第350話 大阪市北区梅田のつけ麺(野菜マシマシニンニクマシマシカツオバカマシ)

「腹が、減った……」


 仕事帰り。所用で梅田に出た私は、空腹を持て余していた。


 用事が済んでからだと、このご時世の閉店時間に間に合わない恐れもある。


「よし、先に飯だ」


 かくして私は、駅前ビルをさまようこととなる。


「飲めるようになったんだよなぁ」


 対策をしつつもにぎわう居酒屋を見つつ、だが今は、酒ではない。飯だ。


 多種多様なトッピングが魅力なカレーや、お手頃価格の本格イタリアンにひかれつつ、角を曲がったところで。


「お、ここがあったか」


 野菜が沢山食える麺屋だ。


 なるほど、野菜はしっかり喰いたい。あと、麺ならつけ麺な気分だが……


「ある、か」


 ならば、もう迷いはない。


 厨房の前をまっすぐなカウンターが横断するだけの細長い店内へ。


 食券機でつけ麺の食券をとり、奥の席に着く。


 水を出してくれた店員に食券を出せば。


「ニンニク入れますか?」


「ニンニクマシマシ野菜マシマシカツオバカマシで」


 と詠唱を済ませる。


 これで、あとは待つばかりだ。となれば、『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。現在は黄金編も大詰め。おでかけを仕込んで出撃すれば、なるほど、そういうことか、というストーリーが展開される。


 と、いい頃合いになり、野菜が、つけ汁が、麺がやってきた。


「なるほど、こう来るか」


 どんぶりに頂上に軽くアブラと鰹節の乗った山盛りの野菜。ネギと玉ねぎと刻んだチャーシューの入ったつけ汁にはマシマシのニンニクがあらかじめぶち込まれ。麺の上には覆い隠す鰹節。


「いただきます」


 まずは、野菜。


「お、旨いな」


 もやしがシャキッとしつつ甘みもあり、鰹節とアブラの風味で十分うまい。つけ汁にくぐらせれば、なるほど、豚骨醤油ベースの酸味も感じるスープとも絶妙に合う。


 あまり長時間つけるとつけ汁が野菜の水分で薄まるので、軽く浸しては口に運ぶ。しばらく野菜を食っていて気付く。


「これでは、つけ野菜だ」


 そう、麺だ。すっかり存在を忘れていた。


 改めてしっかり水で絞められた硬くて太い麺をスープにくぐらせて食えば。


「うんうん、こういうのがいいんだ」


 ドロッとした魚介豚骨の定番スープもいいが、こういう清湯のサラッとしたさっぱり系もいい。ニンニクネギ玉ねぎと薬味がガッツリ効いているが、それでもさっぱりではある。


 麺を味わったところで野菜に戻る。野菜野菜野菜野菜野菜麺ぐらいの間隔で喰らう。それぐらい、野菜が旨い。


 存分に喰らえば、


「こういう状態になるか」


 麺も尽き、野菜も尽きた。


 残るのは、野菜から出た水分が残るどんぶりと、薬味と麺の残滓の入ったスープ。


 こうなれば。


「少しずつ、混ぜていくか」


 一気に混ぜるのではなく、少しずつ、バランスを見つつ。つけ汁を野菜の汁に足して少し味わう。これはこれで旨い。ある程度量が減ってバランスが取れそうなところで、残った汁をつけ汁に投入。


「よし、いい塩梅だぞ」


 即席スープ割り、成功だ。


 こうなれば、戒めなど忘れ、レンゲで心ゆくまで味わう。


 最後は器を傾けて飲み干し。


 水を一杯飲んで一息入れ。


「ごちそうさん」


 食器を付け台に戻して店を後にする。


「さて、行くか」


 用事のため、東西線の駅へと向かう。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る