第394話 大阪市浪速区日本橋のカレーラー油そば大
「なんということだ……」
セール価格だったので確保した Switch 版の『月姫』が、いつまでもダウンロードされなかったのだ。
どうしてだ? と調べたら。
「本体容量、限界、か」
そういえば、 microSD を差さずに運用していたのだ。仕方ないが。
「それはそれとして、エピソード単位で20GBというのも凄いな」
かつては、CD1枚だったのだ。勿論、フルに容量を使っていた訳でもないだろうが、メディアの容量で換算すれば3倍。しかも、メインヒロインであるシエル先輩と、アルクェイドのルートだけでこれだというのだ。
隔世の感がある。実際に、それなりの時は経ているのだが、それはそれとして。
ネットで注文すれば明日には届くが、これぐらいなら直接買いにいってもいいだろう。どうせなら、1TBといきたいが値がはる。ここは、512GBとしよう。
かくして、仕事を終えた私は、日本橋の地にいた。
駅を出て、堺筋から一つ西の道に入り真っ直ぐ。
「ここはまだ、沈黙しているのか」
オタロードに入る手前。かつて足繁く通っていた店が、夏前からずっと閉まっているのだ。店内の券売機の電源が入っているので、中はそのままのようだ。
一体何があったのか? いつか復活して欲しいと願うが、郵便物の溜まった郵便受けには不吉なものを感じずにはいられない。
「と、先を急ごう」
オタロードに入り、いくつか店を覗いてみるが、 512GB はあまり置いていなかった。
「やっぱり、この辺りよりもあっちの方がいいか」
アニメイトビルの前で左折し、堺筋へ戻る。そのまま南へ進んだところのPCショップへ。
「うんうん、ここは品揃えがいいな」
幾つものメーカーの microSD カードが並んでいた。目的の容量のものもあった。
「そこそこ、するなぁ」
一番安いものではなく、いつも買っているメーカーのものを確保。これで、シエル先輩に会える。大事なことだ。
そうして、目的を果たした私は。
「腹が、減った……」
空腹に苛まれていた。なら、何か喰って帰ればいい。
「あっさり目がいいな」
となれば、あの店、か。ここからも近い。
堺筋を南へ少し進み、東側へ渡り、そのまま一つ東の筋へ。その角に目的の店はあった。
「やってるな」
ややこしいご時世だけに閉まっている可能性も考慮していたが、幸い営業しているようだ。幸福なことだ。
店内へ入り、冷たいか温かいかだけの潔い単メニューの大を買おう……
「限定……だと……」
どうやら、今は限定でカレーラー油そばというものがあるらしい。
カレーとラー油だと、どうしてもこってりしてしまう。
だが、今日は何しに来たんだ?
『月姫』をプレイするために、シエル先輩に会うために、 microSD カードを買いに来たんじゃないか。
そこにカレーだぞ?
「運命……的?」
というものだ。ぶつかる出会いはドラマティック! ってなんか混ざってるな。
ともあれ。
「カレーラー油そば大、と」
運命に導かれた食券を購入し、空いていたカウンター席に着く。
食券を出してしまえば、後は待つばかり。『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。今日から新しいイベント。雪といえばリリーだが、福袋で新リリーがいたので病で確保。諭吉さんと等価交換だ。なんと、聖霊石もついてくるのだから、豪勢なものだ。
その聖霊石を活かして、ラナンとルベリスも確保し、成長させたりしていると時間が掛かっていた。
カウンターの奥の厨房を見れば、そろそろ準備が整おうとしているところだった。
ゴ魔乙を終了し、ほどなく。注文の品がやってきた。
「おお、なんというか、大人のお子様ランチ?」
茶色いカレー出汁には豚が浮き、極太の和蕎麦にはたっぷりの刻み海苔、その下には白ネギ、そしてごまがパラパラと。
それだけだと思っていたのだが。
「麦飯付きなのか」
細長いカップで末広がりの台形に固められたご飯が載っているのだ。旗は立っていないが、なんというかこの形、お子様ランチを思い出すではないか。
いいぞいいぞ。
「いただきます」
蕎麦をさっと出汁に潜らせていただく。
「おお、和風カレーだねぇ」
おうどん屋さんのカレーだ。出汁とスパイスのハーモニーが心地良い。蕎麦にも抜群合う。
出汁にはラー油も入っているのだが。
「どちらかというと、ゴマ油風味だな」
カレーでスパイス系の風味があるので、唐辛子の辣味は溶け込んでおり、それよりも、ゴマ油の風味がいい感じだ。蕎麦にもゴマがふりかけられていて、いい塩梅だ。
ガツガツと、極太蕎麦をカレーでいただくのはとても幸福だ。
だが、まだまだ、だ。
「色々行ってみるか」
この店は、薬味がたっぷりある。
「天かす、と」
これで、カリカリプラスだ。
「フライドガーリック、と」
パンチプラス。
そして、
「生卵、だ」
まろやかプラス。尚、全部アルコール消毒済みということで安心だ。
すべてを出汁にぶち込み、混ぜる。
そこへ蕎麦を潜らせると。
「う~ん、いい感じに重くなったな」
天かすで油分が、ガーリックで香味が、卵でとろみが。
色々と足し算されているが、カレーはなんだって受け入れるのだ。
旨い。
そこへ徐に、ご飯を放り込む。
「ああ、そうだよな。旨くないはずがない」
固めの麦飯を、贅沢にいただく。こぶりだが、しっかり固められていて、カレーに浸して塊でいただくのが嬉しい。
あとはもう、勢いに任せ。
蕎麦をモリモリと食う。ズルズル啜るような太さじゃない。ガツガツだ。
心地良い。カレー。幸せ。
気がつけば、蕎麦も米も果てたが。
「そば湯の時間だな」
ポットに用意されたそば湯があるのだ。万全の態勢だ。
スープに注ぎ、啜れば。
「ああ、ホッとする味だ」
色々と混ぜ込んだ味わいを、最後にそば湯に入っている生姜が纏めてくれる。
ポカポカと身も心も温められる。
最後に、口内を一杯の水で収め。
冷えたところにそば湯を飲んで、一区切り。
「ごちそうさん」
「寒い中ありがとうございました! お幸せに!」
という暖かな言葉に送られて店を出る。
「少し、歩いて帰るか」
再び、堺筋へと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます