2.再会

 それでも、イサと犬、そして羅は、翌朝早くから起き出して、三人がかりで舟を作り始めた。

「今までは小さな舟だったから、海流に飲み込まれた。大型船ではどうだろうか」

「では、大きな木が何本もいるな」

「山に行って探すけど、今日中に探せるかな」

 三人で、喧々諤々話し合いながら、作業を進めている。


 また、山の上にある製鉄所では、朝からワカが土をこね、鉄を打ち、舟に使う部品をいくつも作った。その傍らでは、ワカの師であるという温という五十がらみの男が、ワカの作った部品を牛の皮で磨いている。

「お前が昨日、流れ着いたという子かね」

 温が、小猿に声をかけた。そして、自分の横に座り、鉄を磨く作業を手伝えという。温の見よう見まねで作業を手伝う小猿の様子を見て、温が「上手いじゃないか」と、満足げに微笑んだ。


 鉄を磨きながら、温は少しずつ、この島のことを話し出す。

 その穏やかでもの静かな口調は、おなじ「王」でありながら、ヤマトの孝霊帝とはまるで違った。

 孝霊帝は老いてなお、病の床に伏してなお、一国の王としての威厳を保つ。だが、この温という男からは、王としての強い威厳は感じられない。温は優しく穏やかで、まるでシトと一緒にいるときのような心地よい安心感があった。


「ところで」

 ひとしきり、島の話をしたところで、温は話を変える。

「お前が連れてきた女の子なんだが……。あの子は、どこの子だ?」

「ヤマトの国の一番西の村で暮らす子で、名をトヨという。ウラシマという男の娘や。それが、どないかしたか?」

「いや……知っている男に、雰囲気が似ている気がするから」

「ウラシマは、小さい頃はこの島におったらしいで」

 小猿の話に、温は眉をひそめた。

「俺が知る限りで、この島から出た者は一人もいない」

 だが、温は古い記憶をたどった。

「いや……確かホデリが出て行ったな」

「ホデリ?」

「羅の兄だ。18の頃、竜宮城に行くと言ってこの島を出て行った」

 温がそこまで言ったとき、大きな音がして、地面が揺れた。

「な、なんやねん!」


 温と小猿が慌てて外に飛び出すと、海の方に大きな船が見える。

「なんや、あれは!」

 今まで見たこともない大きな船に小猿は圧倒されたが、小猿より先に外に出て、船の様子を見ていたワカが、船の上で両手を振る桃姫の姿をとらえ、嬉しそうに叫んで山を下りていく。

「桃だ、桃姫だ! きっとヤマトが船を造って、僕たちを迎えに来たんだよ! ももー!」

 ワカが手を振ると、船の上から村の様子を眺めていた桃姫が、山から下りてくるワカに気づいて嬉しそうに手を振った。

「ワカ! 会いたかった!」

「桃! どうやってここに来たの?」

「ウラシマに、連れてきてもらった!」


 桃姫がワカと呼ぶ青年を指さして、黒い甲冑をまとった男が「あれがワカだ」と呟く。そのとたん、一斉に短甲たんこうを身にまとったヤマトの兵たちが船を飛び降り、温羅の村に火を放った。

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