第318話 大阪市中央区南船場の小ラーメン(野菜マシマシニンニクマシマシアブラマシマシカラメアレ)

「眼鏡は大事だ」


 年末の大掃除。気づかないうちに眼鏡をどこかにぶつけていたのか、気がつくとレンズがフレームからはみ出してしまっていたのだ。


 レンズの角度がずれているため使い物にならず、修理に出しそびれて店も開いて折らず、予備の眼鏡で年を越すことになった。


 そうして迎えた正月二日。調べてみれば今日から店が開いているというじゃないか。これは、いかずばなるまい。


 工場修理の場合は、数日は掛かる。早めに修理に出すに越したことはないからな。


 そうして、店に持ち込み、会員証を出せば。


「しばらくお待ちください」


 ということで、店頭で待つこと十分ほど。


「どうぞ」


 眼鏡復活! 眼鏡復活! 眼鏡復活! 眼鏡復活! 眼鏡復活! 眼鏡復活! 眼鏡復活! 眼鏡復活! 眼鏡復活! 眼鏡復活! 眼鏡復活! 眼鏡復活! 眼鏡復活! 眼鏡復活! 眼鏡復活! 眼鏡復活! 眼鏡復活! 眼鏡復活! 眼鏡復活! 眼鏡復活! 眼鏡復活! 眼鏡復活! 眼鏡復活! 眼鏡復活! 眼鏡復活! 眼鏡復活! 眼鏡復活! 眼鏡復活! 眼鏡復活! 眼鏡復活! 眼鏡復活! 眼鏡復活! 眼鏡復活! 眼鏡復活! 眼鏡復活! 眼鏡復活! 眼鏡復活! 眼鏡復活!


 なんと、部品があったということで、その場で修理してもらえたのだった。


 しかも、追加部品の発注がなかったので、購入時についていたアフターケアの範囲で無料修理ということ。


「ありがとうございます」


 心からの感謝を伝え、予備の眼鏡を外し、修理された眼鏡を掛ける。


 瞬間、世界が、変わる。


 やはり、眼鏡は大事だ。


 大切にせねばなるまい。


 目的を果たしたところだが、クリアになった視界を楽しむため、少し散歩していこう。


 店のある難波から、北へ向かってみることにする。


 商店街を北上するルートを通ろうとするが、人が多い。ここは御堂筋沿いの方が空いていていいだろう。


 目に鮮やかなネオンに満ちた風景を楽しみながら、マイペースに歩く。


 とりあえず、心斎橋までを目的地に定めて、足を進めて行く。


 何やらブランドの小洒落た店が並んだ区域に入れば、心斎橋はもうすぐだ。


 だが、そこで。


「腹が、減ったな……」


 おせちばかりでも栄養が偏る。


 ここで空腹を感じたことに意味があると考えよう。


 つまり。


「麺を喰らえ、ということか」


 今日から開いている筈の店に思い当たり、向かうことにする。


 心斎橋駅を通り越し、長堀通りを渡る。


 そうして少し北上し、南船場に到達したところに、目的の店はあった。


「ん? 閉まってる?」


 シャッターが降りているように見えたのだが、近づいてみればガラス扉の向こうにブラインドが降りているだけで、下の方からは光が漏れている。


 時間をみれば、開店時間まで十分ほどあった。


 これぐらいなら、待てばいいだろう。


 先客はなく、邪魔にならない店頭で待っていると、ポツポツと人がやってくる。同じく、開店時間に合わせての人達だろう。


 先頭に並べた僥倖を感じながら、『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。どうやら、今日からイベントのようだ。神代のイメージの乙女が色々と出てきそうだが、日付が変わると同時に実装されたリリーは確保してあるので大丈夫。神代の姿のリリーがでてこなければ、だが。


 とりあえず、イベントの説明を読んでいると、店頭に灯りが点る。


 続いて、扉が開いて、


「どうぞ」


 店内へと通された。


 入って右手が厨房でその前にカウンター席が並ぶ。


 左手には食券機と消毒液、そしてセルフの水がある。


 消毒をして食券機に向かい、色々とあるトッピングに想いも馳せるが。


「いや、今日は小ラーメン(250g)でいいだろう」


 基本の食券を確保して、一番奥の席へと。


 食券を出してしまえば後は待つばかり。ゴ魔乙を改めて起動して、イベントステージへ出撃する。歌舞伎ロンゲーナ大佐とリリーがいるので、そこそこの倍率か。


 入手可能なイベントアイテムの数を掴んだところで、そろそろかとゴ魔乙を終了して待つ。


 ほどなく、


「ニンニク入れますか?」


「ニンニクマシマシで。あと、野菜マシマシアブラも……マシマシ、カラメ」


 そして、


「アレ」


 と詠唱を終える。


 この店の特徴的な日代わりトッピングをいかずばなるまい。


 そうして、盛りつけされた丼がやってくる。


「これはこれは……」


 丼の上面にドームのようにこんもり盛られた野菜。高さはないが広さがある。その上には、アブラがドロドロと。麓にはニンニクと豚が鎮座している。


 そして、野菜の山の上には、黄色いソースが、焼きそばのマヨネーズのような感じでウネウネとかかっている。これが、アレ、か。


「いただきます」


 まずは、野菜を箸で摘まむ。その際、かかったソースごといくのだが。


「ああ、カレー、だ」


 今日のアレはカレーマヨだった。スパイシーなジャンク感溢れるカレー味。とてもいい。


 そのまま野菜をカレーマヨとアブラと卓上のラーメンタレも少し追加してモリモリ食べれば、麺への導線は確保される。


 麺を引っ張り出し、野菜を沈めてニンニクをスープに溶かすようにする。


 そのまま麺を啜れば、太くて固い麺はしっかりスープを纏っているが。


「カレー、すごいな」


 そこまでの量かかっているようには見えなかったが、豚骨醤油と脂の味の中に、カレーの風味がしっかり感じられる。


 なかなか面白い味わいだ。


 カレーは食欲をそそる。


 勢いに乗って野菜を喰らう。もやしだけではなく、キャベツもしっかり入っているのが嬉しい。とはいえ、脂が豪快に乗っていて、背徳的な気分になるな。それはそれで、いいだろう。


 ニンニクが溶け込んでガツンとくる香りになったのだが、まだ、カレーは存在を消さない。すげぇ。


 この仄かだが確かに感じられるカレー風味は、隠し味的でいいな。アレを頼んで正解だった。


 麺を野菜を豚を喰らう。


 途中で、豚には胡椒をしっかりかける。ここは白と黒の胡椒があるが、あるなら両方ぶっかける。


 ピリリとした風味の中にあって、やはりカレーは感じられる。


 勢いに乗って、ガツガツと豚麺野菜を頬張る。


 あっという間に、丼の中には麺と野菜と豚の切れ端が残るばかりとなった。


 最後に、備え付けの酢を一回り。


 脂分が酸味で帳消しになるがカロリーは同じスープが出来上がったのだが。


「カレー、本当すごいな」


 これでも、カレーは負けない。決して前には出てこないが、確実に後味に存在を残していく。


 だが、それはそれでいい。


 最後まで楽しませてくれるアレじゃないか。


 固形物を追い駆けきり。


 カレー風味が常に感じられるスープを数口レンゲで味わい。


 水を飲んで、一息入れ。


 食器を付け台に戻し。


「ごちそうさん」


 店を後にした。


「さて、しっかり喰ったし、なんばまで歩くか」


 御堂筋へ出て、南下する。

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