第351話 大阪市浪速区日本橋の豚骨醤油(野菜マシマシニンニクマシマシ背脂マシ)

「さて、時間があるな」


 仕事帰りに映画を観るため難波の地に降り立ったのだが、上映時間まで、一時間以上があった。


「ふむ、これならゆっくり喰えるな」


 空腹を満たすべく太麺で出てくるまでに時間が掛かるタイプの店を目指したのだが。


「ありゃ? 閉まってるか」


 どうやら臨時休業っぽい。とはいえ、すっかりこの系統の腹になってしまっている。いや、大丈夫。


「なら、久々にあっちへ行ってみるか」


 現在地はオタロードの南側。このまま南下してオタロードへ入る。


 ソフマップやレトロゲームショップを越えた少し先で左折すれば、目的の店があった。


「空いてるな」


 中途半端な時間だけ合って、席は空いている。


 店頭の食券機で基本の豚骨醤油の食券を確保して店内へと。


 一番奥の席に着いて食券を出せばトッピングを尋ねられるので、


「野菜マシマシニンニクマシマシ背脂マシで」


 とサクッと詠唱を済ませれば後は待つばかり。『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。


 今日から新イベントなので更新やらが入ってあれこれしていれば時間は過ぎる。新イベントの開始を確認したところで注文の品がやってきた。


「ふむふむ」


 丼の上部には頂上に背脂が積もったもやしの山。麓には刻みニンニクと大ぶりな豚が二枚鎮座している。


「いただきます」


 まずは、スープを一口。


「お、なんか、肉だ」


 久々なので気のせいかもしれないが、肉の出汁感が強くなった気がする。醤油のとがりがなく、旨みが前面に出た丸い味わいだ。


 脂の絡んだ野菜を浸すと、もう、旨みが倍増されてとてもよい塩梅だ。これなら、モリモリ食える。野菜をたっぷり喰うのは健康的ではないか。


 ある程度野菜を消費したところで、ニンニクをスープに混ぜ込みつつ、麺を引っ張り出して啜る。


 たっぷり出汁を吸った太麺は、暑く汗をかいて乾いた身も心も満たす味わいだ。ここで、豚を囓る。散々肉の味は出汁から摂取しているが、肉を喰らっている食感が嬉しい。


 野菜を喰らい麺を喰らい豚を喰らう。欲望の赴くままに、喰らう。生きている実感が感じられる一時だ。マシマシ何するものぞ。


 あっという間に、丼の中はスープが残るのみに。


 少しレンゲで追い駆けて。


 戒めを思いだして、手を止め。


 最後に、水を一杯飲んで一息入れ。


「ごちそうさん」


 食器を付け台に戻して店を後にする。



「あ、ゆっくり喰うつもりだったのに……まぁ、いいか」


 映画まで、まだ大分時間がある。腹ごなしに、オタロード散策へと。

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