第323話 大阪市浪速区日本橋の麻辣麻婆麺(ライス・搾菜つき)

「いい復習になったな」


 建国記念の日を利用して、ここのところ観れていなかった映画を観ようと難波に出てきていた。映画館は対策がしっかりしていて安心な空間だが、あれこれの影響で20時終映ばかりになって平日に足を運びづらいために、今日は一日ぶっ込もうという試みである。


 そうして最初に干渉したのが『名探偵コナン 緋色の不在証明』である。一瞬映像の荒さに違和感があったものの、要するには赤井一家登場エピソードを集めた総集編である。本誌でしか読んでいない身にはいい復習になったが、事前情報を仕入れて折らず『緋色の弾丸』のつもりで鑑賞して途中で総集編と気づいたのは、内緒だ。


 そうして、次の『約束のネバーランド』までの時間を使って昼食である。


 難波で劇場を出れば、自然と足が向くのは堺筋から一つ西に入った通り、通称オタロードである。


 途中でわんだーらんどを覗いたりしつつ、オタロードに入ったところで、腹の虫の向くままに、食を求める。


 色々な店があるのだが、


「そういえば、ここへ行く機会がなかったな」


 かつては特徴的なまぜそばの店舗だった後にできた店。


「うん、これは、もう行ってしまおう」


 ということで、開店直後の店内へ……と行っても、厨房前にコの字に小さな立ち食いのカウンターが並び、テント下に二人掛けのテーブルを辛うじて二個設置して周囲をビニールシートで覆っただけの店舗である。趣は囲い付きの屋台だが、それもまた味だろう。


 先客もいないのでカウンターの一番奥に陣取り、メニューを見る。


 鶏殻麻婆麺。

 麻辣麻婆麺。

 四川麻婆豆腐。

 ブラック坦々麺。


 とどれも魅力的だが、ここは基本に忠実に。


「麻辣麻婆麺で」


 と注文を通す。


 後は待つばかりとなり『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。現在はバン・アレン帯の誕生日、失礼、噛みました、ヴァレンタインイベントの真っ最中。リリーとルチカのコンビで只管にポイントを稼ぐターンである。


 とはいえ、完成までの時間が読めず出撃をする余裕があるか解らないので、おでかけを仕込んだり設定を調整したりしていると、盛り付けの気配。


 ゴ魔乙を終了しほどなく、注文の品がやってきた。


「おお、これは、本格的な四川の風格……」


 丼を満たすのは、とろみのある赤黒いスープ。挽肉と刻みネギ、乾燥唐辛子、そして豆腐の具材、中央に卵黄。そして、セットのライスは茶碗ではなく惣菜を言えるような小さな深皿に盛られており、その上には搾菜が載っている。量的には少なめだがおかわりもできるので、付け合わせと考えればむしろいい量だろう。


「いただきます」


 まずは、レンゲでスープを頂く。


「おお、麻婆豆腐……」


 ベースは鶏ガラ醤油のようだが麻婆麺の名前通り、スープと言うよりはとろみが強く麻婆豆腐の餡の趣。思ったほど辛くはない(※個人の感想です)が、麻辣をメインにスパイシーな香りが心地良い。


 そこで、麺を引っ張り出せば、太めのしっかりしたストレート麺が現れる。


 啜ってみれば。


「ああ、これ、麻婆丼のご飯を麺にチェンジしたやつだ」


 餡がガッツリ絡んで旨味がガツンとやってくる。麻婆豆腐で麺を喰う、といえば、関東の激辛系のがあるが、それとは違い完全に本格四川麻婆豆腐というのがいい。


 そうして、麻婆で満たされた口内へ、徐にご飯を放り込む。やや固めの炊き加減だが、だからこそ麻婆餡と絡んで解れる感覚も含めて旨い。


 改めて、麺を喰らう。挽肉の旨味、刻みネギの風味、豆腐の食感を存分に楽しむ。食べている間に卵黄がほどけて餡に紛れ、まろやかなコクがプラスされる。


 いいぞ、いいぞ。


「辛っ!」


 唐突に、口内を痛みを伴う辛味が遅う。


「さすがに、唐辛子は、辛いか……」


 油断してレンゲの中に紛れてきた乾燥唐辛子を思いっきり囓ってしまったのだ。凝縮された辛味。


 とはいえ、口内に入った以上はこのままいってしまおう。


 しっかり嚙んで呑みこみ、搾菜ご飯で追い駆けて少しでもカプサイシンの刺激を和らげる。ご飯が一気になくなったが、大丈夫。


「ご飯おかわりお願いします」


 お願いすれば、すぐに持って来てくれる。搾菜は追加されないが、それでも十分。


 麻婆丼と麻婆麺を交互に喰らうようにして、楽しむ。想像以上に四川料理な味わいが、本当に心地良い。


 米を喰らい麻婆餡で追い駆け更に麺まで啜れるのだ。


 脳にガンガン多幸感がぶち込まれるやつだ、これ。


 シビカラに頭をやられそうになるが、それもまたおかし。


 幸福を味わっていれば、幸腹は満たされ。


「終わり、か」


 ご飯も麺も尽きていた。


 頃合い、だろう。


 最後に水を一杯飲んで一息入れ。


「ごちそうさん」


 会計を済ませて店を後にする。


「さて、少し腹ごなししてから、劇場へ向かうか」


 いざ、我がネバーランドであるオタロードへ。


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