第4話「やっぱ俺、“医者”になるわ」


機内



「うっ・・」



突然、新聞を読んでいたおじいさんが苦しみだした。



「あ、あなた!しっかりして!」



老夫婦の妻が、おじいさんに言った。


​持病の心臓発作が、おじいさんを襲ったらしい。



「ど、どなたか、お医者様はいらっしゃいませんか?!」



それを見たキャビンアテンダントの女性が、機内で叫んだ。



​『急患です。お客様の中に、お医者様がおりましたら、お近くの乗務員まで、お申し出ください。』


すぐに機内放送が流れた。


​しかし、誰も名乗り出る者はいなかった。



ど、どうしよう。​



私には、見守ることしかできない・・・。



お願い、誰か・・・・・。



ガタッ



すると、廊下側の席に座っていた兄は立ち上がった。


そして、近くにいたキャビンアテンダントに告げる。



​「“医者”ですが、患者さんはどちらに?」



「ちょっ、兄さん!?」



“救世主”になろうとしてる男が、“医者”を名乗り出した。




「お、お医者様ですか!?」



キャビンアテンダントの女性は、にわかに信じられないといった顔をしていた。



​「い、いくらなんでも・・」



「結里花」



兄は、私の言葉を遮った。



「・・俺」




「“医者”になるわ」



数分後



「・・大丈夫です。安心してください。」


兄さんは、おばあさんに言った。



​おじいさんは既に、息をしていなかった。



​いや、安心できないよ。


​さっきまで、“世界を救う”とか意味わかないこと言ってたのに。


もし救えなかったらどうするんだろう。



っていうか、医学的知識もないのに、どうやって・・・。



ピト・・



兄は、おじいさんの胸に触れた。



同時に右手の人差し指と中指をワンセットにして、その指先を額に当て、目を瞑った。




「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」




沈黙が続く。



周りのみんなは、ただひたすら見守る。








カッ!





しばらくして、兄は瞑っていた目を一気に見開いた。



​直後、固く閉ざされた兄の口が動き出す。





「・・SZ(救ったぜ)」




略すなw




「おおおおおおおっ」




歓声がドッと沸き起こった。



本当に、兄は奇跡を起こしてしまった。



実の妹である私でさえ、その“奇跡”が何なのか理解できていない。



パチパチパチパチパチ・・・・・・



拍手がしばらく、止むことはなかった。



もしかしたら、本当に…



お兄ちゃんは・・・・。



「あ、あの・・」



座席でスヤスヤ眠るおじいさんの傍らで、おばあさんは兄に声を掛けた。



「お、お名前は・・・?」




「“世界を救う者”です」



兄は答えた。



まだ、世界は救えてないけど、さっき兄さんは、おじいさんの命を救ってしまった。



「兄さん・・」




「だから言っただろ?」



兄は振り返り、私を見た。



「“お兄ちゃんにできないことは、1つたりとも存在しない”って・・・」



やっぱり。



お兄ちゃんはすごかった。



「うん」



「今のお兄ちゃんなら」



「本当に、世界救っちゃうかもね・・・」



​私は嬉し涙を浮かべながら言った。



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