第338話 大阪市中央区難波のラーメン並野菜マシニンニクマシマシアブラ並

「なんとか、揃ったか」


 仕事帰りの難波で百円ショップを目指していた。片付けようにラックを追加したかったのだ。


 何かとややこしいご時世でショッピングモールなども休業しており、虹のまちの百円ショップは閉まっていたが、地上の店は開いていた。


 だが、一件目では部品が足らず。少し心斎橋方面へ歩けばもう一店舗ある、ということで、道頓堀を越えて少し先の店まで足を伸ばし、無事に必要なパーツを揃えることができた。


 後は帰るだけ、なのだが。


「腹が、減ったな……」


 ここは食い倒れの街。いくらでも喰うところはあるのだが。


「さっきの店が、気になるな」


 最初に入った百円ショップの少し先に、きらびやかな看板が出ていたのだ。


 気になったなら、行けばいい。


 道頓堀を越えて難波方面へ戻り。


 千日前通りの一つ手前の道で東へ折れる。


 先ほどの店の先に、目当ての店はあった。


「ああ、ここ、か」


 かつては麺屋があったが、いつの間にか閉店してしまっていた場所。そこに新たな麺屋ができていたのだ。


 厨房をL字型に囲んだカウンターのみのこじんまりした店内。入ってすぐに食券があるが、食券機横の席に人がいると、一度外に出ないと席に辿り着けないような、こじんまりさ。


 という訳で、外から身体を伸ばすようにして食券機へ向かう。限定が気になるが、最初は基本のラーメンだろう。


 そうして、L字の角の席へ。幸い、荷物を壁に掛けるスペースがあり、すっきりとカウンターへ着くことができた。


 食券を出すと、


「そこに希望を書いてください」


 と言われて見れば、小さな紙に、麺、ニンニク、野菜、アブラの量に丸をするようになっていた。アクリル板のように席の区切りにはコールのことが書いてあるのだが、どうやら紙に書くシステムのようだ。なんだか、こう、昔から一人ずつ席が区切られていた席を思い出す。


 全マシマシは写真を見るとそれなりの量。最初は加減を掴む為に。


 麺並、ニンニクマシマシ、野菜マシ、アブラ並に丸をして、食券と共に出す。


 席に置いてあるコップに水を注いで一息。


「お、レモン水か」


 結構しっかりレモンの風味がついていて、これだけで旨い。


 ちょっと嬉しいサプライズに浸りながら、『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。6周年イベントは終わり、今日はリーグ戦のみだ。火属性なのでリリーは出撃出来ないので他の出撃する使い魔を選んで、足りない強化をしていると、それなりに時間を喰ってしまう。出撃は諦めておでかけだけ仕込んだところで、注文の品がやってきた。


「マシだと、大分大人しめか」


 チラリと見えた分には野菜はしっかり入っているが、スープに沈んでいるようでそこまで山になってはいない。


 野菜の上にはアブラがそれなりに、ニンニクどっさり。そして、厚切りのチャーシューが二枚。


 オーソドックスな見た目だ。


「いただきます」


 まずは、スープを頂けば。


「お、こういうのか」


 マシマシをするタイプのところではガツンと醤油が立っていたり豚が攻めてきたりするが、出汁のしっかりしたまろやかな豚骨醤油味だ。これもまた、いい意味のサプライズ。


 アブラを少し溶かし込んでこってりさせるのもよい。野菜を搦めても旨く、引っ張り出した太くて固いツルッとした麺もまた、いける。


「ニンニクはマシでよかったかな?」


 これだけ元のバランスが採れていると考えさせられる。ニンニクが合わない訳がないので、少しずつ溶かし込みながら、麺を野菜を頬張り、ここぞと豚を囓る。


「これもいいな」


 極厚のチャーシューは丁寧な味わいだ。スープに合わせるとまた、よい。


 飛び込んだが、これは、近隣の同系の店とは一線を画す味で、選択肢が増えたな。


 嬉しい誤算に腹の虫を満たしながら、一味を振り掛ける。合わない訳がない。だが、入れすぎるのも躊躇する味わいなので、ほどほどに。


 じっくりと味わって、気がつけば、麺は消え、野菜も消え、豚も消え。破片がスープに沈むのみ。


「ここで少し、試すか」


 昆布酢が置いてあったのだ。途中で味が変わりすぎるのを避けていたのだが、最後に入れるのもいいだろう。


 さらっと回しかけて、レンゲでスープを啜れば。


「なるほど」


 酸味と出汁で全体がさっぱりとする。これなら、スープも飲み干せそうだが、アブラの量が減った訳では無い。


 汝、完飲すべからず。


 名残を惜しんで数度レンゲを丼と口の間を往復させ。

 

 最後にレモン水を一杯飲んですっきりして気持ちを切り替え。


「ごちそうさん」


 壁から荷物を下ろして店を後にした。


「さて、帰るか」


 予期せず旨い麺にありついて膨らんだ腹を抱え、駅へと。

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