Blauer Himmel

 以来二年間、僕は詞を作り続けては彼女に見せているんだけど、その詞たちは残念ながら彼女の心を掴むことは出来ていない。それどころか、駄作過ぎて呆れられ、ここ半年は駄作を破られては踏みにじられる日が続いていた。



「あんな怖い女のなにが良いんだか」

 高校に入ってから親友になった、鈴木博人ハクトが、そんな僕を呆れたように笑う。

「森永なんて、顔が綺麗なだけで、性格最悪じゃん」

 ハクトは顔が綺麗で社交的だから、女の子に良くモテる。森子ほど綺麗な女の子に出会った事はないけど、顔もそこそこ、性格も良くてスタイル最高な女の子とだったら何人も付き合ってるし、紹介もしてあげるのにと、僕を嗤った。

「それでも……俺は森子が好きだから」

 僕が微笑むと、ハクトは呆れたように目を細め、「バンドでもやろうか。モテるかもよ」と呟いた。

「バンド?」

「ギター。今、練習してるんだ。モテるかと思って」

「お前がそれ以上モテてどうすんだよ」

 僕はハクトの短絡さに呆れたけど、四歳の頃からピアノを習っていて、曲を作ることはそれほど苦じゃなかったし、詞を書くことも嫌いじゃない。面白そうなので、ハクトの誘いに乗ることにした。


 ……バンドの名前は、「Blauer Himmelブラウワー ヒンメル


 ドイツ語で「青空」という単語だ。良いネタが思い浮かばなかったので、ハクトが大好きなブルーハーツの曲からパクった。パクるだけではなんなので、当時僕が独学で習っていたドイツ語で名前を付けた。それだけだ。

 半年くらいして、いろんなライブハウスでお世話になることになってから、その名前にしたことに激しく後悔した。

 名前が長い。

 文字数が多すぎて、ドイツ語を習得していない僕以外のメンバーが自分のバンド名をかけないことに気がついた。

「バンドの名前がちゃんと書ける」

 ただそれだけのことで、僕はバンドのリーダーになった。


 バンドのメンバーは、まずはギターのハクト。

 YOUTUBEやニコ動で「やってみた」なんかをUPするほどにテクニックはあるが、実はまったくタブ譜が読めない。今まで覚えた曲はすべて耳コピらしく、こいつにギターパートを覚えさせるために、僕は自分の曲を作る際、まずはパソコンでデモを作るところからはじめることになった。

 ドラムのシンゴにベースのユウヤ。ユウヤの実家が八百屋で、二十時には店じまいをする。その店が終わってからおじさんが寝てしまう二十二時までを、バンドの練習場として貸してもらえることになっている。

 困ったのは、ドラムのシンゴだ。彼は偏差値が七十もある進学校のお坊ちゃまだった。ひとつのことにしか集中できない彼はバンドの練習に一生懸命になりすぎ、ちょいちょいテストの点数を落としてしまう。そうするとママに怒られて、ライブのある日に家から出ることを禁止されることがあった。




 ……そんなとき、僕たちのヘルプを買って出てくれる人がいた。

 シドさんという、二つ年上のドラムス。

 去年高校を卒業したばかりで、今は「jack in the box」というバンドに所属し、プロを目指してヒモ生活だと自分を嗤っている。日本人の血の方が多いというのが信じられないほどに見た目が欧米人のクォーターで、ガタイも良くて、ドラムの演奏も僕の譜面は初見のはずなのに、シンゴより上手に叩く。

「出演料は、お前らが稼げるようになってからで良いから」

 そう言って、シドさんはいつもヘルプのお礼金も受け取らず、缶コーヒー一本だけ奢らせてくれた。

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