第03説 夕暮れの神社参り

 引越しが無事に終わった頃には夕方になっていた。両親が近所の挨拶あいさつ回りをしている間、自分は“ある場所”へ向かった。我が家のある此所ココくずちょうには、ある伝説が存在する。そう、葛の葉伝説である。葛の葉伝説は、大阪で言わずと知れたオンミョウジ*安倍あべの晴明せいめい出生シュッショウの秘密に関する伝説である。

 その内容は、安倍晴明の父親とされる安倍あべのやすという侍が信太森しのだのもり狩人かりうどおそわれていた白狐シロギツネを助けるが、保名やすな自身は怪我けがをしてしまう。すると、通りかかったくずと名乗る娘が怪我をした保名を介抱し家へ見舞いに来るようになった。いつしか、恋仲になり結婚して子供を授かる(童心丸どうしんまると名づけられた子供は、のちオンミョウジ*安倍晴明として世に知れ渡る事となる)。しかし、童心丸が五歳の時に葛の葉の正体が保名に助けられた白狐であるという事が発覚してしまう。気づかれた葛の葉は、ある一句を残し、しのだのもりへと帰ってしまった。「恋しくば 尋ね来てみよ 和泉なる 信太の森の うらみ葛の葉」


⛩⛩⛩⛩⛩⛩⛩⛩⛩⛩


 信太森しのだのもり葛葉くずのは稲荷いなり神社の鳥居の前で一礼する。病気で亡くなったお爺ちゃんの影響で神社参りだけは欠かさなかった。そして病気が治ると信じて来る日も来る日も通った。でも、お爺ちゃんは…。大阪を出る時に書いた六年前の絵馬えまには、“もう一度、我が家へ帰ってれますように”とねが奉納ほうのうした。つらなる朱色しゅいろの鳥居を通り抜けやしろに参拝する。 "これから"をがんした。沈みかけのゆうで、空は夕焼けに染まっている。無事に参拝をえ、連なる朱色の鳥居をくぐり戻っていると白い着物を着た白髪はくはつの若い女性と、すれ違った。誰が見ても綺麗きれいと言うであろう美人べっぴんかただった。振り返ると、その女性にられるかの様にして境内にぶら下げられていたクレナイ提灯ちょうちんが、女の人が歩くに連れて自然といていった。その、家に着くと疲れのせいか自分の部屋にある小さなコタツで、ぐっすりと寝込んでしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る