第446話 神戸市中央区北長狭通のラーメン並・醤油・背脂以外全マシ

「時は流れているなぁ」


 古巣の合唱団の演奏を神戸に出た帰り。大分趣が変わっているが、それでも変わらないものはある。一途だったマジカル季節シーズンをあの場所で生きる学生が存在するのである。


 そんな感傷に浸りつつ、神戸から三宮まで歩いていた。神戸駅から三宮駅までは三十分弱もあれば着く。ここまで来たのだ。普段いけない店にいくのが吉。


 雨上がりで湿気が高く、曇り止め加工が切れてやたらと曇る眼鏡を拭きながらのんびりと歩いて行く。ホールから真っ直ぐなので迷いようもない道のり。


 元町を超え、ドン・キホーテの前の辺りまでくればもう三宮。


 そのまましばし東進し、なんば界隈で幾つも店舗があるチェーンの麺屋を右折すれば、目的の店がある。


「お、並んでないな」


 時間が半端なのが幸いしたか。そのまま店に入り、食券機へ。


「ここは基本でいくか」


 ラーメン並の食券を購入して水を確保して空いていたカウンターの角の席に着く。


 食券を出して、


「醤油、背脂以外全マシで」


 と注文を通せば後は待つばかり。『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい~』を起動する。現在はクリスマスイベント五悪魔篇。当然、リリーで周回を重ねている。幸いにして諭吉さんにも至らぬ予算でどうにか50位以内を確保できそうなので、着実に出撃を重ねている。


 二回ほど出撃したところで、麺上げの気配があったので中断し、待つことしばし。注文の品がやってくる。


「マシだから、大人しいな」※個人の感想です


 丼の上にはこんもりドーム状に野菜が盛られ、頂点にはニンニク。麓には厚切りのチャーシューが並ぶ。


「いただきます」


 レンゲでスープを頂けば。


「思ったよりまろやかだな」


 タレが混ざり切っていないのもあるかもしれないが、全体的に豚の出汁感が強い。そういえば、ここで醤油を喰うのは久しぶりなので前からそうだったかは思い出せない。


 ともあれ、混ざっていない可能性があるなら混ぜねば。この量なら、初手からいける。


 レンゲで抑えつつ箸で麺を引っ張り出して天地を返す。ニンニクも、野菜に掛かっていた魚粉もすべて混ぜてしまう。


「おお、いい感じ」


 タレが全体に行き渡って醤油味は最初より強くなったが、魚粉の風味もしっかりある。ざらつくスープの食感はこれはこれでいいものだ。野菜にもよく合う。


 太い麺はいつもの感じでしっかりとスープの旨みを纏って、塊ではなく厚く切られた豚は甘辛いタレがしっかり利いていていい塩梅。


 野菜をマシに留めたので、スイスイと喰えてしまう。


 半分ぐらい喰ったところで、


「風味を足そう」


 席に置いてある一味をドバッと入れて混ぜる。


「唐辛子の風味は、本当、豚に合うなぁ」


 辛味というよりは、唐辛子そのものの味が加わることで、食欲がブーストされる。勢いがマシマシだ。だけど、今日はマシで留めている。


 結果。


「あれ? もう、終わり?」


 意外にサクッと喰えてしまった。丼の中は、野菜と麺の欠片が浮くスープのみ。


「こういう日も、あるな」


 スープをしばし追い駆け。


 最後に水を一杯飲んで〆。


「ごちそうさん」


 店を後にする。


「さて、帰るか」


 三宮駅へと、足を向ける。

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