第336話 難波千日前のラーメン(ごはん、キムチ・ニラ・ニンニク無料)

「さて、飯を食おう」


 仕事の帰り。今日は映画を観ると決めていた。だが、それまで腹の虫が大人しくしているはずもない。


 ならばと、難波の劇場近くへと足を運ぶ。


「久々に、ここにするか」


 道具屋筋の手前、昔からある店へと足を運ぶ。


 壁のないオープンな店内は、畳付きのテーブル席が並ぶ独特な創り。そこにアクリル板が加わっているのが、ご時世か。


 入り口の券売機へと向かう。


 メニューは二つ。「ラーメン」と「チャーシューメン」のみ。変わらない。


 肉々しくする必要もなく、ラーメンの食券を買って奥の厨房へと向かう。ここに食券を出して、できたら取りにいくのが昔からのスタイル。


 だが。


「無料の、こちら、どうされますか?」


 食券を出して効かれたのは、ごはん、キムチ、ニラ、ニンニクの有無。かつてはジャーと器から取り放題のシステムだったが、今は店員が入れてくれるようになっているようだ。


 それなら、こう応えよう。


「全部お願いします」


 少しして、二つの発泡スチロールのカップ。一つはごはんがしっかり盛られ、もう一つにはニラとキムチとニンニク。


 それらと、コップを受け取って手近な席へと。


 水だけはセルフだったので給水して人心地。『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!』を起動する。現在は、6周年記念の最後。学園乙女のターンだ。五悪魔のターンではリリーのランクを上げて無事にBGM付き5枚を確保して一息だが、せっかくなので少しはルベリスを推しておこうと思い、ルベリスレイヴは確保済み。大丈夫、あれが、今回の6周年イベント最後の一葉だ……


 などと思いながら出撃しようかとしたところで、厨房から声が掛かる。


 ゴ魔乙は後にして、靴を履いて厨房から麺を確保し、再び靴を脱いで席へ着く。面倒だが、これがこの店の味でもある。


「そうそう、これこれ」


 薄褐色のスープに、中細ストレート麺。大ぶりなチャーシュー三枚と刻みネギ。シンプルな様相だ。漂う獣臭もまた味わい。豚骨鶏ガラスープの香りだ。


「いただきます」


 早速麺を啜れば、やや甘みのあるスープの味わい。臭いほどどぎつくないが、ほどよく獣の出汁は感じる。


 そこを米で追い駆けるのがいい。ごはんにも勿論合う。チャーシューを囓ればこちらもタレの甘みを感じつつ、ごはんが進む。


 麺を啜りスープを飲んでごはん。チャーシューでごはん。


 そんなことをしていると。


「ごはんが、尽きたな」


 麺半分ほどで終わったが、大丈夫だ、問題ない。


 靴を履いて再び厨房へ。


「ごはんおかわりください」


 安心のシステムで再び米で満たされたスチロール容器を手に席へと戻る。


「ちょうどいい。ここから次のステージへと移ろう」


 これまで控えていた、ニラ、キムチ、ニンニクをドバッと麺に入れる。


 スープに緋色が加わる。


 まずは麺を啜れば。


「おお、ニンニク……」


 辛味もそれなりにあるが、ニンニクガッツリの味わいに早変わりだ。こうなれば、獣臭も中和されて旨味だけになる。


 勿論、ごはんも進む。というか、ニラとキムチを掬ってそれをおかずに喰うのもまた一興。スープと混ぜても楽しめる。


 麺を、米を。


 昔からの馴染みの味で堪能する。


「終わり、か」


 麺も米も尽きた。


 こうなれば、スープも。


「ふぅ」


 丼を手にゴクゴクと飲み干すスープの旨味。凄く、ニンニク味です。だが、それがいい。


 最後に、水を一杯飲んで一息入れ。


「ごちそうさん」


 食器を返却口に返して店を後にする。


「少し時間があるが……劇場へ向かうか」


 名探偵の活躍を観るため、劇場へと足を向ける。


 

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