第390話 大阪市浪速区戎本町のとんこつラーメン(かためこってりネギ多め)
「出店はなしか」
今日はえべっさんの日だ。所用ででかけた帰り道。なんばを通ったので覗いてみたのだが、南海電車の高架沿いはいつも通りの光景。
例年であれば、所狭しと出店が並び酒を片手に摘まめるモノをゲットしてお参りに行くのが楽しみだったりするが、このややこしいご時世、色々自粛ということだろう。
それでも、行き交う人の手には福笹や熊手が見える。出店がないだけで、えべっさんは健在ということだ。
「行ってみるか」
せっかくだからと、高架沿いを南下する。
途中で一部歩行者天国になっていたが、基本は日常の風景通りの道をテクテクと歩く。難波から今宮戎は大した距離ではない。
すぐに、高速道路にぶつかり、その向こうが今宮戎だ。
「さすがに、並んでいるか」
入り口前にはそれほどの規模ではないが列があった。混雑緩和のための入場制限だろう。
列に入り、しばし並んでから境内へと。
とはいえ、別に福笹や熊手を求めて来たわけではない。冷やかしというのでもなく、生活圏内にあるだけにお参りに来たのである。
本殿前の列は真ん中ばかりが厚いが、横に逸れるとグッと空いている。ほとんど待たずにお賽銭を入れてお参りは完了だ。
福笹のお飾りの購入でごった返す区画を抜け、出口へと。
サクッとお参りは済ませたのでこれで帰ってもいいのだが。
「腹が、減ったな」
少し歩いたのだ。何か喰って帰るのもいいだろう。
「せっかくここまで来たから……」
ということで、今宮戎駅の前を通り過ぎ、少し行ったところの南側の店へ。
「これは、少し無鉄砲だっただろうか?」
空腹を感じたにしても、少々重いかもしれない。
だが、この界隈は近い割にこういう理由がないと訪れないのも事実。
なら、この機会を活かそうではないか。
満席だが、待ちは3人。これぐらいならすぐだろう。
昔ながらの麺屋といった木造の店内に入り、まずは検温と消毒だ。両者が一体となった機器が導入されているのは時代だろう。
続いて食券機へ向かう。
「ここは、基本でいいだろう」
とんこつラーメンの食券を確保し、待機列へ。その時点で食券を確認されたので、
「麺はかため、味はこいめ、ネギは多めで」
とサクッと注文を済ませる。
あとの待ち時間は『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を進めていればすぐだろう。とりあえずはおでかけを……
「と、もうか」
あっという間に先客が座席に案内され、更に数人が食事を終えて出て行く。
おでかけだけを仕込んでゴ魔乙を終了すれば、私も端っこのカウンター席へと案内された。
食券は先に確認されているので、調理は始まっている。
それほど待たないだろう。
座席に用意された皿に高菜を確保し、水を飲んで一息入れたところで注文の品がやってきた。
「白い、な」
茶色いスープに、薄切りチャーシューが四枚ほど乗っている。その上に更に刻みネギと海苔が乗っていて、その上が白く彩られている。
背脂だ。こってりは、伊達じゃない。
「いただきます」
まずは、スープをいただく。
「どろり濃厚豚骨味だ……」
極限まで煮詰めたようなドロドロの豚骨スープ。そこに混ざり込む背脂。
旨い。脂は、旨い。
犯罪的なこってりだ。
だが、それがいい。
背脂を混ぜ込んで麺を引っ張り出す。太めのしっかりした麺は、全体的に茶色く染まっていた。それが旨くないはずもない。
こってりで口の中がドロドロになったところで高菜がいい箸休めになる。
だが、何かが足りない。
「これだ!」
座席にされているニンニクダレを投入する。スライスニンニクそのものが入ってるのが嬉しい。
混ぜて食せば。
「ああ、これこれ」
とんこつとニンニクの相性は抜群だ。
チャーシューも乗りも一緒くたにして、口に放り込んでこってりいただく。
旨い。
というか、ドロドロスープに埋もれてメンマも入っていたようで、気づかず噛んだときの食感もまた楽しい。ネギも基本の薬味としていい塩梅だ。
高菜を箸休めに。
こってりを、存分に楽しむ。
身体にいいかどうかはわからない。
だが、精神にはいい。
脂がもたらす多幸感は間違いない。
心の健康には、脂は効く。待ちがない。
そう確信して、どんどんと喰い進めば。
「もう、終わりか」
替え玉という手もあるが、ここは、最後まで味わおう。
麺を喰らわば汁まで、と誰かがいった気がするのだ。
どろどろのポタージュ状のスープをレンゲで味わう。
重い。脂っこい。だから旨い。
最後の方は、丼の周囲からこそげるようにして、追い駆け。
ずるずるになった口内を、最後に一杯の水で浄め。
「ごちそうさん」
店を後にした。
「さて、少し歩くか」
せっかくここまで来たのだ、恵美須町を回って帰ろう。
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