第339話 大阪市浪速区難波中の辛肉らーめん

「買うものは、買ったか」


 ゴールデンウィークが始まっていた。だが、今年のゴールデンウィークは厳しい制限が課せられている。


 買い物に訪れた日本橋界隈も、閉まっている店が多い。


 昼飯を食いにオタロードを抜けたところで。


「ここも、か」


 休業のお知らせの張り紙をあちこちで目にすることになった。


 そうして、目当ての店についたのだが。


「ありゃ、ここも、か」 


 そんな気はしていたが、シャッターが閉まっていた。


 となると、開いている店から、か。


 幸い、オタロード界隈の店は結構開いていた。もう一度、戻ろう。


 オタロードを北上していく。


 歩いて腹も減っている、ガッツリ行きたいところだ。


 そういえば、今日は29《肉》の日だったな。肉を喰らうか。


 そう思って、肉の店に行ったのだが。


「並んでいる、か……」


 並んで待てるほど、腹の虫が猶予を与えてはくれない。諦めよう。


 いつも並んでいる店ではあるが、雨のこのご時世ならいけると思ったのだが。馬肉丼、旨そうだったのに……


 そうして、オタロードの北端近くへ到達し。


「ラーメンか、ナポリタンか……それが問題だ」


 二つの店の前で、選択に迫られる。


 ふと、時計を見ると。


「ん? 14時丁度……なら、ラーメンだ」


 という訳で向かって左のラーメンを選んだ。


 店に入ろうとしたところ、店員が入り口に据え付けられた券売機へやってくる。見ていると、麺大盛100円のボタンを無効化し、麺大盛無料のラベルを上に貼り付ける。


 そう、14時から麺大盛無料。この流れには乗るしかない。


「さて、何を喰らうか……」


 ノーマルでもいいのだが。


「少しは、肉を味わうか」


 辛肉らーめんというものを見つけて、食券を確保する。


 ほどほどに客の入った店内奥の開いていたカウンターへと腰を据える。


 すぐにお冷やを持った店員がやってきて食券を回収する。


「あ、これを」


 以前手にした券を見せる。これを見せると麺大盛りか、トッピングが無料で追加できるのだ。


 だが、時間的に麺大盛りは既にある。


「ほうれん草追加で」


 と券のオーダーを通し、


「麺は大盛りにしますか?」


「大盛で、味は醤油、あと、麺かため、濃さ普通、脂少なめで」


 と注文を確定させる。


 そこで徐に席をたち、入り口横の保温ジャーへ。備え付けのスプレーで手指を消毒して、茶碗にご飯を盛りつける。ランチタイムはご飯無料なのだ。


 しっかり盛られた茶碗を手に席へ戻れば、後は待つばかり。『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。現在は6周年イベントは終わり、以前のアンケートで超乙女となったアイニとマキナのイベント中。ほどほどに稼いで金メダルも確保したのでのんびりでいい。


 なので、出撃はせず、おでかけを仕込んだりしていると、すぐに注文の品がやってきた。


「ああ、家系」


 白濁したスープからは太い麺が覗き、丼の縁に寄り添う三枚の海苔。たっぷりのほうれん草。チャーシュー。うずら玉子一つ。そして中央に鎮座する辛肉。


「いただきます」


 まずは、スープを一口。普通でもしょっからいぐらいの味わいだが、これが持ち味だ。そのまま麺を啜り、その味でご飯も。麺もご飯も合わせてこのスープで頂ける。ご飯に合う麺というのも一つのコンセプトだから、こういう楽しみ方はありだろう。


 続いて、海苔をスープに浸してご飯を巻いて食べる。豚骨醤油味のおむすびだ。旨くない筈がない。


 そこで、


「辛肉、行ってみるか」


 箸で少しつまんで喰らう。


「なるほど、こういうのか」


 辛味噌味の挽肉。これは、一気に混ぜたいが、半分ぐらいは元の味で楽しもう。


 塩辛さをほうれん草でときおり中和させてバランスを取りつつ、モリモリと喰らう。


 大体半分喰ったところで、


「よし、混ぜよう」


 辛肉を混ぜ、ついでに、


「これも、だ」


 備え付けのおろしニンニクもスプーン一杯放り込む。


「ああ、ガツンとくるのがいい」


 ニンニクと唐辛子と肉の旨味が新たなステージの開始を告げる。麺とご飯が進む。


 海苔巻きもさっきと味わいが違う。ここでチャーシュー。豚の味がニンニクと唐辛子と挽肉と豚骨醤油でコーティングされて、いい、ぞ。うずら玉子も、ちょっとした変化を与えてくれる。


 もう、細かいことはいい。


 麺をスープをご飯を喰らえば、あっという間に丼の中はスープだけに。


「これは、最後までいかねば」


 満を持して生姜を放り込み。


「ふぅ、さっぱりする」


 新たな風味を得て口当たりがよくなったスープを飲み干す。


 ちょうど通り掛かった店員に手を上げれば、


「まくり券どうぞ」


 券を頂ける。そういうシステムだ。


 券をしまい、最後に水を一杯飲んで一息入れ。


「ごちそうさん」


 店を後にする。


「さて、帰るか」


 すっかり重くなった腹を抱え、駅へと向かう。

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