第341話 大阪市西区新町の豚ラーメン(麺250gやさいマシマシにんにくマシアブラマシカラメマシ)

「腹が、減ったな……」


 ゴールデンウィークもあっという間に過ぎた。世情が世情だけに、特に何もない日々を過ごしていたが、食事ぐらいは少し豪華に行きたいモノだ。


 そうして、腹の虫に導かれるまま、


「雨、か」


 雨の振る町へ出て、


「こっちからはどういくんだ?」


 気がつけば、西長堀にいた。たまには、こっち方面で飯を食うのもいいだろう。


 とはいえ、いつもとは逆の方向から向かうので、少々道が怪しい。


 長堀通りを東進し、途中で北へ折れる。


「ここじゃない、か」


 大体この辺、というレベルで来ているので、核心は持てず角から覗き込んでは目当ての店がない、ということを二度ほど繰り返したところで。


「あ、あのスーパーは見覚えがあるぞ」


 逆側から向かうときに通ったスーパーが少し先に見えていた。ということは。


「もう一つ北か」


 思ったよりも少し先だったようだ。


 一つ先の道へ出て右側を見れば。


「あった」


 目当ての店の赤い看板が目に入った。


 雨の中歩み寄れば、三人ほどの待ち。どうやら、開店直前に着いたようだ。


 一番後ろに入った直後に店が開き、案内が始まる。


 傘の水を払って畳み、店内へと。


 食券機の前に立ち。


「今日は、豪華にいくのだ」


 ということでせっかくだから豚ラーメンを選ぶ。


 直後に、


「麺の量はどうしますか?」


 と聞かれる。麺は、0~500gまで選択可能だ。豚炊いもちょっとやってみたい気もするが、今日はしっかり喰いたい。となれば、


「250gで」


 と言って食券を出す。間を取ることにしたのだ。デフォルトは300gなので、これでも少なめではある。


 店内は、小さなL字型のカウンターが厨房を囲む形でこじんまりしている。入り口のコップと箸とレンゲとおしぼりを確保し、水を注いだところで四つ目の席へ案内される。入り口から詰めているようだ。席の左右には、注文の仕方を書いたラミネート加工されたポップが立てられている。これが、仕切りになっているというわけか。これはこれで解り易いな。


 席に着いて一息吐けば、先に麺量は伝えてあるので食券はセットされた状態だ。後は待つばかりとなれば、『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。現在は、黄金編でラナンのターン。ルベリスは少し欲しいが、まぁ、のんびりと進めている。


 スコアタに出撃してまぁまぁの結果を収めたところで、盛り付けの気配。ゴ魔乙を終了して、いつでも閉じられるように本を読んで待つことにする。高校の部活動を舞台とした日常系ミステリの短編集がもうすぐ読み終わるところだ。先がどうなるか、わたし、気になります。


 無情にも、主人公が核心を告げたところで、前の人からコールが始まる。本をしまい、少しすると。


「ニンニク入れますか」


「ニンニクはマシで、あとはヤサイマシマシアブラマシカラメマシで」


 考えてあった呪文を詠唱する。お残し禁止を念押しされるが、既に複数回喰っている上に現在は十分な空腹。問題ないだろう。


 少しすると、マシとは思えない小山の麺が出てきてまだ面喰らうが、別皿で大盛の野菜がやってきた。どうやら、マシマシはデフォで別皿になるようだ。


「なんか、サラダ付きみたいで健康的だ」


 たっぷりの麺に野菜が被さりニンニクが盛られ、その上は褐色のアブラで覆われている。アブラの中には、たっぷりの豚が野菜に寄り添って並んでいる。


 別皿は、丼に満タンの野菜が盛りつけられていて、こちらも褐色のアブラに彩られている。


 更に、別皿にアブラ。ちょっとやり過ぎたか?


 いや、大丈夫だろう。


「いただきます」


 別皿のお陰ですぐに麺に辿り着けるのはありがたい。早速麺を引っ張り上げて頬張る。


「おお、なんか、トロトロだ」


 乳化したスープと適度なアブラを纏った麺の第一印象がそれだった。だが、囓れば歯応えがしっかりある。喰っている気になる麺だ。


 そこに、別皿の野菜をスープに浸して喰らう。アブラぎったスープを纏っても野菜は野菜。健康的だ。


 山を崩すスリルはないものの、食べやすくていいだろう。


 麺を野菜をバクバクいき、豚を囓る。


「ホロホロ……」


 チャーシュー麺ではなく豚ラーメンを名乗るだけ合って、これは焼豚チャーシューではなく煮豚だ。趣は角煮。これだけでいいおかずになりそうなものが、たっぷりと。


 ニンニクをスープに浸し、豚も沈め、野菜を適宜放り込みながら麺と一緒に喰らう。ときおり引っ張り上げた豚を喰らっても、まだまだある。


 先に野菜の中身が空になったが、麺はまだたっぷりある。そこに別皿アブラを投入して、更にどろり濃厚豚味にする。


 麺を豚をモリモリ喰らう。贅沢な一時だ。


 そうして、喰らい尽くしてスープだけになったところで、レンゲで追い駆けると。


「まだ、豚が……」


 喰らいきったと思った豚が一枚、沈んでいた。喰らう。スープとアブラでコーティングされた角煮は旨味の塊だ。ホロホロトロトロの食感をニンニクを孕みつつもしっかりと主張する豚出汁のガツンと効いたスープが包み込む。


 旨い。


 そうして、今度こそ食い切った。


 脂が浮くスープを二、三回。


 レンゲで口へ運び。


 最後に水を一杯飲んで一息入れる。

 

 口を付けた部分がテカテカになったのは、ご愛嬌。


 食器を付け台に戻し、おしぼりを入り口のカゴに放り込んで、


「ごちそうさん」


 店を後にした。


「腹ごなしに、歩くか」


 どうせなら、難波まで行こう。


 まずは、西大橋方面へと、足を向ける。


 


 




 

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