第349話 大阪市東成区深江南の中華そば(ネギ、メンマ大盛り)
「さて、何を喰ったものか……」
昨日検査のために胃腸をカラッポにしてあれこれしたので、慣らしていかねばならぬ。
そんなときに喰うべきは。
「あっさり目の麺なら行けるか?」
かくして私は、高井田を目指す。
といっても、電車の駅の高井田ではなく、バスの停留所の高井田である。
近鉄布施駅から、昔ながらの商店街ブランドーリ布施を北上してアーケードを抜けた先に、その停留所の前、角の三角地に創業から半世紀以上となるその店はあった。
「お、入れるか」
小さな店だが、地元密着型で常に一定の賑わいを見せている。回転が速いので並ぶ覚悟はしていたが、すぐに入れるのはありがたい。
店内に足を踏み入れると、先に注文を尋ねられた。ちょうど、先客の麺をゆでるタイミングだったらしく、今なら一緒にゆでられるとのこと。こういった心遣いはありがたい。
メニューは、中華そば、ワンタンメン、チャーシューメンのみ。
チャーシューメンにいきたいところだが、肉はほどほどにして。
「中華そば、ネギ、メンマ大盛りで」
と注文する。
ラーメンではなく中華そば、というところに昔ながらの店の風情がある。実際、創業六十年以上のガチの老舗だが。
注文をしてから、空いている席に座る。
出された水を一口飲んで一息入れ、『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。現在は黄金編の最終章。カトレアのターンである。おでかけを仕込んだあたりで、麺がゆであがった気配があったので出撃はやめておくことにする。
少しして、注文の品がやってきた。
「ああ、これこれ」
白地に雷文の雷文がぐるりと描かれた赤い丼。中身は、チャーシューとメンマが盛られ、その上にはたっぷりの太い刻みネギ。スープの中の麺は、うどんのような太さ。
昔ながらの高井田のラーメンだ。
「いただきます」
さっそく麺を啜れば、醤油の立った出汁の旨みを纏ったモチモチの食感。食べ応えがある。関西ではうどん出汁の東西の違いのように醤油より出汁をメインにした旨み甘みのあるものが好まれるが、これはどちらかといえば関東に近い。この界隈は古くからの工場街でもあるので、汗をかいた労働者向けに塩分高めにしたとも言われる。
とはいえ、それだと関西人には少々濃すぎるのだが、この店は比較的この系統の中でもマイルドな味わいである。
この味の中で、メンマは比較的あっさり目でコリコリした食感を楽しみ、ネギの辛味がいいアクセントになる。
豚も、タレなどに付けられていない素朴なものだが、この出汁と合わせて豚そのものの旨みを楽しめる。
ズルズルと麺を啜り豚を囓りメンマを囓り。
歴史のある味を楽しんでいれば、
「もう、終わりか」
丼の中には、スープが残るだけになっていた。
少々味が濃いめであるが、具材的にも出汁的にもあっさり系の麺だ。胃腸のリハビリにもちょうどよかったのか、さらりと食べ尽くしていた。
ここまで喰えば、最後まで行こう。
丼を持ち上げ、スープをゴクリと。
若干の塩分が高いが、夏場には塩分補給も大切なのだ。
そう自分に言い聞かせ、飲み干す。
最後に水を一杯飲んで一息入れ。
「ごちそうさん」
会計を済ませて店を後にした。
「さて、帰るか」
ジメジメした梅雨空の下、家路を辿る。
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