失敗続き

 バンドを結成して半年経って、8ヶ月経って……僕たちは3年生になった。

 入学当初162センチだった身長が急激に伸び始め……3年生になる頃には175センチを優に超えていた僕は、その頃から急激にモテるようになった。


 ……だけど、彼女はまだ振り向いてはくれなかった。

 だけど、だけど少しずつ。彼女は僕の詞を、曲を、認めてくれるようになった。



「……Blauer Himmelの、一番のファンは私だね」

 ある日……森子が、そう言って微笑んでくれた。

「……ふぁ、ファン?」

 僕の問いに、彼女が頷く。

「好きだよ、眞鍋の詞」

「あ……でも……それは森永さんが、ずっと読んでくれたから……」

「この、くそキモいとこが良いよね」

 そんな僕の言葉にかぶせ、森子がキッパリという。

「そんな風に思われる彼女も幸せなんじゃないかって……二年経って、やっと思えるようになったよ。だけど、リアルな彼女が出来たら、殺してくれなんて言うんじゃないわよ? 彼女がこまっちゃうから」

 そう言って、森子がにこっと微笑む。

「……じゃ……じゃあ、森永さんが、俺のリアルな彼女になれば良いじゃん。殺してくれなんて言わないから。あ、でも、浮気したら殺しても良いから」

 口が滑った。

「……私が? 眞鍋の彼女に?」

 SMの趣味でもあるのかと、言葉攻めが好きなマゾかと、彼女は真剣に僕に問いかける。

「……多分、そっちの趣味はないと思うんだけど、だけど、君の言葉攻めには二年間耐えた。だからおそらく俺は潜在的なマゾだと思う」

 もう、自分が何を言っているのか分からない。

「これからも君の言葉攻めを受けたいと思うんだけど、君はサドになる自信はあるか?」

「サドもなにも、これが私の素だから」

 フランス人形のように表情を変えない、美しい彼女は、30センチ以上背が高くなってしまった僕を見上げた。

「……2年前なら良かったんだけどねえ。そんなにデカくなっちゃったんじゃあ、キスもしづらいから。ヤダ」

 彼女が、キッパリと僕を否定する。

「しゃ、しゃがめば良いじゃないか。たまに肩車して、視点2.5mの世界を楽しませてあげるし」

 身長145センチあるかどうか分からない彼女に向かって、僕は必死で説得を試みた。


 ……だけど。その日の彼女の回答は「NO」だった。

 無理もない。二年半も、「友達」だった男からの突然の告白だ。まずは恋愛対象に見るところから始めて貰わなくてはならないのに、僕は何かを焦りすぎた。


 まず、僕は、高くなりすぎた身長を、小柄な彼女のために有効に使うことを思いついた。

 脚立がなければ取れないモノをすべてとってあげる。「図書館や本屋で男の子に本を取ってもらうとドキッとする」効果を狙ったんだけど、これは今までもずっとやってあげていたのでそれほどの効果はなかった。

 次に、「かわいすぎる彼女を暴漢地元ヤンキーから守る」をやってみたけど、僕より合気道初段の彼女の方がはるかに強かった。地元のヤンキーは一年の頃にあらかた〆終わって、今では「姐さん」と呼ばれているそうだ。

 勉強は一応、大学進学を目指していた僕の方がはるかに出来た。だけど、そもそも高校卒業後の進路をすでに美容専門学校に決定している彼女には、これ以上勉強を教えても何の意味もなかった。

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