第320話 大阪市中央区難波千日前の限定2

「冷える、な」


 中々大変な状況になっているものの、出勤日は変わらない。

 仕事を終えた帰り道、駅までの道で体が冷える。


 こういうときは、あたたまるものを喰いたい。


「よし、麺喰らおう」


 かくして、御堂筋線なんば駅に降り立った私は、南側から脱出し、道具屋筋を抜け、肉吸で有名な店を右折。


 目的に店へと到達する。


 普段は夜の部は18時開店だが、通し営業になっているおかげで開店待ちの列はなし。中を覗けば席にも空きがある。


 早速店内に入り、


「こういうときは、スパイシーなものに限る」


 ちょうど今の限定がそういうのなので食券を確保する。


 カウンターの角の席に着き、食券を出す。


「ニンニク入れますか」


「入れてください」


 ここで、詠唱するような愚は犯さない。


 あとは待つばかりとなれば、『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』の時間だ。現在は、カトレア・ジギタリス・カモミールの邪心イベント最終章。ボーナスステージで乙女ポイントを稼いでジギタリスは☆6に上げたものの、残り2人も☆6は厳しいので何とか☆5にしたところ。ショットで合理的に選べばアポカリプスの方が欲しいので、カモミールステージをゆるっとクリア。


 そんなこんなしている間に、盛り付けが始まっていたのでゴ魔乙は終了して待つことしばし。


 注文の品がやってきた。


「おお、面白い」


 大きな丼には野菜がこんもりと盛られ、その頂点には厚めに切られた檸檬スライス。野菜山にオニオンスライスと共に鏤められたそこにブツ切りの太ネギの緑が鮮やかだ。麓には薄切り豚バラ肉と、ニンニク。滲み出るは赤茶色のスープ。


 現在の限定は、四川麻辣麺、だ。


「いただきます」


 まずは、にじみ出すスープを一口。


「これこれ……」


 唐辛子の辣だけでなく、しっかり感じられる痺れの麻。他のメニューのこってり脂ギッシュではなく、豚の旨みと麻辣の刺激がいい。冷えた体を内から温めてくれる。


 だが、これはそれだけではないのだ。


 頂上に鎮座する檸檬を手に、全体に回しかけるように絞り。最後に残った皮と身をスープに沈める。


 そうして再びスープを啜れば。


「いい仕事してるなぁ」


 檸檬の爽やかな酸味が加わり麻辣の風味が更に引き立つ。もはやこれは酸麻辣麺だ。


 そのスープで喰う野菜が旨くないわけがない。スープのスパイスに、オニオンとネギの薬味の味わいが加わって、いい。


 そして、ニンニクをスープに溶かし込んで味わう。これだけの刺激の中にあれば、ニンニクはパンチではなく風味の一つ。


 完成した味わいで、太く平たい麺を引っ張り出し、啜る。豚バラを、囓る。


 麦と豚のコラボレーション。酸麻辣の味わいで喰らうそれは、格別だ。


 脂に頼らぬ香味の組み合わせでの旨み。他のメニューとは一線を画する麺であるな。


 じっくりと味わいながら、腹の虫を宥めていく。


 内側からポカポカしてくる。


 緩やかに脳に上がってくる多幸感。


 心地良い。


 余裕をもったペースで箸とレンゲを動かしていれば、丼の中から固形物が消えていた。


「ふぅ」


 一息入れて、スープを啜る。ピリリとした味わいの後に残る舌の痺れが心地良い余韻。


 しばし浸り。


 水を一杯飲んでリフレッシュし。


「ごちそうさん」


 店を後にする。


「さて、買い物して帰るか」


 オタロードへと、足を向ける。



 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る