第331話 大阪市中央区宗右衛門町の神戸牛26ラーメン

「今日は、なんかいつもと違うところな気分だな」


 難波で降りて細々とした日用品の買い物を済ませた後。


 空腹を満たすべく南へ向かおうとしたところで、ふと、そう思ったのだ。


 食い倒れの街だ。たまには道頓堀方面へ向かうのもよいだろう。


 虹のまち、あるいは、なんばウォークを日本橋方面へ抜けて地上へと上がる。正面にはご飯お代わり自由の定食屋が少し離れて二軒ある。


 だが、そこは比較的利用率が高い。


 もっと、北へ行けば、別の定食屋があったはずだ。


 よし、そこへ向かおう。


 堺筋の西側をまっすぐ北上していく。何かと飲食店はあるが、目的を決めたなら、そこまでいかねばなるまい。


 ドラッグストアを超えて、道頓堀を渡り。


「あれ?」


 どうやら、長らく来ていない間に、目当ての定食屋は撤退していたようだ。だが、その跡地に。


「神戸牛?」


 高級そうだが、そうじゃない、ラーメン屋ができていた。


「ふむ、これも何かの縁か」


 店は変われど目的地だ。入ろう。


 黒みを帯びた落ち着いた木造の店内は、広めの厨房をL字に囲むカウンター席と、テーブル席が幾つか。ゆったりした配置だ。


 とはいえ、一人である。カウンターの方が落ち着くというものだ。


 先客はおらず、席は選び放題。一番奥のカウンター席に陣取り、メニューを見るが。


「潔いな」


 神戸牛のラーメンだが、26な感じでマシマシできるようだ。


 麺は200gらしいので、そこまでではないだろう。


 注文を取りに来た店員に、


「野菜マシマシ、ニンニクマシ、アブラマシ」


 とオーダーする。ニンニクは希にマシマシにすると常軌を逸した量が来ることがあるので少しひより、他と違うアブラはマシてみた、というところだ。


 サイドメニューの肉寿司とアルコールがあるが、それは、いいだろう。


 これで後は待つばかり。『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。現在はリリーが和服でカフェをやっている。とてもよい。苺大福を出撃して集めて限界突破をやりきるべく出撃していれば、時はすぐに流れ。


 注文の品がやってきた。


「ふむ、大人しめ、か」 


 店自体がどうも神戸牛屋がラーメンを出しているという雰囲気が消えずジャンキーになりきれていないように感じてしまうのは思い込みか。


 こんもりと盛られた野菜はキャベツとモヤシと人参のスライス。赤は珍しい。

 麓には、思ったよりも控えめな刻みニンニクと、頂上には、


「肉、だな……」


 脂というか脂が多い肉、という風情のモノが載っている。


「いただきます」


 まずは、スープを頂くと。


「ん? なんか覚えがあるが、なんだろう?」


 豚ではなく牛という時点で味わいが変わるが、その上で、丁寧に出汁を取って醤油を合わせた味わいなので、やはりジャンクというよりむしろ上品とも言える味だ。


 ニンニクを混ぜて、少しジャンク感が出てきたか? 脂も、もう、普通に具材の肉のような雰囲気である。


 シャキッとした野菜をスープに潜らせ、ある程度減ったところで麺を引っ張り出す。ツルッとした太いストレート麺だ。うどんのような……ん?


「あ、これ、肉うどんの味だ……」


 元も子もない感想になってしまうが、どうしても、肉の出汁が効いていて、ケミカルなアレンジが加わっていない出汁だと、そちらを連想してしまうのだ。


 脂も、肉うどんに入ってる白いとこ、って感じで。


「これはこれで、いけるな」


 期待していたジャンク感はないが、これはこれである意味大阪らしい味なのかも知れない。神戸牛だけど。


 量もほどほど。


 野菜で薄まってきたところには、胡椒を振り掛けて味を引き出す。この胡椒も、粗挽き黒胡椒ではなく、一般的な粉末のラーメン胡椒というやつだ。


 ふむ、いける、な。うどんに胡椒もそれなりに合うからな。


 どうにも、調子が狂うが、これはこれでありだろう。


 気がつけば、麺も野菜もなくなり、脂の浮いたスープが残るのみ。


 レンゲで追い駆けていくが、この手の麺にしては脂感がないので飲み干せそうだが。


 汝、完飲すべからず。


 唐突に思い出したフレーズでブレーキを掛ける。


 最後に、水を一杯飲んで一息入れ。


「ごちそうさん」


 会計を済ませて店を後にした。


「さて、帰るか」


 駅へ向かうべく、堺筋を南下する。

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