第397話 大阪市天王寺区舟橋町の辛口炙り肉ソバ『醤油』 辛さLV4/からあげ/ネギ増量(白髪ネギ)/『野菜』のせダブル/厚切りバラチャーシュー1枚追加/白ご飯

「辛いものが、喰いたい」


 寒い日が続く。そうなると、身体を内側から温めたくなるのは道理だろう。


 休日の昼。どこへだって行ける。


 ならば。


「久々に、行ってみるか」


 ふらりと家を出て、気がつけば、駅のホームまで焼き肉が薫る鶴橋の地に降り立っていた。


「こちらへ行けば」


 JR鶴橋駅から道路に出て左。


 赤いテントの店が目的地であるが。


「なんだ、この味のある絵は」


 そういえば、屋号が変わったのだった。箸を持った鶴と、麺を喰らうお姉さんと、ゆるいドラゴンが描かれている。


 これはよい味わいの絵だ。


 と。


「並んでる、か」


 店頭には、列。結構な人数がいるが、ウェイティングボードに名前を書こうとすると、


「あれ? そんなに並んでない?」


 前に3組程度。

 

 どうやら、隣の店と列が混じっている模様。


 これならそれほど待つことはあるまい。


 名前を書いて店の前、通路を開けて道路とのフェンス際で待つ。


 おもむろに『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。雪まつりイベントも終盤。ボーナスステージに出撃して最低限の稼ぎをしてAPが尽きた。


 続いて、ゴブリンを殺す人の物語を開くが終盤だったのでそれも読み終え。


 映画漫画を読もうとしたらネタバレされそうだったので4巻までしか読んでいない魔法使いの話を最初から読み直していると、順番が巡ってきた。


 厨房前にまっすぐカウンターが並ぶ細長い店内の真ん中辺りに案内され、一息。


 さて、何にしたものか?


 メニューを開く。色々とあるが、久々だし、オーソドックスに醤油でいくか。ただ、せっかくなのでトッピングを……


 と考えていたところに、店員がやってきた。


「辛口炙り肉ソバ醤油で、あと、からあげ、とネギ増し、白髪ネギで」


 いや、まだいけるな。


「野菜ダブル」


 まだだ。


「厚切りチャーシュー1枚追加」


 ……こんなものか。


「以上で」


 と注文を通す。


 後は待つばかりとなったが、ゴ魔乙のAPは使い果たしてしまっている。ボーナスステージは消費が激しいのだ。


 虐げられた少年が魔法の世界と繋がる辺りを読みながらしばしの時を過ごし。


 注文の品がやってくる。


「うわぁ、なんだか凄いことになっちゃったぞ」


 丼の上にこんもりと盛られた野菜と白髪ネギ。その上から塗された刻み青ねぎ。そこに寄り添う大きな唐揚げと、豚バラチャーシュー。だが、その山の一角と、追加したチャーシューが、赤い。唐辛子の粉に埋もれているのだ。


「いただきます」


 ともあれ、喰おう。


 まずは、スープ。


「うんうん、いい感じに辛いぞ」


 ベースはそこまでこってりしていない醤油スープだが、そこに唐辛子の辛味がアクセントになっている。


 白髪ネギを浸すのも、異なる刺激が合わさって良き。炙られた豚は、脂の旨み甘みとスープの辛味との絡みが絶妙だ。


 そこに、中太ストレートの麺を引っ張り出す。スープをしっかりと馴染んで、辛い。だが、旨い。ズルズルと行ける。


 お次は、からあげだ。まずは浸さず喰らう。


「これは、もう、単体でおかずだなぁ」


 何も付けなくてもガッツリおかずになるタイプの、かなり濃い目の味だ。ご飯が進みそうだ。なら、喰らえばいい。米も頼んであるのだから。


 とはいえ。


「これは、箸休め、だなぁ」


 刺激的な麺に、濃いからあげ。


 そこに、真っ白なご飯を喰らうと、いい塩梅になるのだ。


 だが、まだだ。


「元々、ここの麺はシビ辛だったんだ」


 席には、山椒、刻みショウガ、刻みニンニクが置いてある。


「ここは、痺れと、ニンニクだな」


 スプーン一杯ずつ放り込み、混ぜる。


「いい痺れだ」


 ニンニクのガツンとした味わいも、また、よい。


 これで、いいだろう。


 追加したネギの風味も加え、楽しむ。


「ふぅ」


 額から、汗が流れ出す。


 この寒い冬に、身体の内はホットだ。


 ダラダラと流れる汗が、心地良い。


 喰らう。喰らう。喰らう。


 麺を豚を唐揚げを。唐辛子ネギニンニク山椒と大量の薬味においたてられるように。


 どんどん、体温が上がっていく。


 旨い。


 そうして、気がつけば。


「もう、終わり、か」


 真っ赤なスープが残る丼。


 わずかに米も残っていたが、レンゲに掬ったスープで追い駆けて喰らい。


 流石に、これは完飲はキツい。


 名残を惜しむように、改めてレンゲでスープを啜れば。


「辛い……もう、一杯だけ」


 辛いのだが、ついつい呑んでしまう味。


 だが、キリを付けねばならない。


 水を一杯飲んで、口内をリセットする。


 これで、終わりだ。


 己に言い聞かせ。


「ごちそうさん」


 会計を済ませて店を後にする。


「いい汗かいたな」


 未だ流れる汗を拭い、駅の方へと足を向ける。

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