ふぅ、と剛が息を吐いたとき、ベッドの方から、視線を感じる。
そちらを向いてみれば。
目が合った。
十久札町という特異的なものを見るように見られている、悪と正義が日常的にぶつかり合う場所では、平凡極まりないのだが。
『異世界』からやってきた『異世界人』であったとしても、十久札町では、普通に近い扱いである。
それに、『異世界人』と言っても、平凡レベルの『魔法』が使えるというだけだ。
こんな『改造人間』という存在が日常的に存在している十久札町では、それが?という風にどこかバカにするように言うのだ。
それほどまで、涼子が使える『魔法』は見劣りする。
なので、他人には言わず、他人には見せずというスタイルでいたのだが。
数ヵ月ほど前だったであろうか。
怪人達に囲まれ、命の危険に遭遇したとき、彼女が現れたのは。
何も持たずに、蹴りと拳だけで自身よりも大きく力強い『改造人間』である怪人達を次々倒していくあの光景が目に焼き付いている。
だから、ではないが、あの時の恩を果たそうと考え、流浪の『ヒーロー』、『ホワイト・エッジス』として、名も知らない誰かを助けよう、救おうと考えたのだ。
そうして、戦い始めて、彼女の名を知り、彼女の関係者が勤めている『大平研究所』のバイト清掃員になったのだ。
恩返し、と言えばそうかもしれない。
だが、共に戦うことも側にいくことも出来るほどではない。
ならば、出来ることから始めよう。
生活費も稼がなくはならないし。
という世知辛い世の中を生きていく上で選んだ選択だったのだが。
それから、程なくして、『異世界』の住人がこの『世界』の侵攻を始め、『エクス・ロード・ブレイザー』という存在としてこの『世界』を自身のモノにしようとした。
それを止めようと涼子が動こうとしたのだが、涼子が動く前に、希が動き、倒してしまった。
『英雄』も『ヒーロー』もいないこの平和で平凡な『世界』で、だ。
そして、平和になったのだが、何を考えたのか、希は『エクス・ロード・ブレイザー』のコア、『トランス・ギア』を研究者である和義に渡してしまう。
もし、もう一人の『エクス・ロード・ブレイザー』が現れたらどうしようか。
涼子は気が気でなかった。
だが、何事もなく、研究材料として研究し、『国』にデータを出して言われたのは、一言にまとめられた。
『データまとめろ。』
それは、『トランス・ギア』が安全だと保証できれば、量産でもするというのか。
涼子は和義の研究に物申したかったが、残念ながら、涼子の立場は、ただのバイトの清掃員。
『国』から目をつけられるほどの博士である和義とは立場も何もかも違いすぎる。
どうしたものか。
と行動に移せず、悩んでいれば、今度は『エヌウス』という『悪』の組織が動き始めるではないか。
しかも、研究所にあった『トランス・ギア』は何処かへ消えたときた。
何処にいったのか、と涼子は思い悩んでいたのだが。
そんなときに、怪人に襲われてしまった。
そして、目が覚めると、上級生二人と何故かいる侍女という三人の組み合わせの三人組がいた。
その三人のうち、二人は知っている。
一人は『万能型独立思考自律駆動』というなにかすごいなにかという事しか分からないアンドロイドであるsigalである。
もう一人は、そのsigalの『主』であり、大平和義の息子である大平剛。
涼子より上の学年、二年生であるはずだが・・・・・・・・?
「目が覚めたか?」
「は、はい。」
「良かった。怪人に襲われて倒れてたんだ。目を覚ますか不安だったんだが。良かったよ。」
「は、はぁ。えっ。ということは、希先輩ですか?」
「姉ちゃん、有名だな。ま、違うんだけどな。いや、合ってるのか?」
「そうですね。『主』も私もいましたし。」
「えっ。先輩もsigalさんもです?」
「sigalのこと、知ってるのか?」
「えっ?えぇ。研究所でお見掛けした、ってだけですが。」
「そう言われれば、そうですね。確か、バイトの清掃員のお方、でしたか。たしか、博士に技術的なアドバイスをされた、とか。」
「清掃員なのに、アドバイス?」
「え、えぇ。『トランス・ギア』についての見解をしてほしいとか。」
「ん?ってことは、この子、ヤバくね?」
「何でです?」
「いや、ほら。」
と男子学生(名前は知らないが剛と対等の立場で話せてるとなると、先輩であろう)は剛の首もとを見る。
それに釣られて涼子も剛の首もとの方に視線を向ける。
その首もとには、キラキラと煌めいている『トランス・ギア』が。
「『トランス・ギア』っ!?」
ガバッと勢いよくベッドから起き上がり、剛と距離をとる。
涼子は距離をとると、片腕を虚空に向ける。
すると、そこから、生え出るように持ち手が現れ、涼子はその持ち手を強く握り、正面に構えるように振る。
ゴゥ、と轟音を靡かせ、巨大な大槌が姿を現す。
「ちょ、ちょい待て。民間人っ!俺、民間人っ!」
「sigalっ。」
「ja。」
男子学生は武器を持っていないとアピールするように騒ぎ始める。
それを邪魔だと判断したのか、剛は『トランス・ギア』を握り締めると、涼子を睨み付けるように強い眼光で見ながら、侍女に指示を出す。
剛の言葉を受け、sigalは『重力操作重力制御』を使って、男子学生を廊下に弾き出す。
「覚悟っ!!」
「『アクセスッ!!』」
駆け出すように向かってくる涼子に対し、剛は『トランス・ギア』を握りしめ、変身の言葉を言う。
その瞬間、涼子の身体が弾かれる。
「くっ。」
一瞬。
されど、一瞬。
その一瞬で剛の身体が覆われ、剛の身体に分厚い装甲が付かれていく。
「学校でやりたくはないんだがな。」
全身を分厚い装甲で覆われた剛が涼子に文句を言うように言葉を向ける。
だが、涼子は剛の姿を見て、ポカン、と口を開けて身体を固める。
「『エクス・ロード・ブレイザー』、じゃない!?誰ですか、貴方は!?」
「どういう意味かは分からんが、俺は『エクス・ナイト・ブレイザー』、『エクス・ナイト・ブレイザー』だ。」
確かにどういう意味があって、訊いてきたのは不明だが、sigalの事と姉、希の事を知っているのであれば、剛の事は知っているだろう。
先程、『エクス・ロード・ブレイザー』を知っている口振りで言ったのであれば、今の『エクス・ナイト・ブレイザー』を知らないと推測できる。
現に。
「『エクス・ナイト・ブレイザー』・・・・・・・?もう一つ、いたってこと?」
何かを涼子は考えているらしかった。
もう一つという意味がよく理解できないが。
「理解できたか?」
「『エクス・ロード・ブレイザー』では、ないんですね?」
「言ったはずだぞ。俺の名を。」
「確かに。」
そう言うと、涼子は大槌を下ろす。
「失礼しました、先輩。」
「いや、気にしてない。」
涼子の言葉を聞いて剛は気にしていないと返す。
「名前とか訊いても?ほら、こっちの名前は知ってるわけだし。」
「そうですね、確かに、そうです。冴草涼子と言います。以後よろしく。」
「覚えた。んで、冴草。」
「はい?なんでしょう、先輩?」
「あいつ、どうする?」
涼子に分かりやすいように、ふわふわ浮かんでいる腕で指を差し、涼子に訊く。
その方向には、sigalによって弾き飛ばされた英二と。
何故かロックンロールをしようと人類が生み出したエグい
英二をつまみ上げ、sigalと対峙している怪人がいた。
「手を上げて、人質を放しなさい。さもなくば、分かりますね?」
「はっ、挽き
「sigalさん、逆、逆。解放が先っ!」
「・・・・・・・・、そうでしたね。これは失敬。」
どういう会話をしていると思って駆け寄ってみれば、なぜかほんわかしそうな会話をしているのを聞いて、剛は危うく転けそうになった。
「sigal、分かりやすく状況を。」
「デートはよろしいので?」
「デッ。」
「デートじゃねぇよ。」
「ja。左様で。先ほど、うっかり飛ばしてしまったら、あの男性に当たってしまった様でして。」
「ぶつかったんだよっ!」
「うっかり?わざとじゃねぇか!!」
ふむ、と剛は顎に手を置いて、状況をまとめる。
ずばり、言うのであれば。
「うっかりだな。」
「あるんですか?」
「たまにな。sigalはうっかりってのがあるんだわ、これが。」
「成る程?」
「剛っ!なこたぁ良いから、助けてくれっ!」
「はっ、出来るのか、『エクス・ナイト・ブレイザー』っ!?」
まっ、校内だしな。
出来るんだけど。
と剛はゆっくりとした動作で、sigalに訊いてみる。
視点は、英二に、厳密には英二を掴み上げている怪人の手を向けたまま。
「いけるか?」
「ja。90%しかお約束できませんが。」
「さすがだ。そんだけ高かったら、上等。残りは補う。」
「あっ!?何言ってんだ、てめぇは!?こいつがどうなっても良いのか、おいっ!!」
剛とsigalの言葉に怪人は腹を立てて、頭に来たのだろう。
英二の身体を剛達、三人にも分かるようにぐいっと上げてみせる。
その瞬間。
怪人の腕が軋む音を出す。
メキメキッと有り得ない折れ方、というか捻られている。
sigalの『重力操作重力制御』によって何Gという重力が掛けられて、掛けられなくて、いるのか想像はしたくはない。
「う、腕がぁぁぁぁ!!」
捻られた腕を支えるように自由の効くもう一方で支えるようにする。
だが、その隙を逃す剛ではない。
普通であれば、肘があり、腕が浮かんでいるという現象はないのだが、今は普通とは違う『エクス・ナイト・ブレイザー』という姿である。
距離など今の剛には関係ない。
殴るように右の拳を突き出すと、一直線に右手が飛んでいく。
その右手は英二に向かっていき。
「うおっ!」
英二の襟首をしっかりと握る。
握ったと思った瞬間に、思いきり引き抜く。
「ぶおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
変な奇声を上げながら、英二は剛達の元へと来る。
「おかえり。」
「二度とごめんだ。」
思いきり、宙を浮かんで引き抜かれたのだ。
簡単には体験できるものではない。
だが、気持ちが良いものではなかったのであろう。
ひどく気分が悪そうに英二が言う。
そんな剛達に怪人は指を差して、言う。
「これで勝てたと思うのかっ!!」
「思わねーさ。でも、もう勝ったもんだしな。」
「なにっ!?」
剛の言葉を聞いて、怪人は疑問の声を出す。
その怪人に分かるように、怪人を指差しながら、剛は言う。
「さっき、英二が助けてくれって言ったからな。さて、ヒントを出そうか。ヒント1、ここは十久札第一高等学校っていう十久札町の高校である。ヒント2、大平希は高校生である。」
「まさか。」
「そのまさかさ。」
剛の言葉を聞いて怪人の顔からサァー、と血が引いていく。
その瞬間。
「とぅ!!」
と誰かの声が聞こえる。
その声は、女性の様に聞こえた。
「ライダァァァァァァァ・ブレイクァァァァァァァ!!」
女子高生の飛び蹴りが、怪人の身体に突き刺さり、身体を地面に突き刺した瞬間、更に身体を蹴り、身体をくるくると回転さしながら、後方へと宙返りする。
スタッ、と地面に足を着けた瞬間、吹き飛ばされ、地面に身体を縫われた怪人の身体が爆発する。
「滅、殺っ。悪は滅んだ。」
「流石だぜ、姉ちゃん。」
その女子高生は無論、大平希、その人であった。
「なに変身してるの、剛?なんかあった?」
「何もなくて変身するかよ。こいつがな、勘違いしたみたいでさ、なぁ?」
「こいつ?誰?」
隣にいたであろう、涼子を指差したつもりだったのだが、希は剛に訊いてくる。
「えっ。」
その疑問の声を聞いて剛は隣を見る。
すると、そこには誰もいなかった。
とあるヒーローの日常風景 田中井康夫 @brade
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