第324話 大阪市中央区南船場の小ラーメン味噌山(野菜マシマシニンニクマシマシカラメアレ)
「月の光に導かれ……」
まぁ今は朝なのだが、それはそれとして。
休日の午前。映画を観るために難波へやってきていたのだ。
『美少女戦士セーラームーン』。老若男女問わず未だに人気の高い作品だ。
その劇場版が前後編で公開されるということで気になっていたのだが、このご時世、映画館の終映が早まり仕事帰りに観に行くのが中々厳しいのである。
ゆえに、休日は貴重な映画鑑賞タイムなのである。
「中々目まぐるしかったな……」
戦いが終わり、ちびうさが未来へ帰ろうかというとき。うさぎ達の街に新たな危機が訪れる。そこで5人のセーラー戦士が、それぞれに新たな敵と戦うために立ち上がるような感じの内容だが、テレビアニメなら一人一話ずつ使いそうな内容に当然今回の本筋も含めて80分に詰め込んだものだから、展開が早い。
それでも、変わらぬテイストではある。こうして、何度も巡り会うことになるのかもしれないな。
さて、続けて後編を観ようと思えば観れるが。
「腹が、減ったな」
無理せず、日を改めるとしよう
劇場から出て、なんとなく北上する。難波界隈なら幾らでも食べるところはある。時間も12時前でタイミングもいい。
そう思いつつも、少し離れたところもいいような気がしていた。ここのところ運動不足だ。空腹だが、ここで少し運動すれば、飯が更に旨くなるのではないか?
空腹で思考がおかしくなっているだけかもしれないが、思いついたならそうしよう。
御堂筋に出て、そのまま北上する。
左手にドン・キホーテを観ながら道頓堀を越え。のんびり歩けば、大丸が見えてくる。もう、心斎橋だ。
だが、もう少し。
長堀通りを渡り、南船場の道路看板が見えたところで御堂筋から東へと入る。
「ん? なんだ、行列?」
なるほど。ちょっと洒落た感じの店だ。ここもいずれ行ってみたいが、今ではない。私の腹の虫は、腹が減ってどこへ行こうか考えたときには既に行き先を決めていた。私の足は、そこへ向かわされていたのだ。
行列の先、黄色いテントの店がその店だ。
店内を覗けば、それなりに席は埋まっているが、すぐに入れそうではある。
ならば、いこう。
入って左の壁沿いに食券機や給水器。右側はカウンターが奥まで伸び、その向こうが厨房だ。こじんまりした店舗に足を踏み入れ、食券を選ぶ。
「小でいいよな」
とラーメン小を買ったところで。
「そういや、味噌もある、か」
まだいったことがない。ならば、いこう。
トッピング扱いの味噌の食券を確保し、給水器に近いカウンター席へ着き、食券を出す。
後は待つばかりだが、水はセルフ。給水器で水を確保し、一息。
今日は比較的暖かい。ほどよく歩いて汗ばんでいた体に、冷水は染みる。
心地良く渇きを癒やしたところで、そういえば今日の白系だ。食券機横に用意されている紙エプロンも確保しておこう。
そうして、後は待つばかりとなったところで『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。現在は学園編の新章。めがねっ娘が増えたと思ったら雲行きが怪しくなったところで、ルベリスのターン。
とはいえ、水や紙エプロンをのんびり用意していたのでそれなりに時間が経過していた。軽くおでかけなどの状態を確認するだけで出撃はせず、終了。
厨房を見れば、ちょうど麺が上がるところだった。
となれば。
「ニンニク入れますか?」
詠唱タイムだ。
「ニンニクマシマシ野菜マシマシカラメアレ」
迷わず唱えれば、盛り付けが始まり。
丼が目の前にやってくる。
「これは、元気になりそうだ」
ドーム状にたっぷり盛られた野菜の山は、胡麻と一味とカラメタレで彩られている。麓には、寄り添うように大きな豚が二枚。隣には、黄色い雪の様なきざみニンニク。と、今日のアレは辛ゴマということで一味と胡麻のようだな。
「いただきます」
箸を手に色々かかった野菜を食せば、
「もう、これでいけるな」
ゴマの風味に一味とタレの旨味。これだけで野菜を食い尽くせる勢いだが、そういうメニューではない。
こぼさないように注意しながら野菜を食べつつニンニクを沈め。豚も一度沈め。開いたスペースから麺を引っ張り出す。
太く、硬く、黄色い麺。
「ああ、癒やされる」
空腹で更に歩いたことによる疲れが、糖質により回復に入る実感が湧いてくる。
しっかり効いた味噌の風味と豚の出汁。更にニンニクの味わい。それらが渾然一体となって麺を彩っているのだ。旨くないわけがない。限定トッピングの胡麻もまた、いい仕事をしている。
麺を野菜を喰らい。満を持して豚に齧り付く。
「トロトロホロホロ……」
周囲の脂は蕩け、身もホロホロとほどける塩梅。スープに沈めておいたお陰で素朴な豚の味にガツンとスープの味が絡まり、ご飯が欲しくなる味なので麺で追い駆ける。米も恋しいが、今は、麦のターンだ。
空腹と運動によって、ブーストされた食欲が、腹の虫への供物としてどんどん丼の中身を口を通して送り込んでいく。
頭がチカチカするような快楽に身を委ねる。
ああ、生きているなぁ。
食の悦びを存分に堪能していれば、不思議なことが起こる。
「ん? もう、ない?」
丼の中は、胡麻が散った茶色いスープのみ。野菜と麺の切れ端がぽつりぽつりとあるので、レンゲで追い駆けるが、それだけだ。
いや、そういうものか。
気づかぬ間に終わりの時がやってきてしまったのだ。
そういえば、腹の虫は黙り込んでいる。
もう、十分だろう。
汝、完飲すべからず。
スープを浚えるのは控え。
最後に水を一杯飲んで一息入れ。
食器を付け台に戻り。
「ごちそうさん」
店を後にする。
「さて、しっかり喰ったな……買い物もあるし、腹ごなしにオタロードまで歩くか」
南南東に、進路を取る。
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