第337話 大阪府茨木市新庄町のラーメン200gニンニクマシ野菜マシマシアブラカラメ一味マシマシ

「ギリギリ、だったな……」


 何かとややこしいご時世。明日からはあれこれ休業となる時期に、茨木にて滑り込みでのTRPGセッションだった。勿論、会場自体の対策は万全ではあるものの、状況的に致し方ない。


 それはそれとして、魔法使いとしてとても楽しい時間を過ごした後。


「腹が、減ったな……」


 そんな訳で、卓を囲んだ面々と別れ、阪急茨木駅方面へと向かう。


 しばらくこれないなら、今日は喰っておきたいのだ。マシマシを。


 かくして、阪急茨木駅からほど近い、東西通り沿いの店舗へとやってきた。


「ふむ、並んでいるか」


 若干だが、店先に列ができていた。ここは、中にも待機列があるので、そこそこの列。普段なら、次の機会にしようか、と検討するが、今日はそうもいかない。


「並ぼう」


 まずは、食券を確保し、列へと入る。すぐに、食券の確認があり、思ったよりも短い時間で店内へと。


 壁沿いの待機用の椅子に座り、セッションの心地良い疲れを感じながら一息入れる。


 手際よくロット単位に誘導しているようで、しばらくすると一気に席が空く。食器を下げて消毒の後、アクリル板で仕切られたカウンターへと。


 荷物を置いて、おしぼりと箸とレンゲと水を確保する。全てセルフだ。


 そうして、『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。現在は6周年イベントの学園乙女のターンであり、奇しくも今日は6年前にプレイを開始した日でもあった。


 記念すべき日にTRPGをしてマシマシを喰いにこれる巡り合わせに感謝しながら、おでかけを仕込んだりしていると、厨房では麺あげが始まっていた。先に麺量は確認されているので、席に着く頃には茹で始めていたのだろう。


 出撃する余裕は無さそうなのでゴ魔乙を終了したところで、


「ニンニク入れますか?」


 詠唱の時間だ。


「ニンニクマシ、ヤサイマシマシ、アブラマシ、カラメ、一味マシマシ」


 と呪句を唱える。これで、抵抗にマイナス1を付けよう……と、さっきのセッションのイメージが残っている。


 と、注文の品が目の前に。


「ふむふむ」


 丼がでかいので、マシマシはこんもりと盛り上がった裾の広い山となり、麓にはニンニク、斜面には大きく分厚い豚が2枚寄り添い、全体を唐辛子が赤く染めている。


「いただきます」


 まずは、野菜。唐辛子の風味がしっかりと効いていて、食欲が刺激される。


 そのまま、裾から箸をツッコミ麺を引っ張り出す。バキバキの麺は噛み応えがあり、嚙めば嚙むほど旨味が出てくる。野菜と麺を適当に掴んでは貪る喜びにしばし浸る。


 ある程度丼上にに余裕が出たところで、麺を引っ張り出して天地を返す。その際、野菜の山の唐辛子と沈んでいったニンニクをしっかりとスープに馴染ませる。


 そこに、別皿で来ていたアブラも足す。


 レンゲでスープを啜れば、カプサイシンとアリシンのコラボレーションをアブラが纏めつつ人類の叡智の旨味が引き立てるセッションが口内で展開される。ああ、いいぞ。


 その旨味が残ったまま、豚を囓る。素直な豚の味わいに、豚の出汁が乗ってブーストが掛かる。旨味のダイスが口内で振り足され食欲が加速する。


 麺を野菜を豚をスープを。


 貪欲に貪る。


 ああ、旨い。


 セッションの後の身体に染みわたる。


 マシマシはいい。人類の生み出した文化の極みだ。


 なんだか脳内が混線しているが、どうでもいい。


 こみ上げる多幸感に身を任せていれば、


「終わり、か」


 麺も野菜も豚も食い尽くし、残るはアブラの浮くスープのみ。


 レンゲで少し追い駆けて名残を惜しみ。


 最後に、水を一杯飲んで口内をリフレッシュし。


 付け台に食器を戻し、


「ごちそうさん」


 入り口のカゴにおしぼりを放り込んで店を後にした。


「今日は、阪急でいいか」


 重くなった腹を抱え、阪急の駅へと足を向ける。

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