第445話 大阪府茨木市新庄町の塩魚介ラーメン200g全マシ

「今日もよき卓であった」


 茨木の素敵なTRPGスペースで魔法使いになって魔法災厄を解決した後。心地良い疲れと空腹に苛まれた私は、茨木市役所前を通って東西通りへと達していた。


「ここを、まっすぐ」


 時は十八時過ぎ。開店時間は過ぎている。並んでいるかは解らないが、とにかく店に向かわねばならぬ。


 ちょうど、限定をやっているという情報を得ていたのだ。この機に喰わずにどうするというのだ?


 真っ直ぐに阪急の駅の方面へ歩いて行くと、店が見えてくる。


「前に列は……ない、な」


 開店からしばし時間は経っているので並ぶ覚悟だったが、これは、いける、か?


 足早に到達すれば、外の列も中での待機もなし。これは即座に入るしかあるまい。


 食券機の前に立ち、迷わず限定の食券を確保。とはいえ、麺は減らす。青い洗濯挟みだ。


「こちらのカウンターに」


 ということで、並ばず端の空いた席に案内される。ありがたい。


 席に着いて食券を付け台に提示し、セルフの箸とレンゲとおしぼりと水を確保して戻って一息。


 と、すぐに次の客が入って席が埋まる。更に後続が。どうにも、ギリギリのタイミングだったようだな。


 落ち着いたところで『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。現在は、五悪魔クリスマスイベントなので、リリーとデートという名の出撃を重ねるのである。諭吉さんに至らぬ投資でクリスマス仕様のリリーも確保できているので安心だ。ポイントボーナス的にも。


 数回出撃デートを重ねたところで、麺上げの気配を感じてゴ魔乙を終了する。順次詠唱タイムが続き、自分の番に。


「ニンニク入れますか?」


「ニンニクあり。全マシで」


 圧縮詠唱を済ませてしばし待てば注文の品がやってくるのである。


「こういうの、か」


 こんもり盛られた野菜に寄り添うゴツい豚と刻みニンニク。野菜の山には一味とこの限定用の刻みネギ、そして、魚粉。


 そう、限定は塩魚介ラーメンなのである。


「いただきます」


 野菜をスープに浸して一口。


「おお、優しい味だ」 ※個人の感想です


 豚のまろやかな旨みに魚粉の香り。ガツンとくる醤油がないので塩で引き出した出汁の旨みを楽しむ方向性の味だ。スープに浮かぶ脂のとろみもまたまろやかさに貢献している。野菜に掛かった唐辛子の風味も、塩が甘みを立てるように、まろやかさを引き立てている。


 野菜をガツガツと喰らい、麺を引っ張り出す。


「やはり、まろやか」


 出汁の旨みで麺の風味を楽しむ。いつもとは違う穏やかな食事だ。


 ここで徐に豚を喰らえば。


「ああ、酒が欲しくなる」


 豚自体はしっかりとタレの濃い味を纏っているのだが、相対的に強い味のため、どうにも酒のつまみ系の趣。それを優しい味と共に味わうのもまた、よし。


「そろそろ、いくか」


 半分以上を喰らったところで、スープにマシで追加された別皿脂を放り込む。


「トロトロだ……」


 濁点をなくすことで、脂はまろやかに表現出来るのである。実際、醤油の角がない出汁の旨みに加わる脂は、柔らかさとして感じられる。心地良い。


 疲れた脳にカロリー補給。麺を豚を野菜を脂を。


 心地良く喰らい。


「もう、終わり、か」


 あっという間にスープが残るのみ。


 しばしレンゲで追い駆け。


「汝、完飲すべからず」


 戒めを思いだして、水を一杯飲んで未練を断ち切り。


「ごちそうさん」


 食器を付け台に戻し、おしぼりを店頭の籠に放り込んで店を後にする。


「腹ごなしに、歩くか」


 目の前の阪急に背を向け、JRへと向けて歩み出す。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る