第392話 大阪市中央区北久宝寺町の甘辛miso+焼きめし

「寒い、な」


 色々とバタバタしつつ週初めの仕事をこなした帰り。


 観たい映画がレイトショーでしかないため、観てしまおうと思いつつも、それまで時間はある。


 何か喰わねばならぬのだが。


「温まるもの、だよなぁ」


 コートの前を合わせて風を防ぎつつ、思案する。


 そうなると、辛い物などがいいかもしれない。


 となると。


「この機会に、気になったところに突撃してみるか」


 劇場は梅田だが、本町へと足を向ける。


 駅を越え、心斎橋筋に入って少し進めば、


「ここ、か」


 なんだか力仕事が似合いそうだが、食事処なら怪物料理の名コックか?


 などとよしなしごとを考えつつ、店頭の食券機へ。


「よし、焼きめしも付けよう」


 目的の麺とのセットメニューがあったので、そちらの食券を購入したところで、店員から満席の案内。とはいえ、回転は早そうだ。


 食券を出して少し待てば、店内に入ることができた。


「あたたかい」


 ほっと一息を着いて荷物を置けば、『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』の時間だ。ロザリーとダチュラのターンであるが、出撃するには時間が読めない。おでかけだけを仕込んで終わりにする。


 そうして、ほどなく。


 注文の、品が、やってきた。


「オーソドックな見た目がいいねぇ」


 大きな皿に丸く盛られた焼きめしが先にやってくる。チャーハンじゃなく、焼きめしという感じである。紅生姜の紅が見た目にも鮮やかだ。


 続いて、麺がやってくる。


 紅生姜とは異なる真っ赤なスープに中太ストレート麺が浸かっている。具材は、もやしと、豚バラ肉と、ソフトクリーム。


「本当に、ソフトクリームが、乗っている」


 それも、バニラとチョコのマーブルだ。


「いただきます」


 まずは、スープを言ってみる。


「おお、しっかり旨辛」


 辛味は想定以上。辛味噌ラーメンとして、とても好みの味わいだ。


 続いて。


「まずはそのまま」


 縦に真っ二つのソフトクリームの先をレンゲで掬って、そのまま喰う。


「ああ、なんか懐かしい味だ」


 しっかりチョコの味が感じられるソフトクリームだ。甘くて旨い。


 続いて、焼き飯も行っておく。


「これは、素朴に上手い」


 濃い目の味がいい。パラパラになるようにどうこうじゃない。しっかり味がついたご飯を焼いたものだ。焼きめしとはかくあるべし。


 一通り楽しめば。


「まぜるん、だよなぁ」


 そう。ソフトクリームは具材。辛味噌に、混ぜるのが正道だ。


「よし」


 ソフトクリームを辛味噌に沈めていく。サムズアップで沈んでいくビジョンが浮かんだりするが、ラーメンスープにソフトクリームを沈めるなんて初めての体験だ。脳が混乱しているのだ。


「溶けた、な」


 熱々のスープにあっという間に溶け込んでしまった。コーンは、ふやけて残っている。


「さて、どうなった?」


 スープを啜れば。


「ソフトクリームの味だ……」


 混ざっても、しっかりそこは主張するのだが。


「いや、段々と、旨みと、辛味が」


 なんというか、混ざり合うと言うよりは、グラデーションで順番に味がやってくる。というか、最後、むしろ甘みからの落差でさっきより辛く感じるんだが?


 だが。


「旨い、な」 


 ソフトクリーム味のラーメンなのだ。だが、旨いのだ。


 麺を啜り具材を喰らうと、そんな風に感じてしまう。


 とんでもないものを喰らっている。


 オーソドックスな味わいの焼きめしを頼んでおいてよかった。ここで、自分を取り戻せる。この紅生姜との組み合わせもいいな。えっと、焼きめしに紅生姜は、定番、だったよな?


 脳がバグる。完全にソフトクリーム味なのに、旨辛のラーメンなんぞ喰っているからだ。混乱しつつも、間違いなく旨い麺と認識しているのだ。


 どうなっているんだ、これは?


 気がつけば、焼きめしも終わり、麺もほぼ喰らっていた。


 スープを啜る。


「やっぱり、完全にソフトクリーム味、だよなぁ」


 だが、段々と旨辛が表に出てきて後味は辛い。


 そんな稀有な体験を、何度も繰り返せば。


「ああ、スープも、なくなった、か」


 こんなの、最後まで飲まずにはいられない。仕方ない。


 水を一杯飲んで、脳をデバッグし。


「ごちそうさん」


 不可思議な味わいを抱えて店を後にする。


「時間もあるし、歩くか」


 脳をクールダウンさせつつ、梅田スカイビルを目指す。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る