第389話 近鉄観光特急カフェの海の幸味噌ラーメンとスタウト

「これは、喰わねばならないだろう」


 お伊勢参りの帰り。


 乗ることになっている特急電車には、カフェがある。食堂車だ。中々そういう機会はない。


 帰りはこれを喰わねばならない。


 そう、心に誓って、いよいよそのときが来たのだ。


 特急に乗り込み、荷物を置いてすぐ、カフェへと急ぐ。


 観光特急だけに、ゆったりとした席や個室があったりする車内を後方へ進むと、カフェとなった車両に辿り着く。


 カフェは二階建てになっているようだ。


 カフェ利用を係の人に伝えると、少し待って座席へと。


「これは、いいな」


 1階席を選んだのだが、座席は窓に向けられていて、食事をしながら外の景色が望めるのだ。

 

 また、進行方向の壁面には先頭車両からの映像がモニタに映し出されており、あたかも先頭車両から風景を眺めるような趣だ。


 席に落ち着いて、メニューを観る。


 頼むモノは決まっているが、なにやらお酒のお勧めもあるようなので、


「スタウトと、海の幸味噌ラーメンを」


 とサクッと注文を済ませていた。


 すぐにスタウトを持ってきてくれたので、軽く呑みながら流れゆく田園風景を楽しむ。


 しばし、時が流れ。


 遂に、注文の品がやってくる。


「おお、でかいな」


 やたら大きな丼だが、中身は標準的な麺量だった。決して、マシマシするようなタイプのものではない。


 薄い褐色のスープの上には、海老の半身、アサリ、あおさが乗っている。麺はストレート麺。


「いただきます」


 まずはスープをいただけば。


「ああ、海の味わい……」


 しっかりと魚介の出汁の効いた味噌。いい味だ。また、


「タコ、か」


 スープの中にはタコが沈んでいた。これもまた、出汁になっているのだ。


「さて、海老は……」


 剥かないといけないと面倒だと思ったのだが、


「殻、だと……」


 ひっくり返すと半身の内側はカラッポだった。


 どうやら、これは飾りであり、


「ああ、解し身がスープに入ってるのね」


 というわけで、剥かなくていい分、楽だ。


 名前に偽りのない麺だ。


 ズルズルと麺を啜りアサリをタコを海老を喰らう。あおさが混じってくるのもまた、よし。


 スタウトと合わせつつ、静かに楽しみ。


「これも、いくか」


 お好みで、と添えられた食べる辣油を入れる。


 と。


「これは、正解だな」


 ガツンとこってり感が加わり、唐辛子を軸とした旨みもプラス。


 シーフードに対していいアクセントだ。


 食が加速する。


 標準的な量だ。


「もう、終わり、か」


 麺と具材はなくなった。


 だが、これはもう味噌汁だ。


 飲み干すのは義務だ。


 レンゲで辛味の足された出汁を最後まで追い駆け。


 最後まで啜り。


 残ったスタウトをグイッと飲み干し。


「ごちそうさん」


 会計を済ませて、カフェを後にする。


「さて、後は休むか」


 座席にもどり、ゆったりとした席で旅の疲れに一時の休息を取る。


 


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