第483話 大阪市阿倍野区阿倍野筋のかつおラーメン(野菜ましまし背脂ましたれまし)

「月の光に導かれてここまで来たか」


 仕事を終えた私は、映画を観るべく天王寺の地に降り立っていた。


 生憎の雨模様だが。


「劇場のあるビルまでは地下道で繋がっているから安心だ」


 かくして、地下道を西へと進み、劇場のあるアポロビル方面へと向かう。


 が。


「腹が、減った」


 ということで、まずは腹拵えだ。大丈夫、上映まではまだまだ余裕がある。


 いつもなら、アポロビルで昔ながらの麺を喰らうかルシアスビルで変わりかつ丼を喰うかなのだが、今日は気になる店があったので、ルシアスビルに入る。地下から入って少しいけばいつもの変わりかつ丼の店があるのだが、以前食べにいったときにその隣の麺屋が気になっていたのだ。ならば、いけばいい。


 店内はほぼ真っ直ぐで気持ちL時なカウンターの内側に細長い厨房というコンパクトなスタイル。食券機は外にある。


「なるほど、こういうのか」


 ラーメン、つけ麺、油そば一通りあり、にぼし、かつお、豚骨、油そばだけ醤油、塩、かつおとバリエーションが色々あるな。


「ここは、これか」


 かつおを選ぶ。にぼしは色々あるが、意外にかつお出汁はないからな。せっかくだ。


 店内に入るとすぐに店員が空いていた席に案内してくれ、食券を出せば、


「太麺と細麺がありますが」


 と尋ねてくる。


「太麺で」


 どうやら、色々カスタマイズできる系らしい。


「麺の量は100gから250gまでありますが」


「200gで」


「野菜と背脂とたれの量は少なめからましましまでできますが」


「野菜ましまし、背脂ましたれましで」


 流れるように注文するが、え? ここ、そういう系だったの?


 まぁ、いい。


 注文を通せば後は待つばかり。『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。本日は霊獣篇クライマックス。ほどほど稼ぐべくここまでの道中でAPは使ってしまっていたのでおでかけを仕込んで編成だけ調整し、読めていなかったチャンピオンを読む。


 ふと前を見れば、麺を上げている。チャンピオンをしまいしばしまてば注文の品がやってくる。


「おお、こういうのか」


 中央に寄せて円筒状に積まれた野菜。上から被せられた背脂とたれ。麓に巻き付くようにバーナーで炙られた大ぶりなチャーシューが一枚。高く盛られて周囲が空いて見えるスープは、黒く油が浮いている。


「いただきます」


 まずスープを啜れば、魚介豚骨の優しい味わい。※個人の感想です


 系統としては、つけ麺の定番の味に近い感じだ。そこに野菜を浸して喰うのも中々乙なもの。特に、野菜がシャキシャキしたいいゆで加減ででとても旨い。


 見た目はあの系統だが、味わいは和風出汁のラーメン。これなら安心してモリモリ食えるな。


 野菜を崩し、麺を引っ張り出してみればツルツルの太ストレート麺。しっかりとかつおと豚骨の風味をまとい、和蕎麦のようにスルスルと啜れてしまう。


 チャーシューはギュッとしまった感じで、豚の素朴な味わいと焼き目の香ばしさ。


 全体的に出汁優先の易しめの味わいで、麺だけでなくましましにした野菜もするする食えてしまう。


「ちょっと味変してみるか」


 席にあるのは一味と酢。


 まずは一味で唐辛子の風味を足す。


「うんうん、この刺激、いいぞ」


 完全に和蕎麦の感覚で楽しんでいるが、唐辛子の風味と魚介と豚骨が合わないわけがないのだ。


 そのまま喰い進め、残り少なくなったところで。


「酢もいってみるか」


 軽く回しかけると。


「夏向きの味だなぁ」


 ほどよい酸味にサッパリ感がでる。疲労回復にもいい。


 ここまでで分かった。


 これは、とても健康的なましましだ。


 ならば、麺を豚を野菜をモリモリ食いつくし。


 スープをレンゲで追い駆け。


 そのまま丼を持ち上げて完飲しても安心だ。


 最後に水を一杯飲んで一息つき。


「ごちそうさん」


 店を後にする。


「さて、劇場へ向かうか」


 隣のアポロビルへと、足を向ける。

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