第二話
ヒーロー、見参っ!
普通の、と付くのかは疑問点が多すぎると思われる。
この
だが、世界でという意味では、普通とは言い難い。
剛の姉である
そんな『改造人間』でもない純正の人間のチート人間の弟である剛が普通であるわけがない。
運動能力も普通の、一般レベルの高校生のレベルの高さではなく、スポーツ選手かと思われる位には高いのだ。
そんな普通ではない普通の高校生であった剛は、通学前に姉である希から待て、と言われ一階のダイニングで待っている。
まぁ、おおよその予測は付くが。
「こちらをどうぞ。」
「おぅ。・・・・・・・・・・・って、sigalっ!?」
「ja。なにか?」
剛の驚きを普段通りの対応で剛の世話役兼護衛の『万能型独立思考自律駆動』というとんでない技術が使われているアンドロイドである侍女、sigalはしれっと反応する。
昨日のダメージはないように見える。
片腕に大きな損傷を受けていた様に見えたが、今の彼女は痛がる様子も素振りも見せない。
「sigal、お前、腕は?」
「腕、ですか?」
「昨日、だらんって、ぶら下がってるように見えたんだけど。」
「ja。替えました。」
「替えた?」
「ja。使いにくいので。」
sigalの言葉を聞いて、そういえばそうだったな、と剛は思い出す。
普通の人間と同じ様に、対応し、会話する。
そこにはズレというタイムラグは存在しない。
どれ程、優秀な機械であっても多少はあるものだ。
だが、sigalやエリスは普通の人間ではなく、『人造人間』と言っても過言ではない機械の塊、無機物の集合体である。
それを忘れていた。
故に、普通は聞くことのない腕を替えるという言葉に剛は何事か理解するのに、少し時間が掛かった。
sigalは普通の人と違うんだという事を胸に置くように剛に言うが、剛にはそんなこと出来る筈がなかった。
するつもりもないが。
「ちょ、調子良いか?」
「ja。腕の、という事でしたら良いですね。流石、新品と言わせてもらいましょうか。」
「腕の?」
「ja。先程の『マスター』が訊かれた問いに全身の、という意味で訊かれたのであれば、nine。私の役目を全うする事も出来ずに、『マスター』を危険な目に合わせるなどと護衛の名が笑えます。なので、悪いと言えましょう。」
「待て、sigal。」
「nine。解体されてもおかしくはない、とただ現実の話をしているだけです。『主』を危険に遭わせるなどとは。護衛役失格です。」
「sigal・・・・・・・・。」
確かに、彼女の、sigalの言う通りなのかもしれない。
たまたま起きた偶然に、遭遇して、失敗した。
ただ、それだけでしかない。
彼女は彼女なりに考えている。
役目も果たせない機械など誰が使うと言うのか。
彼女は剛にそう訊いている。
彼女の言葉も確かであり、また事実だ。
だが。
しかし、である。
sigalがいたからこそ、剛は今ここに立っている事が出来るし、sigalともこうして話せる。
「よく聞いてくれ、sigal。」
「ja、『マスター』。」
剛は今がその時だと思い、sigalに思いをぶつける覚悟をした。
それを察したのか、sigalは剛の方に身体を向かせ、両目で剛の両目を見る。
「お前がどう感じ、どう思ったのか、大体分かった。だが、一つ。一つだけ言えることがある。」
「ja。それは?」
「お前が頑張ってくれてるから、今、俺達はこうして話せるし、こうして互いの目を見れる。こうしてお前にも触れられる。」
剛はそう言い、sigalの肩に触れる。
「使命を果たせない機械がどうとか俺にゃ分からん。だが、お前のお陰で俺はここにいる。いられるんだ。だから、役目が云々って言うんなら、傍にいてくれ。お前がいなくちゃ、俺はここにはいない。」
「ja。『マスター』、貴方の思い、しかと受け取りました。であるなら、力不足かもしれませんが、貴方のお傍、私が失礼します。そして。」
sigalは肩に触れた剛の手を両手で優しく包み込む。
「貴方をお守りします。命絶えるその時まで。」
「あぁ、こっちこそ、よろしく頼む。」
「ja、『我が主』。」
包み込まれた手の上から剛はもう片方の手を置く。
「ということですので、博士。私は死ねません。解体するのであれば、別の時、いえ、死んでからにしてください。」
「あー、そんなことはしないよ、sigal。」
sigalは剛にではなく、いつの間にかいた
「父さんっ!?いつからそこにっ!?」
「うん?『sigal、お前、腕は?』からかな?」
「全部、聞いてたのかよっ!!」
「途中までさ。途中まで。」
と、何が嬉しいのか和義は笑顔で剛とsigalの二人を見る。
その目は二人の手の方へと向かっていき・・・・・・・・・・。
「良い主従関係じゃないか、剛?」
「なに、にやついてんだよ、父さんっ!!」
「ja。『主』の言う通りです、博士。」
ばっ、と剛とsigalは互いの手を離す。
その様子を見て和義はうんうん、と頷く。
「それで、希は?話があるって叩き起こされたんだけど。」
「そうだ、それで思い出した。父さん、これ、どういうつもりで渡したんだよ?」
と言うと、首に掛けてある『トランス・ギア』を和義にも分かるように見せる。
「どういうつもり、か。ということは、使えたんだな?」
「使えなきゃ、こうして話してないさ。」
剛はやや強めに和義に言う。
どう説明したものかな、と和義は頭を掻く。
ちょうどその時、希が現れる。
「ちょ、どこ行ってたのさ、父さん!」
「姉ちゃん、父さんの事探してたのか。」
「まぁね。ってそれ、『トランス・ギア』じゃん。なんで、剛が持ってんの?」
「姉ちゃん、これ、知ってるのか?」
剛が『トランス・ギア』の事を疑問に思ったのか、希は何故、持っているのかと剛に訊く。
剛は希が何故知っているのかと希に訊く。
「えっ、だって、それ、『ゲス』のコアじゃん。」
「『ゲス』?」
何の事か、分からない剛は聞き返すように言う。
前に聞いた事と違うように聞こえるのだが。
「どうして、剛が持ってるのよ、父さん。」
「説明してよ、父さん。」
「ja。説明は受けましたが、私は概要しか知りません。なので、詳細なデータの開示を求めます、博士。」
「お前もか、sigal。」
「ja。『主』の護衛兼世話役ですので。」
sigalも剛達の側に立ったことに、和義は、話す覚悟を決めるが、それでも抵抗を試みる。
「あー、長くなるぞ?」
「それが?」
「学校あるだろ?」
「体調不良だから、仕方ない。」
「いや、でも。」
「それ言ったら、姉ちゃんはどうなんの?」
「sigalも何か言ってやって。」
「nine。『主』が求めるのは説明です、博士。なので、私からはなにも。」
「・・・・・・・・・・・・どうしても?」
「どうしても。」
抵抗を試みても、全員が説明をしてくれと言ってくる。
sigalもあちらに付いてしまった以上はもう負けを認めるしかあるまい。
和義は覚悟を決めた。
「朝ごはん、食べながらで良いかな?」
「あれはそう。ちょっと前の事だったかな。」
和義は、どこか遠い目をしながら、話し出す。
「希が『ゲイルズ・アルト』の連中を相手にしてた時だったな。」
「なにそれ?」
「う~んと、機械による機械における機械のための『世界』のために『世界征服』を掲げてた連中だったかな?」
「ほぅ。それはそれは。なかなか面白いですね。」
「sigal、やりたいって思う?」
「nine。まさか。『主』のためにいる私が、『主』を消すなど。自ら存在理由を消す『ポンコツ』以下ではありませんか。消すと言うのであれば、私が消します。」
ハッ、という様にsigalは鼻で笑う様に言う。
そのsigalの言葉を聞いて、ちょっと設定間違えたかな、と和義は後悔を覚え、希は敵にいなくて良かったと嬉しく思った。
「それで、博士?その『ポンコツ』集団が?」
「あ、あぁ。希がそいつらのボスを倒してな。その時に手に入ったのが、『トランス・ギア』だったということさ。」
軽く『ポンコツ』だと言うsigalに戦慄を覚え始めた和義達、大平一家の面子はsigal怖っ、と若干恐怖に似たなにかを感じた。
だが、和義の言葉を聞いて、剛は現実に戻ってきて疑問をぶつける。
「うん?そうなると、それ使ってる俺って不味くね?」
「いや。今の時点で私と希は生きてる。であれば、大丈夫と言える。」
「ってか、『国』が云々って話は?」
「それも本当。データを集めて安全かどうかを確認してほしいって『国』に頼まれてね。」
「ってか、なんでそんな話に?」
「そっか、剛は知らないのか。言ってないの、sigal?」
「ja。『主』を不安にさせるかと思いまして。」
うんうん、と和義は頷くが、剛には全然分からない。
「つか、これ何?」
「説明するわ!『トランス・ギア』とは、使用者に人々の想いを具現化した『英雄』、ずばり『ヒーロー』になれるの!」
「『国』にそれが確かかどうか、安全かどうかの確認をしてほしいと言われてね。エリスに頼もうかと考えたんだが、『ゲイルズ・アルト』の件もある。sigalも同様の理由で除外。希は・・・・・・・・・・・使わないと思ってね。」
「まぁね。知ってるし。」
と理由を明かす。
ま、知ってたらそりゃ使いたくもないだろう。
「で、俺と。実験台に自分の息子使うってどういう神経してんの、父さん?」
「だって、sigalいるし。もしもってなっても良いかなって。」
「そうしたとして、仮に『主』を殺すことが出来ても、私は死にます。」
「あー、うん。」
おおよそではあるが、大体は分かった。
大体しか理解はできないが。
「つまり、『ヒーロー』を生み出しても、敵になる危険はないのかどうか、って確かめたかった。それを確認したかった?」
「そういうことだね。」
「じゃ、なんで襲われたの?」
「知らないね。データを取りたい、ただその為に、襲わせるなんてのは、親じゃない。研究者だ。」
えっ、と和義以外の全員は和義の言葉に疑問を持った。
あんた、今、そう言ったがな、と。
sigalは不安に思った親心から剛に持たせたことを知っている。
だが、剛が襲われた理由は、本当はそうでないかと疑問に思い、聞いていたのだが。
「というより、私よりも希の方が知ってそうだけどね。どうだい、希?」
「『エヌウス』が動き出したってことくらいしか知らないよ、私?それに、剛が相手にしてた怪人も『エヌウス』かどうかっての分かんないし。」
「という事は、あの怪人が『エヌウス』の幹部クラスかどうかという事も分からない、と。分かったのは、『主』が持っている『トランス・ギア』がどういう代物であるのかということと『トランス・ギア』がここにあり、『主』が持っている理由だけ、と。少ないですね。」
「それだけでも十分だと思えるんだけどねぇ。」
「ってことは、昨日のは『エヌウス』の連中でたまたま遭遇した、偶然ってことか?」
「そうなるね。」
「マジかよ。」
ということは情報がないこちらにとって『エヌウス』という『悪の組織』に剛が『エクス・ナイト・ブレイザー』に変身出来るという事と剛が『エクス・ナイト・ブレイザー』であるという事を知られているという事が敵に、『エヌウス』に知れ渡っているという不利な状況になっている。
『ヒーロー』がいれば、一年位で決着に持っていけるだろうが、これは現実。
リアルの話である。
テレビ番組の様に簡単にはいかない。
それを言えば、身体能力がおかしい希はどうなんだ、という話なわけだが。
とそこまで考えてふと剛は思った。
なぜ、希は『トランス・ギア』の事を知っているのだろうか。
「姉ちゃん、あのさ。」
「なに、剛?どうしたの?」
「なんで『トランス・ギア』の事知ってるの?つか、説明になってない説明だから、それ。」
「なんでって言われると、戦ったから?」
「戦っ・・・・・・っ。」
希の言葉を剛は理解し、言葉を喉に詰まらせる。
戦ったという事は、前の装着者がいたという事であり。
そして、今ここに『トランス・ギア』があるという事は、つまり、・・・・・・・。
「nine。『主』、それは違いますよ。」
剛が何を考えているのかをsigalは察して、剛の考えを否定する。
「違うのか、sigal?」
「貴方が考えている事に対して言うなら、nine。それはないと思い、そちらを考えるのをやめた事に対しては、ja。希は殴り合いをしただけです。」
「そうだよ、剛。それに私は『ゲス』のコアって言ったよ。」
「そういや、言ってたな、姉ちゃん。」
そういえば、と剛は希の言葉を思い出す。
というより、説明されていないのだが。
「『ゲス』ってのは、『エクス・ロード・ブレイザー』とか言うヤツ、だったかな?『英雄』も『ヒーロー』もいない『世界』を人間がいない『世界』に作り替える、とかなんとか。ま、それが何よ、『英雄』も『ヒーロー』もいないってことは誰もがなれないんじゃない、誰もがなれるんだ、ってぶっ飛ばしてやったけど。あー、思い出すだけで腹立ってきた。」
「ぶっ飛ばした?素手で?」
「手と足使って。なぁ~に、剛?私が飛び道具でも使うと思った?」
「だよな。」
まぁ、知ってはいたが。
となれば、そのコアを使って、変身したという事になる。
そして、希と和義の二人を剛が『エクス・ナイト・ブレイザー』となって襲ってはいない。
ということは、安全が確認できたと言えるのではないだろうか。
そう思い、和義を剛は見てみる。
だが、和義は渋く顔を歪ませる様に皺を寄せている。
「う~ん、剛。言いにくいんだが、良いかな?」
「なにさ。」
「いや、『トランス・ギア』を使用したのは今回が初めてだな?」
「ま、渡されたの、昨日だしね。」
「一回限りの使用では安全とは言えない。十回、百回、千回と回数を増やして剛が何も変化したところがなくて初めて安全だと言えるんだ。だから。」
「分かったよ、父さん。しばらくは持ってみる。」
「すまんが、そうしてくれ。」
和義の言葉を聞いて剛は納得する。
どうやら、『エクス・ナイト・ブレイザー』として戦わなければいけないらしい。
正直に言えば、恥ずかしいのだが。
ふと、希を剛は見てみる。
「なに、不安?大丈夫、大丈夫。お姉ちゃん、強いんだから。」
「あぁ、うん。知ってる。」
ま、この特撮好きで特撮的トレーニングを日常的に行っている『歩く正義女』として警察にマークされている姉の事が心配かどうかと言えば、全く心配していないのだが。
警察にマークされているというのは、日常的に自殺としか思えない高速道路への侵入をして人を助けた上に自身も無事という迷惑のようなそうでないような微妙なラインで行動している希を迷惑女的にマークしているという事だ。
偽善でもなんでもない、善意でしているので判断が難しいが。
だが、罪は犯してはいない。
あくまでも善意である。
扱いが難しいが。
そういう風に剛が思っていると、sigalが剛の手を握ってくる。
「大丈夫ですよ、『主』。貴方の傍に私がおります。一人ではありません。」
「お、おぅ。」
sigalの視線と向けられた言葉を受けて、剛は動揺した様に声を出す。
いつも受けている視線と言葉ではあるが、何故かいつもと違う気がする。
気のせいであろうか。
「あー、ゴホン。剛、希。学校行かないのか?」
「うん?私は別に。いつも通りだし。」
「遅刻するって初めてだけど。単位欲しいし。っつか、卒業する気ないだろ、姉ちゃん。」
「ja。そう言えば、『主』は初遅刻でしたか。無遅刻無欠席に遅刻の汚点を付けるとは。」
「別に気にしてないさ、sigal。家族会議の方が重要さ。特に今日は、な。」
分かっただけでも有意義さ、と言うように剛はsigalに言う。
これからは自身も戦場に立たなければならない。
見ている側でしかなかった自分が、だ。
確かに怖いかもしれない。
いつ自身が味方に、希やsigalに、和義に、武器を向けるかもしれない。
今は大丈夫であっても、未来の事は誰にも分からない。
だが、剛は一人ではない。
もうお前一人だけでも良いんじゃないかな、と言われそうな自慢の姉、希がいる。
共にいると、剛一人にはさせないと言う侍女が、sigalがいる。
その後ろには父である和義がバックアップに付いている。
一人ではない。
一人だけで戦うという孤独な戦士ではない。
それさえ。
それさえ、分かればそれでいい。
それでいいのだ。
今は。
「いやぁ~。二人で遅刻して、通学するってのもなんだかんだで初めてか。」
「姉ちゃん、朝早く出るくせに、朝遅く来るんだもんな。そりゃ、初めてになるさ。」
「ja。となれば、『主』のご登校に同行するというのも初めてということに・・・・・・・・・・・・?」
「高校になってから、か。ま、そう言えるんじゃねぇの?ってか、何してんのっ!?」
「ja。『主』と共にいるというのが従者の、いえ、侍女の務め。何があるか、分かりませんので。」
「言ってること、分かりません。」
「ja。であるなら、侍女として、いえ、護衛兼世話役として、『主』の傍に付かせていただく、と言っているのですが。」
「あぁ、うん。分かった。」
できれば、分かりたくないな~、と剛は心の中で大声で泣いていた。
たしか、今までは高校生活、もとい、学生生活を送る中でいくら護衛兼世話役とは言えど、クラスの中にまで入らなくても良いのではないか、と和義に説得されたと思うのだが。
『主』の学生生活に泥を塗っては侍女とは言えない、とsigal自身も自身を納得させていたと思うのだが。
その為か、放課後には行動を共にしていても問題にはならないし、『主』に泥を、汚点を付けないから大丈夫、という独自の理論で、剛を言いくるめた。
ま、それならいいか、と剛も納得していたのだが。
今は放課後でもなんでもない。
良いのだろうか。
と剛が疑問に思っていると。
「キャーー!!」
突然、何処かからか叫び声が聞こえる。
「あっちねっ!!」
声が聞こえたであろう方向に希は身体を向けると、身体を縮め、膝を折り、ビューン、と膝のバネを使って、天高く飛び上がる。
相変わらずスゲェな、姉ちゃん、と剛は思っていると。
「敵ですかっ。」
sigalはスカートに手を掛け、バサァ、とスカートを広げる。
広げたスカートからは、どこにどうやって収容していたのかと言うくらいの金属パーツが次々と飛び出していき、ガチッ、ガチッ、と互いを互いで強く繋いでいく。
そうすると、ロックンロールでも踊りそうなガトリングランチャーがsigalの手に握られている。
あっ、こうしてる場合じゃねぇ、と剛は叫び声が聞こえた方、いや、どちらかと言えば、希が飛んで行った方に足を向けて、走り出す。
その剛の後ろを、ジャラジャラ、というどちらかと言うと、できれば聞きたくない音を鳴らしながら、sigalが追ってくる。
こうして見てみれば、ロックンロールから逃げている男とロックンロールをしたい女という被害者と加害者の二人に見えなくもないのだが。
やがて、視界が光景を映し出す。
怪人が三人おり、一人が希に蹴り飛ばされている。
一人は剛達に気付いて、大声を出している。
一人の足元には女子高生の制服姿が。
無事であるようには見えるが、所々擦りむいているようで、切り傷が少し目立つ。
怪人三人で女子高生を襲った、そして、女子高生は叫び声を上げ、気を失った。
詳しくは分からないが、状況を見れば、そう捉える事が出来る。
クソ怪人がっ、と剛は怒りを感じ、首から下がっている『トランス・ギア』に手を伸ばし、強く握る。
「『アクセス』ッ!!」
想像するのは、『世界』が望む『英雄』の姿ではない。
『誰か』が待ち望む『英雄』でもない。
剛が、自分自身が望む『
『ヒーロー』として、望む姿だ。
パリィン、と『トランス・ギア』が砕け、砕けた破片が剛の身体を覆うように、包むように、剛の身体の周りを飛び始める。
やがて、カチッ、カチッ、と自身の身体が金属に近い『なにか』に覆われ、自身の顔面を守るように分厚いバイザーに包み込まれると、バッ、と両手を広げる。
「『エクス・ナイト・ブレイザー』、只今、現、着ッ!!俺が相手だ、怪人共ッ!!」
と剛が言うのと、同時くらいにsigalの持つガトリングランチャーがロックンロールの咆哮を上げんとでも言うかのようにキュルキュル、と回り始める。
「て、てめぇら!こっちは素手だぞっ!卑怯だと思わないのかっ!」
怪人の一人が大声を出して、剛達に言う。
だが。
「nine。人質を取っているそちらが卑怯では?」
とsigalは冷たく言う。
その言葉に同調するかのように、今まで蹴っていた怪人を空に蹴り上げ、希は言う。
「そうそう、良いこと言うじゃん、sigal!」
蹴り上げた怪人に止めを刺すように様に、とぅ、と希は蹴り上げた怪人より空高く、飛び上がる。
「姉ちゃんの言う通りだ。自分の穴くらい自分で拭く位の覚悟でも持つんだな。」
ヒュ、と両腕を振るい、二本の刃を両の手に現すと、剛もとぅ、と高く飛び上がる。
飛び上がったと同時に、sigalがロックンロールを聴かせんとガトリングを打ち出す。
ブォ、ブォォォォォォォォォン、という聴きたいとは思いたくない重い音を鳴り響かせてガトリングランチャーが唸る。
『重力制御重力操作』で倒れている女子高生に当たらないように、弾の軌道をsigalは上手く調整する。
すると、足元に人質を置いていた怪人の身体に全ての弾が命中し、上半身が下半身を残して、吹き飛ぶ。
「ライダァァァァァァァァ・ブレイクァァァァァァァァ!!!」
希は技名を大声で呼びながら、足を怪人の身体に突き刺すように、飛び蹴りを怪人に食らわす。
うぐっ!と呻き声を出して、怪人の身体は地面へと落ちていく。
そして。
「グッハァァ!!」
と地面に叩き付けられるように、希が怪人を地面に縫い止める。
「テンペストォォォォォォォォォ・ブレイクァァァァァァァァ!!」
両手に握られている二本の刃が回りだし、円を描くように、中心を開ける。
その中心から、剛が出てくると、剛の蹴りが、足が、怪人の身体に深く突き刺さり、その蹴りに合わせる様に、両の、二本の刃が怪人の身体に突き刺さり、回り出す。
そして、更に剛は怪人の身体を蹴り、自身の身体を回転させながら、誰もいない大地に降り立つ。
「滅、殺ッ!!」
いつの間にか右斜め上に上げていた左腕を左後ろに振り抜く。
それと同じか、それより早いかというタイミングで怪人の身体がゆっくりと倒れていき、地に触れるか触れないかのタイミングでドカァンッ!と身体が爆発する。
「これにて、悪党成敗なりってね。」
「ja。珍しく希と同意見です。明日は雨ですね。」
「それって、ひどくない、sigalっ!」
「だったら、雲より上からでもドライアイスでも降らすか、姉ちゃん?」
「面倒だから、パス。」
「ひでぇな、おい。」
「ところで、『主』。彼女は如何します?」
sigalの言葉を聞いて、剛は、そう言えば、そうだったな、と思い出して、女子高生を見る。
幸か不幸か、女子高生の着ている制服は剛達の通う高校、
折角ではあるので、学校の保健室に連れていくか。
「運んでくか。」
「私はパス。運ぶの無理。蹴って行くなら話は別だけど。」
「行かねーよ!?」
「ja。であれば、補助します、『主』。」
蹴りながら行くと言うのであればやると言う希に剛は強く否定する。
sigalは剛の補助を自ら薦める様に言う。
そして、剛は気が付いた。
「えっ。俺が運ぶの?」
剛の言葉に答えるかのように風がヒュー、と吹く。
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