第482話 大阪府大東市赤井の汁なし全マシ一味

「せっかくだからおもしろい方へいくべきだな」


 迷ったなら、おもしろい楽しいうれしい方へ向かうべきなのだ。


 そういうわけで片町線沿線で用事を済ませた帰り。空腹を抱えた私は、住道で下車していた。


 腹の虫の勢いに任せ、駅前の橋を渡ってすぐ左へおりて道なりに真っ直ぐ。高架にぶつかったところで右折して進めばショッピングモールへと至り、その半地下に目的の店はある。


「お、すぐ入れそうだな」


 外に列はなく、中にも若干の空席がみえた。そのまま店内へ入り、食券を購入。更に、透明の洗濯挟みを付ける。これで、汁なしになる。今日はそういう気分なのである。


 先に麺量を聞かれたので、


「並」


 と答えて案内された席へと着き、セルフの水と箸とレンゲとおしぼりを確保して一息吐く。


 あとは待つばかりとなれば『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。霊獣篇もクライマックスというところだが、ここに至までにAPは使い果たしていたのだった。おでかけだけ丁度タイミングあったの仕込んだところで、早くも麺上げの気配がある。


 ゴ魔乙を終えて待つことしばし、


「ニンニク入れますか?」


「全マシで。あと一味も」


 とコールを済ませる。一味は言わないとこないので別立てである。


「ああ、精がつきそうだ」


 こんもり盛られた野菜には油とフライドオニオンと胡椒がドサッとのり、麓にはニンニクと豚。更に別皿でマシた分の脂と一味。


「いただきます」


 汁なしは、まぜてこそ。


 最初から天地を返すようにすれば、黒々とした醤油ダレを纏った麺が姿を現す。そのまま口に運べば。


「汗で奪われた塩分が回復する味だなぁ」

 

 醤油のしっかりした味わいに豚と化学の融合した旨みがこれでもかと加わっている。麺に絡んでくるフライドオニオンとニンニクの香りもいい。


 疲れた体に染みる味わい。


 麺を頬張り野菜を頬張り豚を頬張る。


 すべてを渾然一体として半分ほど食べたところで、脂と一味をプラス。


「この刺激、正解だなぁ」


 脂などの旨みは甘みにもなる。そこに一味を共に加えたことでピリリといい感じだ。カプサイシンが脂を燃焼させるので罪悪感も下がる。いいこと尽くめだ。


 黒々としたタレは野菜を混ぜても薄まらず、しっかりとした味わいを維持しているお陰で、どこまで麺を野菜を豚を楽しめるのだが。


「ああ、終わって、しまう」


 やはり、汁なしだと並の300gでもあっという間だ。


 もう、タレと沈んだ麺と野菜の破片と浮く脂のみ。


 レンゲで少し追い駆けて余韻を味わい。


 最後に水を一杯飲んで区切りを付け。


「ごちそうさん」


 店を出て、おしぼりを入り口の籠に放り込む。


「さて、帰るか」


 カプサイシンの効果で店を出るなり額に流れる汗をそのままに、駅を目指す。


 


 

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