第326話 大阪市浪速区日本橋のインスパイヤ系麻婆麺(ライス・搾菜つき)
「ここで終わるとか辛い……」
休日を利用してなんばに出て、全六章予定の劇場アニメシリーズの第一作を鑑賞した後のこと。
期待以上に楽しめて、色々のめり込んだところで、ガツンと一発食らわして次へと続いていくのは導入として美事としかいいようがないものの、次が待ち遠しいという辛み。
とはいえ、秋まで待つしかないのだから、ここは気持ちを切り替えて。
「それはそれとして、腹が、減った……」
上映終了は昼過ぎ。当然の生理的反応である。
商店街の居酒屋ランチを眺めるも、どうにも、ピンとこない。
今は、何腹だ?
そのまま道具屋筋を抜けて、なんさん通りを越えて左折し、オタロードへとやってきた。
「さて、何を喰おう?」
ナポリタンも魅力的だし、家系もいい。肉もいい。
だが、どうにも後一押しがない。
そうして少し南へ進んだところで。
「インスパイヤ系?」
小さな厨房をテントで囲った屋台のような店舗に、そんなメニューが出ているのが見えた。
「ふむ……辛みを辛味で払拭するのはどうか?」
というよく解らない理論が構築されたことで、最後の一押しが入る。
なので、テントを潜って店内へ。
二人並んで食べられるカウンターが厨房を挟んで向かい合い、二人がけのテーブルが手前に二つ。それだけの小さな店だが、幸い、少し昼を過ぎているのも合って空きはあった。
向かって左のカウンターへと通される。足元の籠に荷物を入れ、座席に据え付けのグラスに水を注いで一息。
カウンターにも、通常メニューとは別に気になったメニューが置いてあった。
「これをください」
サクッと注文を済ませれば、あとは待つばかり。『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。現在、ロザリーメインのイベントでボーナスステージが解放されたところだ。アクティブポイントは大量に手に入るがAP消費も激しい。ゆえに、まだ、回復していない。
ざっと状況を確認するにとどめて終了する。
休日らしく、少しぼんやり過ごすのもいいかもしれない。
ほどなくして、注文の品がやってきた。
「なるほど、インスパイヤ系……」
特に山盛りというほどではないが、それでもたっぷりのもやし、麓には刻み葱、挽肉、刻みニンニク。そして、頂上の卵黄。元のマーボー麺に増増トッピングというわけか。
さらに、搾菜の乗ったごはんもついてくる。これはお代わりも可能らしい。
そろったところで、
「いただきます」
まずは、もやしをスープに浸して一口。
「ん? これは、分離している、か」
どうにも味が薄いというか、餡の上澄みを呑んでいるような感じ。
「これは混ぜてしまうのがよさそうだ」
天地を返すのとは違うが、麺を引っ張り出し、挽肉ともやしとねぎとニンニクを沈め、卵黄も混ぜ込んでしまう。
赤黒く全体が染まったところ再びもやしを食せば。
「おお、まろやか、か」
スパイスの強い麻婆麺だが、もやしで適度に緩和されて食べやすくなっている気がする。ニンニクも、ここまで香辛料が聞いている中だと香りの足し算にだけなっている。もちろん、旨い。
挽肉の旨み、ねぎの違う方面の香味。それらで食う太めのストレート麺。
腹の虫が楽しく満たされていくのを感じる。
しかも、この味を米で追いかけることができるが嬉しい。
だが、順番に食うのもどうにももどかしい。
「こうなったら……」
欲望の赴くまま、丼から麺を引っ張り出しては口に頬張り、胃の腑へと収める。餡といった方が良いぐらいのトロトロのスープがしっかりと周辺の具材を巻き込んでくるので、ズルズル喰うだけで全体を味わえる。
そのまま、麺を食い尽くしたところで。
「後追い授スープだ」
徐に米をスープに飛び込ませる。一足早く言った麺の後追いだ。
喰らえば、香辛料ガッツリの麻婆豆腐にご飯を入れた味がした。
「これはこれで麻婆丼、か?」
元が、麻婆丼ライスを麺に変更のような側面があるので間違ってはいない気がするな。
麻味と辣味の本格麻婆豆腐の味わいで麺と米を頂けるのは、とてもよい。インスパイヤ系でもやしガッツリもまた、いい。
米をレンゲでガツガツ喰らえば、丼の中の全ての旨味が渾然一体となって口へとやってくる。素晴らしい。
心地良く、腹を満たしていけば。
「終わり、か」
当然のように丼は空……いや、乾燥唐辛子だけは残っているが、あれは囓るとヤバイので、いいだろう。
名残惜しいが、最後に水を一杯飲んで口内を満たす香辛料の風味を流してさっぱりし。
「ごちそうさん」
会計を済ませて店を後にする。
「さて、少し歩いて帰るか」
オタロードを南へと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます