第329話 大阪府大東市赤井のラーメン小ヤサイマシマシニンニクアブラカラメチーズ

「まだまだ、夜が早いな……」


 普段は夏場だけの用事が、今年は諸事情でこの季節にもやってきた。仕事帰りに済ませてきたが、夏場に比べれば周囲がすっかり暗いのが新鮮だったりもした。


 そうして用事を済ませて枚方方面からの帰りの電車に揺られていたのだが。


「腹が、減ったな……」


 普段こない方面だ。これは、どこかで途中下車して喰いに行くのも一興だろう。


 というか。


「ここで降りる、よな」


 住道だった。


 駅を出て歩道橋の途中で脇道に折れる。そのまま真っ直ぐ道なりに進んでいき、立体交差で右折。


 それが、前回確認した目的の店への最短距離だ。ショッピングモールの一階だが、坂道に埋もれるように半地下になった店舗が見えてくる。


「流石に列はないか」


 いつもならこの時間帯なら行列ができているのだが、このご時世だけに状況が異なるようだ。少し先の階段から折り返して店へと。


「あ、限定はないか」


 できれば限定と思ったが、売り切れのようだ。


 ならば、ノーマルでいいだろう。あと、チーズぐらいトッピングするか……と。


「麺は減らさないとな」


 デフォの麺は流石に多いので、白い洗濯挟みで小にする。


 四角い厨房をL字に囲むカウンター席だけの店内に席は一つだけ空いているが、まだ準備ができていないようでソファーで待たされる。


 なんだかそわそわしてくるのは、店内BGMが虎柄ビキニのラブソングだからだろう。


 ほどなく、一番端の席に案内される。走ると美事に転びそうなBGMだが私は強いので大丈夫だと言い聞かせながら席へ着く。が、荷物を置いてすぐに席を立つ。逆側の奥にある水とレンゲと箸とおしぼりが読んでいる声がしたのだ。心伝える合い言葉かもしれない。


 全てを確保して席に着いて一息。食券を厨房から見えるように置けば後は待つばかりだ。『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。今回のパラレルワールドラブコメイベントは、比較的ゆるやかに過ごしている。解放されたボーナスステージを一度出撃すればAPは尽きる。そこからは無理せず、おでかけを仕込んで終了。


 店内BGMを聞きながらゆったりと待つことにする。いつも薔薇色に燃えてハプニングでまいっちんぐな曲に身を委ねていると、


「にんにく入れますか」


 詠唱の時間がやってきた。


「ヤサイマシマシ、ニンニクアブラカラメで」


 と唱えれば、丼が目の前にやってくる。


「LはラージのLだよなぁ」


 どっさり盛られた野菜にはアブラとカラメが掛かり、ふっと流れてくる醤油の香りが心地良い。麓のニンニク、厚切りの豚、山の一角を覆うチーズ。磁石が自然に引き合うように全てが渾然一体となった丼だ。


 これは、この唇にテカるアブラを乗せていかねばなるまい。


「いただきます」


 レンゲで崩れないように防御しながら、野菜を食す。


 アブラとカラメで味わうほくほくのモヤシ。クタクタではなくシャキッとした具合がいい感じだ。


 チーズはそのまま行かず、混ぜ込んでいき、野菜の下から麺を引っ張り出す。物理学的には今の私は天地返しの一歩手前なのだ……って、あれ? このテレビで流れてた歌詞は2番のはずだが何故1番で流れたんだ?


 店内BGMに混乱するが、まぁ、食を進めようではないか。


 慎重に麺を引っ張り上げて、喰らう。野菜である程度緩和されているからか、ガツンとくるような醤油感はなく、出汁の味わいが強い。仄かにチーズの風味と、ニンニクのパンチはあるが、それはそれとして。


 ズルズルバクバクと、麺をいただき、豚を囓る。肉を喰らってるというのが存分に感じられて心地良い。


 後は本能の赴くままに野菜野菜麺麺野菜野菜野菜麺豚野菜野菜豚麺麺野菜……


 体の奥から熱がこみ上げ、汗が滲む。抱きしめた心の小宇宙が熱く燃えているようだ。


 気がつけば、


「終わり、か」


 追い駆けても龍玉はないが世界で一つの食の物語はあったかもしれない。


 最後に、水を一杯飲んで一息入れ。


「ごちそうさん」


 おしぼりを店外のカゴに入れて、店を後にする。


「さて、帰るか」


 すっかり昏くなった夜の大東市を住道駅へと向かう。



 



 

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