第486話 東京都千代田区外神田の冷やしネギ+辛ネギ

「また、夏が来た」


 今年の夏は、台風に翻弄されそうな予感がある。全国的に天気が不安定な中での状況で、東京は薄曇り。


 ホテルに荷物を預けた私は身軽になったところで、


「腹が、減った」


 というわけで、何かを喰らおうと秋葉原を訪れていた。土地勘がある場所が安心だ。


 万世橋を渡って秋葉に入ったところで、一つ中央通りから一つ東に入った道を北上していく。幾つも飲食店があるが、今日はそこではない。


 と。


「夕立か」


 ポツポツと雨粒を感じたと思ったら一気に大ぶりになってきた。折りたたみの傘を広げて、風にひっくり返らせられつつも雨風を凌ぎ、秋葉の街を歩く。


 まんだらけの側の店は気になるが、コラボの影響か列が出来ているのでスルー。そのまま直進し、左手に。


「そういえば、ここに移転してきたのか」


 ずっと以前にいったことのある店があった。ここは長らく行っていない。久々に行ってみるか。


 雨脚も若干弱まってきた中、店頭へ向かうと。


「冷やしまぜそば! そういうのもあるのか」


 どうも夏向けに冷やしメニューがいくつかあるようだ。その中でも、


「ネギ、引かれるな」


 幸い店内には若干の空きがある。傘を畳んで入り口前の食券機で冷やしネギの食券を確保する。だが、せっかくだ。


「ネギを増すか」


 トッピングで辛ネギを追加して空いていたカウンター席へと。


 食券を出せば、


「ニンニクどうしますか?」


「ニンニクマシマシ。野菜マシ、脂マシで」


 コールを済ませる。冷やしの方も要領は同じか。


 セルフの水を取ってきて一息入れ、『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。現在は夏の大型イベント中。五乙女のターン最終日だ。ロザリーで50位以内を目標に順調に稼いでいる最中だ。


 おでかけを仕込み、出撃をこなしていれば時は流れる。注文の品がやってきたのでゴ魔乙を終了する。


 こんもり盛られた野菜の上に、細切りの辛ネギが乗り、白い脂がかかっている。麓には、ニンニクとブロック状に切られた豚。


 そして、


「これは、マシのつもりがマシマシ、か」


 想像の倍以上の量の、別皿提供の辛ネギ。なんだか、デフォで乗っている量より多くないか、これ?


 ともあれ、頼んだものは喰らうのである。


「いただきます」


 まずは、適当にネギと野菜をつまんで喰らう。


「おお、ピリッとしてていいな」


 ネギに引かれたのは正解だ。もやしとキャベツの甘みに、ネギの辛味とネギにかかっているラー油の風味がいいアクセントになっている。冷やしだけに、この暑い中でもスルッと喰えるのもいい。


 零れないように野菜を消費しつつ混ぜていく途中、別皿の辛ネギをそのまま喰らってみる。


「しっかり味ついてるなぁ」


 ラー油と思しき辛味ダレが絡んで、単体でつまみになりそうなぐらいにしっかり味がある。


 この味が、渾然一体となるのがこのまぜそばの本領だろう。


 バキバキにしまった麺を喰らえば。


「うんうん、これならスルッといけるぞ」


 そこまで豚骨醤油のタレはそこまでこってりしておらず冷たい麺はすっきりと喰らえてしまう。そこに、ネギと、どうやら玉葱も生とフライが入っていたようで、マシマシのニンニクの風味も加わり、飽きずに喰らっていける。


「そろそろ、ネギも増してしまうか」


 半分ぐらいを喰ったところでネギを投入し、喰らうのだが。


「辛ッ!」


 唐辛子ではなく、ニンニクとネギと玉葱の辛味。アリシンの刺激、か。冷たいからこそ、そこが特に目立っている。


 少々誤算ではあるが、それでも冷たい麺はスルッと喰える。豚がこうなると箸休めだ。


 ネギ類塗れになった麺をズルズルズルと喰らっていく。


 アリシンは殺菌作用が強い。未だ感染症が猛威を振るう昨今にはいいものではないか。


 そのまま、麺を野菜を豚を喰らい。


 最後に残ったタレを一口。


「うん、ネギだ」


 これはこれで味自体は悪くないが、とにかく辛い。


 最後に水を一杯飲んでネギの香りに満ちた口内をすっきりさせ。


「ごちそうさん」


 店を後にする。


 食っている間にありがたいことに雨は上がっていた。


「さて、上野に向かうか」


 めがね之碑を参拝すべく、上野を目指す。

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