第372話 大阪市中央区難波千日前の期間限定
「色々調達しないとな」
公私ともに考えることが多く、スケジュールがギリギリで推移している昨今。
土曜日のイベントの準備が滞っていた。購入すべきものがあるが、もう通販では間に合うか怪しい。
となれば。
「買いにいけばいいんだ」
ということで、仕事の後に私は日本橋へと赴いていた。
いや、その前に。
「腹が、減ったな」
飯だ。
そういえば、最近、期間限定メニューが復活している店があったのを思い出す。ならば、行くしかあるまい。
オタロードより難波より、千日前通を抜けたところの道を南下していけば、目的の店があった。
「お、空いてるな」
最近は通し営業になっているため、18時の開店列がないのですんなり入れそうだ。
さっさと店内に入り、食券機で『期間限定』を購入する。
凹の形に厨房を囲むカウンターの下辺の席に着き、食券を出す。
「ニンニク入れますか?」
「入れてください」
と、答える。ここは、マシはないのだ。
あとは待つばかり、となれば『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。現在はハロウィンイベント開催中。新しいリリーは来ないのでのんびりしたものだ。おでかけを仕掛けたりしていたが、タイミングがよかったのか麺がそろそろ上がってきそうな雰囲気。
出撃は控えて待つことしばし。注文の品がやってきた。
「おお、なんかにぎやかだ」
デンと盛られた野菜の上には鰹節が掛かり、その上にはカイワレ大根。麓には、ほぐし豚と豚の肉塊と煮卵と刻みニンニク。見目鮮やかである。さらに、付け合わせに小皿で玉ねぎの酢の物。これは、後のお愉しみ。
「いただきます」
箸とレンゲを手に、まずは、まぜる。
そう、これは、汁なしである。
混ぜねばならぬのだ。丁寧にレンゲで野菜を抑えながら麺を引っ張りだして慎重に混ぜていく。こぼさないように、ゆっくりと。
じれったい。だが、混ぜなければ完成しないのだ。
天地を返す感じになったところで、出てきた太く平たい麺に喰らいつく。
「おお、ポン酢」
タレの味がガツンと来る。しかし、それだけではない。混ぜるにつれ、豚や醤油の風味もガツガツ来る。
そう、この混ぜそばは、ベースの豚出汁に醤油・塩・ポン酢のタレ全部を混ぜてしまったというジャンク・オブ・ジャンクな混ぜそばなのだ。
正直、体に悪そうな味だが、それはつまり暴力的にうまいということである。
混ぜて味がなじめば、もう、細かいことはいい。
野菜を豚を麺を、バクバクと喰らうのである。
ああ、生きている。
食の喜びをダイレクトに感じる。
多幸感が脳に叩き込まれるのは、ジャンクな味わいのおかげか。
半分ほど食べれば、玉ねぎを投入だ。
「おお、さっぱり」
甘酸っぱい風味が加わり、ベースが同じでも味わいが変わるのが楽しい。
そこにさらに胡椒・一味。魚粉も加え、もう何がなんだかわからないがとにかく旨いものを喰らう。
ふと、中身のなくなった玉子が目に入った。黄身が抜けて混ざっていたのも旨味の一部だったのだろう。残った白身をかじるのもまたおかし。
勢いよく胃の腑に収めていけば、なくなるのも早い。
最後に残ったタレは、あくまでタレだ。
追い飯はないので、これは、もう、あれだ。
レンゲでずずずっといくのがいいだろう。
最後の最後まで食べ尽くし。
最後に水を一杯飲んで一息入れ。
「ごちそうさん」
食器を付け台に戻して店を後にする。
「さて、買い物に行くか」
まずは、オタロードを目指そう。
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